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俺と屍と鉄パイプ。  作者: 橘月 蛍
第1部 悪夢の始まり、日常の終わり。
36/47

ハート・オフ 2/2

滑るように飛んでいくヘリの機内は予想していたよりもずっと揺れが少ない。かなり酔う人間が出るだろうと思っていたがそうでもなさそうだ。


龍人がゲロゲロと吐く音をBGMに、周囲を見渡す。

ヘリに乗った以上助かったと行ってもいい状況であるはずだが、ほとんどの人間の表情は厳しい。なにより空気が悪い。龍人が吐き始めたことや赤城夫婦の不審な行動は未だ不安定なこいつらには毒だろう。

両方共、先頭きって指揮していたからな。特に全く平然として色々やっていた龍人が速攻吐きに行ったのは痛い。仕方ないだろうが。

それに....赤城夫婦は何なんだろうな.....直人はパフェの砂糖がけみたいな雰囲気を出しているし、嫁の方は何故か警戒心がだんだん剥き出しになってきてる。その目はほとんどの女性陣に向けられていて、向いていないのはオレと伊藤くらいか。


「灰斗、ちょっと不味いんじゃない?」

「ん~、ちょっと、で済むんならいいけどな。」


紗那も勘付いているか。これだけあからさまなら気付くだろうな。細かい説明は落ち着いてから龍人にさせるとして、この状況を多少でも安定させないと本島に着く前にトラブルのが目に見えるな。


「綾。」

「いきなり下の名前を呼ばれると困惑するのですが。」

「それはどうでもいい。隔離できないか?」

「....一応、後部が貨物室になっています。あまり広くはありませんが二人くらいなら詰め込めるでしょう。」

「そうか。」


っとなると、オレの方で誘導せにゃあならんか。まあいいが。てか面倒くさいし端的に行くか?

公衆の面前でナニをしようとゆうのか、という雰囲気を垂れ流す二人にあまり目を合わせないように声をかける。


「おい、ちょっとお前らそっち入ってろ。静かにな?」

「....保証はしない。」


赤城嫁の首筋に突っ込んでいた顔を上げて、ぼぅっとしたように言って指し示した方へ行くのを見届ける。無造作に扉を開けて嫁を放り込むと自分もそそくさと入って行ってバタンと扉が閉められた。

直ぐにくぐもった声が聞こえ出す。壁一枚隔てているからそうでもないがガキどもに聞かせるものじゃないんだが。


「あっけないな...が、うるせぇ....」

「静かに、の部分は保証されなかったようですね。」

「見えてしまったが、入る直前でもう臨戦態勢だったな....」

「.....」


呆れを含んだオレの目線を受けた穂月はスッと顔を反らせて黙りこむ。

とりあえず、五月蝿いの(と情操教育に悪いの)を除けば、問題の片方は解決した。まあ放置すりゃそのうち力尽きて静かになるだろ。むしろそのまま永眠してろ。


「ふははっ....龍人くん...惨状....」

「字を間違って....無さそうだな...」


ゲッソリした顔で龍人がトイレから戻ってくる。大分、目が死んでるが足取りはそう悪くない。


「んー?なんだ、奴らは堪え性が無いな。人が必死で我慢しているというに。私だってお腹空いたんだよばっきゃろーうぇえええ....」

「吐くなよ!殺すぞ!」

「だ、大丈夫だ、問題無い....」


それは大丈夫とは言わないんだ!

口には出さず、微妙に距離を取る。紗那が無言で掃除道具を探しに行ったのを見送る。ザワザワと離れた奴らから、伊藤が一人だけ龍人に近づいて行く。


「ほんと大丈夫?もう一回トイレ行ったら?」

「お腹空いた......」

「えっ!?」


俯いた状態の龍人の呟きに反射的に体が動く。パッと見、唐突に動いた龍人が伊藤を押し倒すのを見て体を前に出す。

鈍い音を立てて伊藤が頭を打つ。覆いかぶさるように手を付いた龍人の動きがピタっと止まったのを見て、思い切り蹴り飛ばした。若干浮き上がるように飛んで行った龍人が壁に当って落ちる。


「え.....」

「ゲホッごはっ...あぶねー...助かったわぁ.....」


混乱した様子で倒れた体勢のまま呆然とする伊藤を尻目に、龍人が起き上がる。思わず深い溜息を吐いた。


「変態。」

「そっち!?いや間違ってないのか!?え、ええ!?」

「嘘だよ。どうした。」


立ち上がろうとして崩れ落ちた龍人が半泣きの表情で笑う。


「あー、駄目だわ。あとで良い?」

「ああ、落ち着いたら吐けよ。一から十まで。」

「ラじゃった。」


機内の角から人を退かせる。龍人はそこへ這いずるように移動して蹲った。




離陸から三時間、相変わらず異様な雰囲気に包まれた機内でカップ麺を啜る。

安定した飛行を続ける機内は、汁物も問題なく食べられる。どれもインスタントだが。


「....ふつーに腹減った。」

「んー...ほれ。」


ふと呟いた龍人に適当に食べ物を投げる。もそもそと拾いに動くのを見て声をかける。


「食ってからでいいが、どうゆう状況だ?」

「んーむぐむぐ....むぐぐ?」

「食ってからでいいって。」


龍人が食べ終わるのを待つ。

異様な雰囲気のもかかわらず、紗那のふぇっくしょぃっ!という盛大なクシャミに全員がビクッと跳ねた。


「ん、おー失敬失敬。」

「何やってんだよお前は....」

「たべたー。」

「早いなおい...説明よろしく。」

「んー、どっから説明するん?」

「最初から、だ。」

「ラジャー」


龍人が頭を右へ左へ傾げながら、説明をまとめようとする。こうゆう時は大抵まとまらないパターンだ。


「変に纏めないで、適当に話せ面倒くさい。」

「んー....

