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俺と屍と鉄パイプ。  作者: 橘月 蛍
第1部 悪夢の始まり、日常の終わり。
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デジャヴュ≒フェイタル

コンテナから出ると、最前面に出ていた者達が補給をしている所だった。


「もう来るな....弾は足りるか?」

「マチェットを借りましたので、私一人でも階段は問題ありません。」


何だそりゃ。オーバースペックにも程が有るわ....って人のこと言えないわな。


「ヘリに関してはコンテナ側の空きスペースに着陸する余裕がありますので問題ありませんが、スロープ側へ車を落とした影響で、スロープから上がってくる敵の数が増えています。もうすぐとは言え、油断なさりませんよう。」

「まさかの長文におっさんびっくりだぜ。」


下に作った車両バリケードが壊れたか。まあ、何台でも落とせばいいさ。すぐ来る。


「AWMの弾が有り余ってるから私と大宮で撃ちまくっておく。持つだろう。」

「紗那、距離分かるか?」

「んー....それっぽいのは2~30キロ?」

「五分前後ってところか。」


穂月が紗那の方を見て固まっている。確かに異常だよなあ。どうなってんだろうな、感覚。穂月の体術の大概だと思うんだが...。技術的にはともかく身体的には人のこと言えねぇか。しゃあなし。

スロープに回って上がってくる奴らを撃つ。なんやかんややってる内にMk-2の弾倉に弾を詰めておいてくれたのでそれを使っている。接近戦の多い俺が何気に一番弾を余らせていたりする。距離の開いた状態で二丁を使う自信は微塵も無いので、片方を剣岳に渡す。剣岳の持っていたSG550は別のやつに持たせている。ボルトに指を挟むこともなく危な気ない感じで扱ってる辺りモデルガンでも触った事があるのかもしれないな。

長いようで直ぐに五分は過ぎる。高々カップうどんだもんな。これが長く感じるのはやはり戦いに身を置いているからか。

聞こえ始めていたヘリのローター音が一際大きくなり、空を仰ぐ。山並みの向こうに中型輸送機らしきシルエットが見えた。そこへ紗那の焦った声が入る。


「龍人!向こうに何かいる!」


紗那が睨み指し示す方向を感覚を全開にして探る。異常な情報量に一瞬グラリと視界が揺らぐが位置は掴んだ。


「生存者だ!行ってくる!待ってろ!」

「5分で戻ってこい!」


灰斗の無茶ぶりを背中に背負いながら、屋上を飛び降りる。

ざわりと背を撫でる一瞬の浮遊感の直後に足に重い衝撃。着地点にあったカリーナが盛大に破壊される。足に異常がない事を確認して、飛び出す。


二つ先の建物のの影、生存者1、朱いの2


履いているブーツが壊れないギリギリの速度で走り抜け、直径が40cmちょいの街路樹を足場に直角に方向転換する。分かっていたかのように振り向いた朱の頭を一刀で飛ばして、生存者に突進している朱へ肩口からぶつかる。重量負けして弾かれながらも、突進を中断させる事はできた。


「部長!?」

皇都みやこか。真っ先にぽっくり行くかと思ったが、意外だな?まあ生きているから良しとしよう。」

「いきなり辛辣ですねっ!?」


生存者はうちの部員だったか。

こいつは逃げ足だけは一級品だったな、そういえば。しかし、それでも朱いの二体に襲われながらここまで逃げてくるとは、驚いたな。


「とりあえず、西條へ走れ。直ぐに追いつく。」

「了解です!」


皇都は迷わず返事をして西條へ向かって走り出す。

少し迷うとか何とか無いんだろうか....?

短いやりとりの内に、体勢を直した朱いのと対峙する。


「さってと。準備は良いかい?手短にゆくよ?」


剣帯から鞘を外し、納刀して抜打ちの構えを取る。対して、右腕を脇に抱えるように絞って腰を落とす。

先に動いたのは朱。左半身を押し出すように踏み込み、左足が着くと同時に右足を蹴った。それを冷徹に見つめて、上体を倒し打ち放つ。

そして、交錯した朱の上体がずり落ちた。


「ちっ、抜きづらくて一瞬焦ったじゃねえか。直刀でやるもんじゃあないねぇ。」


一つため息を吐いて、西條へ歩き出す。


「まあた....

