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俺と屍と鉄パイプ。  作者: 橘月 蛍
第1部 悪夢の始まり、日常の終わり。
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インサニティ・インフレーション2

状況は悪いとしか言い様が無い。

既に被害は5人。非戦闘員まで引っ張りだしてのサブウェポンも何も無いひたすらな銃撃。

俺も既に前に出るのを止めてMkⅡを撃ちまくっている。流石に片手での装填は無理がある為に、補助付きだがな。スロープの人員を減らして、ギリギリ均衡を保っているがもうそろそろ崩壊しそうだ。

ひたすた撃ちまくる戦闘員とひたすら弾倉に弾を詰める非戦闘員、灰斗がひたすら指示を出してどうにかこうにか耐えているものの、疲労の色が濃い。


「穴は!?」

「気合で塞いだ!ルート的には音も含めてこっちに集中するはずだ!」

「ナイス直人!ついでにこの最高にクソッタレな状況を何とかしてくれよっ!」

「ドコの戦争中の軍人だよ!?ああ、でも最高にクソッタレなのは認めてやるよ畜生がっ!」


いくら反動が少ないとはいえ、仮にも実銃であるMkⅡを撃ちまくるのは結構シンドい。指がつりそうだ。

俺も直人も色々な疲れから若干言動がおかしくなってる。


「はっはあっ!しねしねしねしねえっ!消し飛べウジ虫どもがあっ!臓物をぶち撒けろっ!」


もっとやばいのがいた。紗那だ。日頃の鬱憤を晴らすかのように清々しい笑顔で口汚く喚き散らす。適当に見えてアホみたいに正確に効率良く榴弾を撃ちまくっている。階段周りは死守出来ているが、コイツのおかげかもしらん。その隙間を灰斗の指示がしっかり埋めている。


「残弾!」

「知らんっ!」

「狙撃600!」

「ライフル5000くらい!」

「散弾800!スラグ600!」

「手榴弾12!」

「拳銃1200!」

「うちは多分100くらい!」

「オレは撃ってねえから800だ!」


狙撃班撃ちまくってんな。灰斗の銃は他の奴と使い方が少し違うからどうしようもない。後で撃ちまくってもらうさ。てか、知らんて言うな俺担当。装弾忙しいのは分かるけどよ。


「あぁああくっそ!変なとこ抜けてくんなよ!フォローするこっちの身にもなってみろや屍体の分際で!」


度々抜けてくる奴らを穂月と二人で迅速に排除する。戦闘員も動揺したら死ぬと分かっているのか、よっぽど接近されない限り、灰斗の指示に粛々と従っている。まるでトチ狂ったドラム多重奏の如く鳴り響く激発の音の中でも、掻き消され気味のそれぞれの声が何故か正確に聞こえてくる。おおうコレが戦場耳か。

そろそろ、二階も捨てた方がいいか...

奴らの波の中に混ざって出てくる緑のやつや黒いのを中半反射的に撃ち殺して注意が散らない様にする。それでも緑のは嫌にしぶとい。

打ち寄せる奴らをひたすらに殺しながら波の先から緑や黒を拾い上げて、影響が出る前にどうにか排除する。銃弾を防ぐほどの防御がないのならたとえ22口径の小さな弾丸でも殺しきることは可能だ。


「全員撤収っ!二階を放棄!」


そしてチラリと見えた朱に俺は叫びを上げた。

撃ち切ったMk-Ⅱの弾倉を変えてホルスターへ突込み、ブレード抜いて位置取りを変える。ホルスターへMkⅡを突っ込んだ時点で、俺の補助はさっさと片付けて逃げはじめている。そうだ、それでいい。


「灰斗!7時方向!ありったけぶっ放せ!直人!スロープも放棄だ!屋上手前まで下がらせろ!紗那!全体援護!出来るだけ数を減らせ!中の奴らはさっさと上に上がれ!それが終わったら手榴弾バラ撒け!爆発と同時に射撃組撤収!よし、行け行け行け行けっ!」


指示を叫びながら、斬り込む。

前に、前に、前に、手榴弾の効果範囲外まで無理矢理に斬り進んでいく。一人であればギリギリ突破できると踏んだがそれでもこの肉の壁は分厚い。斬り倒す事より進む事を優先して、タックルやヤクザキックを混ぜながら薙ぎ倒す。時に、左腕のウェイトまで利用して突き進む。

そして、朱いのが吠えたのと同時に体の捻りを利用して見えた朱に対して直角に斬り込む。抉じ開けた隙間に体を捩じ込んだ直後に、屍共をを弾き飛ばしながらスレスレの位置を朱が通り過ぎた。

周りの奴らを片付けるのと並行して朱いのの攻撃を避け続けるのは難しいだろう。状況的にも身体的にも前回よりさらに悪化している。


だから切り替える


より早く 速く 疾く


意識も躰も、限界まで加速する


意識を散らし、思考を細断し、五感から導き出される解答をひたすらに実行する


思考より先に解答を


解答より先に実行を


思考は目標を策定し続け、躰は過程を消化し続ける


垂れ流される余計な欲求タベタイを捻じ伏せて


そして、手榴弾の爆音と共に朱と対峙した。




「全く、いつも良いところで貴様は邪魔をするのだな。」


俺の言葉に答えるように咆哮し、執拗に俺目掛けて突進送り返してくる。


「ハハハッ実に好都合だ。その調子で奴らを殲滅してくれよ。」


嘲るように嗤いながら避ける足元に屍が積み上がっていく。蹴飛ばして片付けながら、軽く踊るように避け続ける。

ブレードの冷却の為に、無手だが慣れてしまえばどうという事もない。邪魔な奴は突進の進路上に放ってしまえば勝手に壊れる。油断なく避け続ければ、あれほど密度の高かった奴らも、俺が動き回れる位には少なくなっていた。

