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俺と屍と鉄パイプ。  作者: 橘月 蛍
第1.5部 状況把握、目標策定
38/47

俺と馬鹿共の肩慣らし。あと、ストレス発散。

下らない余興。

「シィッ!」


 手の平で暴れ回る得物を受け流すように振り払って、密着していた距離を空けた。


「相変わらずお前も珍妙な武器を使うよな」

「灰斗と違って筋力が足りんかったからな。同質量を振り回すならこの形が良かったのさ」


 打撃のために分厚く造られた手足の具足を再調整しながら社長が言う。

 珍妙、まさにその通りだ。直剣に刃渡りと同じだけの柄をつけた形のコレは、ロンパイアと呼ばれる武器に近いが両刃で作ってあるし重心が違う。常識人には相当扱いづらかろう。それに灰斗の大剣に合わせて柄まで金属で造ったのだから。10キロには届かないが、今の時代で振り回すには些か度が過ぎる。


「灰斗か。奴は怪力だろうに比較対象になるのか?」

「馬鹿が。比較も何も、打ち合う相手がいないだろうが。人間重機と変態超感覚だぞ? 私が今でやっと追いついたようなものだよ」


 膂力で勝てないからこそ、回避や受け流しや弾きにこだわっているんだからな。まともに受け止めたら押しつぶされるわ。


「怪力怪力ってお前ら喧嘩売ってんのか?」

「「事実だろ」」

「手前ら叩っ斬るぞ?」


 灰斗が片手で両手剣を振り払う。

 あの両手剣十数キロくらいあったはずなんだが‥‥だから、怪力などと言われるというに。


「じゃあ、ヤるか」


 社長が壁際に下がって、入れ替わりに灰斗が部屋の中央に立つ。上段に構えた灰斗を刺激しないように、長柄剣を両手で構える。

 得物の質量はこちらが下。膂力も技量も若干負けている。なら、後は速度と手数で誤魔化す外ない。


 一瞬の停滞の後、灰斗が踏み込む。鉄筋コンクリート製のフロアパネルに、ビシビシと罅が入る。凄まじい膂力で放たれる単純な縦斬り。だが、無駄のない動きは重量武器を扱っているとは思えない軽やかさで斬撃を加速する。

 下手に受けようなどと考えれば、受け流す流れに逆らって叩き斬ってくる。こんなものは回避するに限る。右手に構えた長柄剣に引き寄せられるように移動して、お返しに軽い突きをいれる。無論、あっさり躱される。

 こまめに攻守を入れ替えながら得物を振るう。時折、床だの壁だのが抉れるが些細な事だ。武器の方は壊さないように気を配っている。なんせ、特注品だからな。

 刃に拘らず、柄頭だの手足だのを繰り出して灰斗の手数を削りにかかる。竹刀かと言わんばかりに振り回される鋼鉄の塊に戦々恐々しつつ6枚目のフロアパネルが粉砕されるのをやり過ごした。


「床は壊れるが、武器は壊れない。それなんてふぁんたじー」

「そもそも特別頑丈に造ったからな」


 肩を竦めながらそう返した社長は遠い目をしていた。灰斗の両手剣は、専用に超高靭性合金を開発して造ってあり、生半可な衝撃では欠けも折れもてゆうか曲がりすらしない。ただし摩擦強度の関係で擦り減っていくのは若干早い。所詮、若干なので擦り切ろうとしたら十分死ねる。

 膂力的に大型武器が向いているはずだが、何故か灰斗は槍を使いたがるせいで、今回は自作武器を大分壊された。やはり、使うならオーダーメイドの専用武器に限る。玩具で死に掛けるんじゃあしょうもないわ。


「ちっ死ね!」

「ふ・ざ・け・ん・なっ!」


 普通に首を刈りにくる軌道を下からぶちかまして無理やり曲げる。曲げ足りない分頭を下げてやり過ごすが、髪の毛が若干もっていかれた。


「禿げたらどうしてくれるわ貴様!」

「うっせぇタコ! ちょこまかちょこまかとっ!」


 正真正銘、手加減なしの暴風が上下左右と吹き荒れるのを叩いて弾いて流す。避よけて逃げて避さけて躱かわして、空けた隙間を詰められる。間合いの違いで迂闊に近づけもしない。