           そろそろ終わりにしようぜ全く。」


建物の隙間から覗いた巨大な体躯に、思わず悪態を吐いた。





「間に合ったかい?少年少女。」


若干テンションが一周しておかしな口調になっているが、さしたる問題でもあるまいさ。

肩を竦めた灰斗から視線を外して近づく巨体に目をやる。体高は10mではきかないだろう。目測では何ともいえない。

一歩ごとに足下に放置された車両を盛大な音を奏でながら破壊していく様は、さすがにちょっと引く。


「どうする?」

「このままですと、搭乗完了前に接近されてしまいます。さすがに危険かと。」

「灰斗、潰せると思うか?」

「単純に人間として考えれば問題ないな。が、決め手に欠ける。」

「紗那、目測でどのくらいある?」

「んー....まあ一メートル近く?」


落とせない事もないな。刃渡り的に二三度切りつければ問題ない。


「現実的に考えて、だ。首を落とせば問題ないよな?」

「そのもの現実的じゃねえよ。」


それもそうだがな。


「少々、高さがありますので私には出来ませんが、あの直径の首を落とすこと自体は可能かと思われます。一太刀で落ちなければ削ぎ落とせばよいのです。」

「なにゆえに、私を見て言うのか。」

「屋上から飛び降りた方が何を言っているのですか?」


微塵も反論の余地がねぇよ...


「わかりゃあした!ヤったろうよ。」

「なに、一撃でいけるように片っ端からぶち込んでやるよ。」


ヤレヤレっと大げさに肩を竦めてみせれば、灰斗がニヤリと笑った。

良いじゃないか。面白くなってきたよ。最後に血の雨でも降らせてやろうや。


「じゃ、スロープは赤城夫婦に任せるとして、穂月は階段よろしく。あとは、頑張ってぶっ放そうぜ?」


わざとらしく親指を立てれば、疎らに返ってきた。

灰斗の。号令と共に、補給をしていた者達がRPG片手に移動する。穂月と赤城夫婦が移動したのを確認して俺も移動する。


「相手の右側面を出来るだけ抉れ。首の半分くらい吹っ飛べばどうにかなるだろ。」

「RPG7(ロケラン)そのものが3本しか無いから少し時間がいるぞ。」

「それよか、当てられるのか、だがな。」


一つ持って無造作に撃つ。狙い違わず首に当って肉を抉るがイマイチ動じた様子がない。建物までの距離はほんの三十数メートルだが、それでも動いてるものに当てるのはコツが入る。


「紗那、号令。パターンは分かるよな?」

「問題ないよー。随分単調だし。構えー......撃て!」


問題なく動きに合わせて撃たれた榴弾が僅かに時間差をつけて、デカイのの首に着弾する。大きく肉を抉られたデカイのは、さすがにグラリと体勢を崩した。


「残りは?」

「六発。あとはうちの榴弾くらい?」

「様子見つつ、全部叩きこめ。」

「あーいよー」


体勢を直したデカイのにさらに榴弾が撃ち込まれる。また僅かに体勢を崩すが直ぐに持ち直した。


「イマイチ反応が薄いな。」


そう、反応が薄いのだ。コンビニで会った奴や自衛隊のとこに来た奴と比べて明らかに反応が鈍い。デカイのはどちらもわりと攻撃的だった。が、こいつはコンビニで合ったやつより更に何しようとしているのかわからない。


「次撃ったら下がれ。なんか変だわ。」


RPGを撃つために前に出た者達以外が下がって、紗那の号令を待つ。


「.....撃て!」


号令とともに、RPG7の引き金が引かれる。より、僅かに速くデカイのが動いた。それでも反射的に動いた指が引き金を引き、デカイのの首を掠めて背後の建物を破壊する。


「逃げろ!」


思い切り怒鳴った。

空のRPG7を投げ捨てて、逃げたのは二人。一人だけ撃っていない奴がいた。

デカイのが大きさに見合わない動きでこちらへ踏み出す。一足で手が届く。対してこちらは三歩。範囲外へ投げる時間はない。


「くっのぁ!」


振り上げられた腕を視界の端に捉えながら、逃げ遅れた奴の後ろから襟首とベルトを引っ掴んで、重心を救い上げるように上へ放り投げる。横薙ぎに振るわれる腕から逃す事には成功した。


あ、こっからどうやって逃げ......

























