表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺と屍と鉄パイプ。  作者: 橘月 蛍
第1部 悪夢の始まり、日常の終わり。
32/47

リ:トラスト

「さってと。準備の方はどうだ?」

「終わってるけど。そっちは?」

「さあなぁ。ま、多分死にはしないだろう。手遅れもいるが。」


チラリと視線をやってからバッサリ意識から切り捨てる。少々余裕が足りない。


「とりあえず、状況的に少々予定を変更しないといけないだろうな。ヘリが降りるには少なくとも、屋上の半分をフリーにしておかなければならん。全体として数は減ってきているからもう一息だとは思うがな。」

「残弾考えたらあんまり余裕ないんじゃない?」

「だが、引き籠もっていてもどうにもならんしな。戦闘員を満載してくれば余裕で制圧していくだろうが、操縦士を除いてもいいとこ5.6人しか連れてこないだろう。」

「じゃあどうするの?」

「少々面倒だが、単独であれば俺はいくら囲まれた所で特に問題ないからな。散っている奴らをコンテナ周辺に集めて、コンテナの上に飛び乗る。後はドカンとやってから掃討だ。目算だがそろそろ相手もネタ切れのはずだ。美深の方から流れてきていれば別だがどうだろうな。さすがにそこまでは分からん。」


屋上に流れ込んでくる数は確実に減っている事は確かだ。だからと言って、このまま単純に爆破と掃討をするには、何をどう頑張っても頭数が足りない。本当はもっと武器の類があれば良かったが、素人が扱えるほど単純で頑丈な銃は社長のところでは殆ど生産していない。むしろあれだけ揃えてきたのだから大したものだ。


「まあ...お前なら死にはしないだろうが、後で覚えとけよ。」

「えぅ!?なんで説教フラグですか!?」

「キモい。」


いや、うん。俺もそう思うよ。今の反応は無いわ....本気で無いわぁ....。


「全く。これで見た目も.....」

「おいやめろ、なにニヤけてんだよお前ら!ちょっと貞操の危機を感じるんだけど!?」

「せめて、オトコの娘なら...」

「紗那さ~ん?戻っといで~?」

「ま、それはさておき。」

「さておけてねえよ灰斗!顔!顔!」

「もーまんたい。心配するなー。こんぐらっつれいしょ~ん♪」

「奇跡的に可愛くない。女がやっているように見えない。」

「殺すぞ。」


何故だ...てか、あんまりソレ分かる奴いねえんでねえかな...?


「はいはい、本題に戻ろうか。爆薬類の設置どうする?」

「前の流れで察しろよ。めんどくさい。ほれ、あそこから上がれる。あとは投げるなり何なりとしてくれ。その間に奴らをもさくさ集めるさ。」

「まあ、適当に頑張れや。信管の残りが20もないんだがどうするんだ?」

「さすがにそのままつけたらコンテナが吹っ飛ぶ。半分か...いや6割だな。多分周りに放置したものがそこそこ盾になるだろうし、扉の前以外は6割で行こう。扉の前は4割だな。距離は7~12m程度でバランスよく。近すぎるとやっぱりコンテナが吹っ飛ぶ。起爆は有線で不発は榴弾処理。紗那の奴で起爆だな。後は、状況見つつ、もう一回集めてRPGで吹っ飛ばすか、出て行って撃ち殺すか。」

「つまりお前の働き次第ってことでFA?」

「釈然としないがその通りだな。」

「作戦が決まった所でアレ、どうにかしてこい。」

「....そうだな。他のに説明しておけ。後、30分強で迎えはくる。」

「「りょーかい。」」


さて、悪ふざけにも微塵も反応を示さない一角に行ってみようか。あぁ、全く。空気が悪い。吐きそうだ。

っと、その前に...