 薄く掠めていく冷え切った熱に冷や汗をかきながら、口角を吊り上げて切先を見据える。どうせ、腕の一本くらいなら問題ない。こっちの寸止めさえ効きゃいいのだから。

 上段から放たれる凶撃に裏拳を全力で放つ。下手な小細工など微塵の必要性もないと言わんばかりの垂直振り下ろしは事実、それだけの威力と速度を以って放たれる。

 冷たい刀身の横腹を拳が打つ。まるで深く突き刺さった剣に拳を合わせているかのような凄まじく重い感触を腰を入れて振り払う。

 辛うじて、両断の軌道を逸れた大剣が左腕を肩口から切り飛ばすのを感じながら、右手の長柄剣を首に向かって突き出す。

 予想通り、僅かに頭を傾げる動作であっさりと躱される。突き出した右腕が伸びきる前に長柄剣の柄を脇へ抱え込み、首筋に押し付けるようにして首を刈りに行く。


「トッたっ!」

「温いっ!」


 寸止めで止めるよりも速く、大剣を振り下ろした勢いに乗って灰斗が側宙をする。不自然に止めようとした体が僅かに固まる。その僅かが致命的だ。

 跳ね上がってきた灰斗の足が、吸い込まれる様に側頭部へ叩き込まれる。グラリと視界が揺れて、体が崩れ落ちた。


「「あ‥‥」」


 迫る床との間には、刃をこちらへ向けられた大剣の姿があった。





 タップリと血反吐を吐いた後に、部屋の隅へ逃走する。

 動きまくって心拍も血圧も全開な状況でぶっとい動脈を掻っ捌かれるのは、そう死なないとは言え冷や汗をかく。とゆうか痛い。超痛い。


「アドレナリン不足で、腕と首が痛い‥‥マジで痛い‥‥」

「腕は自爆だろ」

「是非もない‥‥」


 訓練場がスプラッタになっているがそれは些細な問題だ。


「傷は塞がったか。ちょっと血液量が足りんが、動きに支障はないな‥‥」

「よくまあその出血量で済んでるなってっところだけどな」

「傷が塞がるまでの時間に対して少々少ない気もするな」


 社長が床の血を見て言う。

 確かに妙に少ない。圧がかかって散った分スプラッタ感はあるが量はそうでもないようだ。


「んー。なるほど。人間辞めてるな。よし、ちょっと見てろ」


 切り飛ばされた腕を拾って血溜まりに手を触れさせ、切断面同士を押し付けて、ちょいと気合を入れる。


「ぐむむむ‥‥ぬぬぬ‥‥」


 肩側の切断面から血が滲み出て、腕側の切断面に喰い付く。引き寄せるように腕が張り付いて、さらに手の平に触れる血溜まりが引き寄せられる。スライムみたいで非常に気色悪い。


「こう‥‥かっ!」


 床に広がる血飛沫、血溜まりをまとめて引き寄せる。いや、寄って来ているとゆう表現のほうが近いか。集まった血液が左腕に張り付くように染み込んで無くなる。


「‥‥っよし! どうだ!」

「すっかり化物だよな」

「人外乙」

「大丈夫だ! ガワはともかく中身は人間だからな!」


 溜息を吐いて手合わせを始めた二人を横目に壁際で伸びる。

 あの筋肉ダルマと殺りやった後に感じた違和感の正体がわかってスッキリした。が、結構な集中力を使った辺り、戦闘状態で意識の切り替わっている時でないと厳しい物があるな。



 その後、体力が回復する度に、傷が塞がるまでの時間を測ったり、腕を生やしてみたり、リミットを解除して、どのぐらいの負荷にまで体が耐えられるか調べたりと、変質した体の調整も兼ねて調べ続けた。



「私は、空腹だ!」

「さすがに無からとゆうという訳にもならんだろうしな。しかしこの短時間で痩せたな」

「いや、あんだけ色々ぶち撒けたらさすがに体積減るわ。あと腕一本が非常にデカイ。色々ゴッソリ持っていかれる感じするし」


 給水しながらやったが、前後で10kg近い体重変動があった。


「ちょっと栄養計算してガッツリ補給しねえと、軽すぎてすげぇ不安なんだけど」

「何キロ痩せた?」

「82.9kgから現在61.4kgだな。この短期間でこれだけ痩せたら普通体壊す。とゆうか、今の数時間だけでも8900gマイナスだからな‥‥」

「筋肉量が見た目からして落ちていることを考えると、色々足りないもの引っ張ってるのがわかるな」

「まあ、こっち来る前の時点で贅肉を殆ど消費したからな。喰いまくってある程度保持していたが、使い方もわからんと消費は激しい」


 生き残りがかかってる状況下で調査も何もあったもんじゃ無かったしなぁ。

 身体的には常に最適化がかかっている状態だから体力は問題なかったが‥‥大分堪えたな。


「ま、好きなだけ食うといい。料理するのはお前だからな」

「お前も手伝え。こいつらの食い扶持もあるんだぞ?」

「あ、オレラーメンな。醤油チャーシュー特盛りで」


 よろしく! っと手を上げて意気揚々と去ってく灰斗に、転がっているコンクリート片を蹴り飛ばしたら大剣で打ち返された。何とかかわすと既にいない。


「逃げ足の早い奴め」

「手伝ってやるよ‥‥」

「当たり前だ。まあ安心しろ。お前の分も作るさ」

「それこそ当然だろ。俺だけ飯抜きとか意味ワカメ」

「どうでもいい。腹減った」


 喚く社長を放って、食堂へ向かった。

句読点など修正。

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