最低限の動作に限定することで体力を僅かにでも回復させようと試みるがとっくに限界らしい。


「問題あるまい。やり方は理解している。後は実戦あるのみ。私が俺を認識して、俺が私を認識すればいいだけのこと。」


そして幾度も突進を繰り返した結果として僅かに出来た、朱との空白。


「猪崎にはすまないことをしたよ。余裕がなかったとはいえな。」


立ち止まった俺と朱鬼。左腕のウェイトを外して両腕をだらりと下げる。


「だが、高原。お前はしっかりと聞いてやろう。何人答えを見つけたやら知らんがな。俺とアイツが作ったクソ流派だが、明確な終わりなど用意していないからな。」


右足を前に出して腰を落とす。僅かに前傾して拳を振り上げた朱を睨めつけた。


「さあ、お前が選んだ狂気かいとうを教えてくれ!」


床を踏み砕きながら加速する朱に在る筈のない左腕を突き出す。振るわれる左腕の傷口から吹き出した血が重力に逆らってそのまま伸びる。まるで腕のように。振るわれた血液の塊と朱の拳がぶつかり合い、水面を打ち付けたかのような血飛沫を撒き散らした。

そのまま、打ち据えられる筈の拳はしかし、衝突した場所から動かない。動けない。


「まだまだこちら側には届かないらしいな。」


そう呟いた俺は斬り落としたはずのソレを、真っ黒に染まった左腕を踏み込みと共にさらに押し込んだ。

朱の拳が弾かれて体勢を崩す。そこへ真っ黒に染まった右腕を打ち出した。


「後は元に戻せるかだが。まずはお前を殺す。」


仰け反ったカタチから転がるようにして距離を取った朱鬼に詰め寄り、容赦無く拳を打ち込む。踏み込んだ衝撃を筋肉の収縮で増幅して拳打とともに叩きつける。久しぶりに使ったせいか衝撃が他所に流れてビリビリと痛む。衝浸撃は威力がかなり精度に左右される上、諸刃になりかねんが今なら問題ないだろう。


「鍛え直さんとな。ついでにもう少し実用的なものを増やそう。」


カウンター気味に振るわれた拳に右手を添えて回転することで避けて、その勢いのまま横面へ裏拳を叩き込む。失った勢いを腕を引くことで取り戻して右ストレートを鎖骨にねじ込む。体重の差を勢いで埋めて無理やりたたらを踏ませる。

確実に骨を砕いた感触がした。威力は足りるらしい。

的の大きい胴を狙って一歩毎に床を踏み砕きながらその衝撃を拳打に乗せて打ち込む。体内を破壊する感触を確かめながら、肋骨とハラワタを混ぜ繰り返す。


「ほらどうしたっ!その程度で私を殺せるか!?おら!」


いくら技量で勝っても質量と膂力は朱が一方的に有利だ。重心に近い胴への打撃は朱に体勢を立て直させる。接近した獲物わたしに対して牽制じみた、されど致命的なほどの威力がある、小さく纏められた拳打を放ってくる。それに次々てのひらを添えてその勢いを奪い盗る。奪い盗った勢いを自身の稔力に変えて隙の少ない打撃の僅かな隙間に手を添える。撫でる様に振るわれた掌が朱の体を派手に弾き飛ばした。


「柔能く剛を制すとは良く云うが、コレの真髄は柔を以って剛と為す。忘れたわけではあるまいな?」


数メートル飛んでいった朱が転がるように体勢を立て直すのを待たず、床板を砕く勢いで距離を詰める。


「どうやら時間もなさそうだし。死ね。」


走るという行為で発生する衝撃すら掬い上げて掌で支点を打つ。体勢を整えさせること無くひたすら打つ。

不慣れに加速したままの意識が体の限界を警鐘する。


「死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!」


馬鹿のように喚く口を止めること無く狂った様に打ち続ける。


「爆ぜろっ!」


床を踏み砕くに値する程の踏み込みと左手のによる拳打が朱の胸板に叩き込まれる。しかしそれらは一切の影響を与えずに、更にもう一歩踏み込まれる。

二歩の震脚と全身を使った強烈な拳打はしかし、たった一度の掌打に注ぎ込まれる。心臓の上に打込まれた破壊は、皮膚を些かも傷つけること無く、その僅か内側で爆ぜ狂った。

破裂音と共に朱の背中から紅い霧が飛び散り、崩れ落ちた体は二度と動かない。


「次に会うまでに新しい解答を見つけておくことだ。」


暴れ狂った暴虐の痕は周りの奴らが殆どいなくなるという結果を伴っていたが、一石二鳥といった所だ。


「さってと。戻るとしようかね。調度良く代わりの左腕も手にしたことだし。」


加速を止めてもさほど頭痛はないが凄まじい倦怠感がある。が、上の音の激しさからそう悠長にして入いられないようだな。幸いな事に真っ黒だった腕は他の部分と似た(しかし微妙に違う)肌色になっている。左腕の説明はその時になってからでいいか。悪いことではないのだから。


「さて、手前らにゃ、ちょいと退いていただこうかね。多少の練習台になればいいがな。」


ニタリと吊り上がる口角を気にせず、階段に向かって一歩踏み込んだ。

無月、人外化宣言

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