「...ちょっと落ち着け。」


先程から無表情の伊藤が握りしめているマチェットを両手ごと壁に押し付けて固定する。一瞬抵抗するが、膂力に差がありすぎる。


「お前がやる必要はない。あれらはあれらの問題であって俺達が手を下すべきじゃない。分かるな?」


無表情で起用に睨みつけてくるが何とも思わん。同じ目をしているし、手から震えが使わってくる時点で確定的だ。


「嫌ならやらなくていいんだよ。あれらで解決するだろうし何かあっても私がするから手前は手を出さんくていい。多少目を背けた所で誰も文句は言うまいさ。だからお前の力が必要になったなら手を貸してもらうからな?まだ、手は開いていていい。」


微妙に手の力が弱まった隙にマチェットを奪い取り、腰の後ろに括ってある鞘に入れて留め具を掛ける。

顔に視線を戻した時、伊藤の顔が真っ赤になっている事に気付いて行動を一瞬振り返って止めた。人が見たらセクハラかパワハラだな。今更か。まあいい。


「...少し休んでおけ。」


そう言い残して手を離す。無言でしゃがみ込むのを確認してあいつらの方へ移動する。


何かをぼそぼそと話している。まだ辛うじて意識があるようだ。傷の具合から言ってさほど持たないかと思ったが、なかなかどうして根性のあるやつだ。


「よう。具合は?」

「さすがに....もう無理だなぁ....」

「どうしたい?」


俺の問にニィっと頬を上げて、呟く。


「大丈夫だ。約束...覚えとけよ。」

「たまには約束を守るのも悪くないかもな。」


七瀬の呼吸が浅くなっていくのをただじっと見る。視線はこちらにはなく、無言で目を合わせている。呼吸が浅くなるのにつれ、グロックを握る大宮の手に力が入る。

開きそうになる口を噤んで、成り行きを見つめる。俺が手を下すのは最後でいい。それに多分俺は約束以外は手を出さないでも問題ないだろう。どうせこいつはこれからのそれを見越している。


そして、七瀬の呼吸が止まった。


そっと近寄って脈を確認する。極めて極わずかだが血圧を感じられる。だが、これでは直ぐに脳が駄目になる。その前に奴らになるのか。首の傷は既に塞がっている。再生能力は噛まれた直後から徐々に上昇するのか。まあそれはいい。予測済みなデータだ。

軽く首を振って、七瀬の状態を伝える。

大宮がそれを見て、ゆっくりとグロックの銃口を七瀬の額へ添えた。


「大宮。『先逝く者に祝福を。』」

「さき......ゆく...ものに.....しゅく...ふく..をっ!」


銃口が跳ねる。何度も何度も、引き金が引かれて終わりを告げる。零れ落ちそうなほど目を見開いて自分が告げる結末を見逃すまいとする。

あっという間に弾は尽きてそれでも尚引き金が引き落とされるのを、引き金の裏に指を入れて抑える事で止めさせた。そっと弾倉に手を伸ばしたのをグロックとともに奪い取る。


「なんで....」

「約束は破る質だが、これを破ると末代まで祟られそうだしな。どれだけ死にたかろうと生きてもらわねば困るのだよ。そういう約束だしな。」

「でも...わたし....」

「お前が銃口を向けるべきなのは助けられなかった自分ではなく、こいつを殺した奴らだろう?人間同士の復讐は何も生まないが、奴らを殺せば生き残る人間がいるんだ。忘れるな。」


グロックの弾倉を新しいものに替えて差し出す。それを取ろうとはせずにこちらをぼうっと見つめてくる。


「あいつ、お前に死んで欲しいなんて言ったか?」

「あ.....」


止め処なく涙を流す昏い瞳は変わらないが、死の気は感じなくなった。しばらくあいつだったものを見つめて、そしてグロックを手にとった。

言葉はないがやることはわかっただろう。時計を確認する。


「さて、お前ら。準備はいいか?」

「問題無い。」

「大丈夫。」


帰った返事に、見渡した面は覚悟を決めたようだ。


「さて、状況に不備がなければ残り30分。ここからは休憩なしだ。死にたい奴は多くを殺せ。生きたい奴は全てを殺せ。屋上の奪取及び階段とスロープの死守が優先。必ず三人以上で動け。誰からの指示でも基本は遵守。だが身勝手な奴は無視だ。いいな?共に生きようとする限りに於いて今から俺たちは仲間だ。忘れるな。」


全員が無言で頷いたのを確認して、コンテナの扉に手を掛けた。


「.......。」


呟いた言葉は、扉の軋みに掻き消された。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