要はー事件発生するだろー?でー....感染してー.....美深行ってー.....帰ってきてー....朱いのとバトってー....色々分かっちゃった訳だよ?」

「いろいろってなんだよ。」

「至極簡単にいえば、その時に分かったのは身体の使い方ぐらいかねぇ。感染した関係で色々と知らないデータを取得したらしくて、いまいち混乱気味だったんだけどその辺も馴染んで落ち着いたよ。」

「で?」

「で?って....そんでー....いろいろ端折るかー。私の確認できた限りでは、感染とゆう表現で間違いないようなのだよ。それも血液を媒介とした高密度汚染。元ウィルスを初期感染させた被験体によって意識汚染を引き起こす悪魔のようなウィルスだにゃー.....私は三次感染に当たるがウィルス的には二次ウィルスに感染してることになる。

感覚的に私の体細胞のほぼ100%と融合した状態にあるなー。赤城夫婦は私中で変成した三次ウィルスに感染してる事になる。

意識汚染率はともかく、症状としては不適合・適合関わらず本能に基づく感情と欲求の極大化が大きなところだなぁ。

私は欲求の内、食欲、それも肉食らしい。ピンポイント過ぎて笑えてくるが、人様が旨そうなのだけは本当に勘弁してほしいものだ....直人の方は性欲か?たぶん。それも嫁限定ってゆうな。嫁の方は恐らく嫉妬かなんかじゃないかな。三人の中では直人の嫁が感情が極大化したパターンだ。

えっと、あとは.....もう少しまとめる時間がいるなぁ....」

「んーお前の状態についてはぼんやりとは分かった。どうせ調書とるだろ?あとで読むわ。」

「てゆうか....」


大概アバウトな説明に若干モヤモヤするが、納得したフリをして穂月に目を合わせて調書を読めるように伝える。アイコンタクト成功したな....。

会話が僅かに途切れたタイミングで紗那が龍人を指さす。


「な、なんぞ...?」

「右耳。」

「む?ぬぅお!?」


龍人が何となく最近の記憶よりも伸びた髪をまさぐる。右耳のあたりをペタペタと触って唸った。


「いらっしゃいませんぬ....」

「はぁ?」

「左腕生えてんのに....耳は生えないのか!?....うーん....んーーーーーっっっ.....ダメだな!」

「紗那説明プリーズ。」


唸る龍人を放置して紗那を促す。


「あれ?気付いててスルーしたんじゃないの?」

「「いんや、全然?」」

「あ、そう。ぶっちゃけベストホームから帰ってきた時点で無かったよ?」

「感染した時ですやん.....やんやん。」

「キモイ死ね。」

「辛辣でござる.....」

「で、つまり?」

「あー....多分、右耳の欠損が二次ウィルスの適合前に起きて、怪我として傷口は塞がったけど部位的には再生されとらんのだろうなぁ。感覚そのものの性能が上昇してるせいで全く気が付かなかったわ....」

「「はぁ......」」


思わず紗那とともに溜息を吐く。すっかり伸びた麺を啜って軽く黄昏れた。




結局、異様な雰囲気は収まらないまま、Lostロスト Governmentガバメント社(LG社)の本島、第一空港に着陸した。

ちょっとしたアレコレの後始末をして(むしろさせて)、ヘリから降りる。LGの社長である天凪が、ニヤけた面を晒して待っていた。


「おつかれっさ~。割りかし生き残ってるな。」

「いや、もう少し行こ残る予定だったんだがな。状況的にはほぼグリーン。ただし私を含め3人は様子見といったところか。」

「俺としては十分だがなぁ....そこの二人だな。」

「あぁ。場所は同じ場所で頼む。大分落ち着いてはいるが、まだ不安定だ。安定するのに数日かかる。」

「あいよ。穂月、医務室へ。検診後はクラス4辺りの隔離棟で広い部屋を用意してやれ。カノン、他の奴らは社員宿舎の四棟辺りに連れてってやれ、空いてるはずだ。」

「「了解しました。」」


穂月について行く三人を横目に、軍服赤髪の女性についていく。


「やっとマトモに休憩出来るな。」

「そうだね。掃討の方はどうするんだろ。」

「龍人が動けるようならオレたちで暴れまわるのも悪くないな。色々と恨みつらみ有るわけだし。」

「そうだねぇ.....余裕がなかったとはいえ、何人知り合いを見殺しにしたんだろ、トドメさしたのもいるし.....うわぁ.....」

「考えるな。今は休んどこうぜ。どうせ忙しくなる。」

「うちら一般人ワロタ。」

「乙。」

「全くもう、マジ乙だよ。」

「違いない。くっくっくふふふ....」


思わず漏れ出た品のない笑いに紗那が釣られて笑う。周りに少々不審な目で見られながらも腹を抱えて笑い出す。



あぁ、マトモに笑ったのは....久し振りだな...。





とゆうわけで、俺と屍と鉄パイプ。の第一部終了です。

次回投稿は完全に未定ですが、第一部の改稿作業は進めていきたいと思います。改稿版に関しては、別投稿になると思います。改稿が終了してからの投稿になりますので、半年以上間が空くことになるとは思いますが、見かけた時は立ち寄って頂けると嬉しいです。


今後の予定として、レーヴを進めつつ、ニコニコ動画の方で動画投稿を行いたいと思っています。無月 龍人の名前で色々なところに出没していますので興味があったら絡んでやって下さい。


では、また会いましょう!

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