「....ろ!」


暑い...いや、寒い....?


「.....きろ!」


冷たい....いや、熱い.....?


「起きろっ!」

「っるせぇわ...」


全身がミシミシと痛む。呼びかけは誰だ...?


「逃げるよ!立って!」


酷く痛む体を無理やり引き上げられる。チカチカする頭の中と視界に四苦八苦しながら目を開けた。

グイグイ引っ張っていく手の先、背中に掛かる白髪に当たりを付ける。


「伊藤、状況は?」

「あの子は助かったけど、アンタはピンボールみたいに飛んでったんだよ!アンタは動かなくなるわ、あの子は泣き出すわでもう心臓止まるかと思ったんだから!」


裏返りそうな声音で捲し立てる。


「まあ、とりあえず落ち着け。」

「むしろ、何で落ち着いてんのっ!?」

「死ぬからだ。」

「うっ.....」


とりあえず、二の句が継げなくなったのを確認して立ち止まる。思いの外、引っ張っている力が強くブーツが高い音を立てた。


「ふむ、今刈り落とすには些か太すぎるか?灰斗!」

「起きるのが遅い!」

「んな、無茶な。」


お前、普通なら即死してるところだぞ...心配するとか無いわけ?.....無いか。

しかし、今日は死にかけてばかりだな。随分と頑丈な体になったものだよ、ホント。


「屋上に取り付いてきてるから、削ぎ落とせば問題無い!」

「ラジャった。」


まあ、返事をするより先に取り付いてんのが見えたんだがな。

視線の先には屋上に手を伸ばすデカブツと、振り回される腕を華麗に掻い潜りながらマチェットで肉を削ぐ穂月の姿が。


「姐さんマジイケメンすぎるわぁ.....。」

「あの髪をモフれれば言うことなど無い。」


紗那が手をわきわきうずうずさせるのを意図的に黙殺して穂月の加勢に向かう。


「遅いお目覚めですね。」

「お前もか!」

「いえ、死ななそうでしたので。」

「んなわけあるかい。」


失敬な....死ぬ...よな?多分。

上半身を薙ぐように払われた腕を伏せて躱し、起き上がりながら近づく。


「首落ちそうか?」

「私では刃渡りが足りません。お任せします。」

「正面は任せた。骨は殺る。」


目配せして、真正面へ躍り出る。屋上の床を削りながら振るわれた腕を踏み越えて真正面に立つ、切り返して振られた腕も二の腕の下へ潜り込んで躱し、首もとへ入る。頭デケェ....

焦れたように大口を開けて迫った顔を滑るように横へ避けて首目掛けて跳ねる。穂月が横から首に向かって滑り込んでくるのを見ながら、両手の刃を振り落とした。

十分に熱された刀身が肉を焼き斬り、骨を瞬く間に脆くする。脆くなった骨に高周波で震える刀身がズルリと食い込んで、抜けた。

そのままもう一回転して反対側の筋も切る。微妙に残る正面側の肉は、穂月が既に切り落としていた。

ゴトリと首が落ちて体が倒れる。屋上の縁に引っかかった巨体がズルリと落ち始めた。


ピクリと。


指先が動いた。首のないデカブツの指が。デジャブを覚えながらも体は既に走りだしている。いくら穂月が身体能力高くたってもう遅い。痙攣するように無造作に曲げられた引きずり落ちる腕に穂月が気付く。

どう頑張っても巻き込まれるコース。上に逃れるには準備が足らなすぎる。迷うように僅かに硬直した穂月を腕の向こうへ放り投げる。


だからどうやってにげ.....






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