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俺と屍と鉄パイプ。  作者: 橘月 蛍
第1部 悪夢の始まり、日常の終わり。
3/47

俺と屍と鉄パイプ。あと何かひでぇ筋肉痛。

4日目の朝。

寝過ぎで酷い頭痛がする。起き上がろうとして止めた。


「痛ぇ…。」


ただそう呻いただけで全身に激痛が走る。当たり前だ。昨日の大量破壊は普通ならありえない運動量だ。


「でも、行かねぇとな。」


時刻はAM5:33。

まだ、休んでいられる。傍に置いてあった鉄パイプを抱き抱えて、うずくまる。


「あーつめてぇー。」


灰斗どうしてるかな?まぁ、嬉々として奴等を殴り殺しているだけか。西条の要塞化ちゃんとやってるかな?アイツも馬鹿ではないか。


「あー皆生きてっかなぁー。」


ぼ~っとして、浅い浅い眠りに落ちた。




夢を見た。



俺は闘っていた。



強い何かと。



ずっとずっと。



闘っていた。





少しぼぅっとしながらも何とか、目が覚めた。

筋肉痛はまだ酷いが、動けなくはない。あと、筋肉痛は動かないと長引く。ストレッチも効果的。


ガタンッ


「…?奴等か。」


少しはバリケードで防げるだろう。と考え、また非常識な運動量になりそうなので、入念にストレッチを行う。尋常じゃなく痛いが、命がけだ。怠る訳にはいかない。


「さて、生きますか。」


ポカリを300ミリリットルくらい一気して、階段を降りる。




「意外と多いな。」


ガタガタとバリケードを叩く手は着実に増えている。このままでは破られるのも、時間の問題だ。


「上から行くか。」


ボソッと言って、階段をまた登る。




コンビニの二階にベランダみたいなやつがある。残念ながら、俺の知識は偏りまくっているのでよくわからんのだ。

其所から、下を覗く。


あほや。まだ叩いとる。


高さは2mちょっと。俺の限界は大体3m少しだから平気で行けるな。だが身体はまだかなり痛い。


…無理して死にたくはないな。


奴等のあまりいない所を選んで飛び降りる。

一瞬後に重い衝撃。ある程度は衝撃を殺しているが、体重的に痛い。


部活してなかったらアウトだったな。飛び降りれる高さ大分落ちたな。クソッ。


日頃の不摂生に自分を呪いながら立ち上がる。かなり後に彼は気付く。転がればもっと衝撃を殺せたと。着地の音で、奴等はこちらに寄ってきた。龍人は静かに、ただ静かに、ニヤリッと笑った。




昔もっと。



自由だった。



今はただ。



生きているだけ。



ただ、それだけ。



もっと動ける。



その筈なのに。



いつの間にか。



俺はこんなに。







  堕ちたんだな。








「83か。昨日と合わせて人口の5分の1か。生存者は………良くて200~300って所だな。」


思ったほど数は多く無かったな。

濡らしたタオルで血糊を拭き取りついでに鉄パイプも綺麗にする。服は昨日の妙にミリタリーな色が多い服屋で調達しよう。


「とりあえず…飯か。」


まだ、なんにも食ってねぇ。腹減って仕方がない。バリケードをちょいとづらし、コンビニに戻った。




さぁ今日のメニューは…、シーフードヌードルBIGと納豆巻きに100円野菜。不摂生は良くない。だから100円野菜最高。電気有るから保存も楽チン。


「とりあえず喰おう。」


逸れた思考を引き戻し食糧を喰らう。

15分程度で食い終わる。他の人曰く、お前喰うの早すぎねぇ?だそうだ。俺はそうは思わないが…皆どう思う?


また逸れた。食糧は途中で確保する予定なので、カロリーメイトを二箱(無論チョコ味に決まっている!)だけサックに入れて、紛失したナイフを補充して幾分か軽くなったサックを背負う。


「あ。」


今何時?

時刻はAM9:28。


「さて、行くか。」


龍人は役場へ向かった。





これからの事なんて。





何も考えて無かった。





ただ生き残ろうと。





必死だった。





未来も過去もなく。





ただ、今があった。





俺は生きる事を。





絶対に諦めない。




途中で服屋に寄って着替えた。全身黒で統一。今日は指先の無いグローブも付けた。ついでに履きやすいブーツも入手、サックに入れた。

役場まで奴等は一匹も居なかった。昨日ので近くの奴等は粗方壊()った様だ。昨日と同じ様にバリケードを叩き叫ぶ。


「おーい、来たぞー。」


少しの沈黙の後、昨日のおっさんが出てきた。えーと、直人?だったか。


「…入れ。」


おー、相変わらず渋い声だなぁ。まぁ昨日ぶりだが。バリケードをずらすのを手伝い中に入る。


「あぁ、邪魔するぞ。」


そう声をかけると直人はニヤリッと笑って、


「邪魔するなら入れん。」


と言ってバリケードを戻そうとする。いい度胸だ。

脛に蹴りを入れて、身体を捩じ込む。


「痛っ。冗談だ。バリケードを壊すな。」


「大丈夫だ。バリケードは壊さん。」


そう返すとフッと笑って中へ入れてくれた。




中に入ると大体昨日と同じ面子だった。昨日渡した武器になってる。


「とりあえず、班決めかな?人数居るし効率良くやろうぜ。」


直人が少し思案して、


「使えそうなのは、大体15~18くらいだ。」


意外と少ないと思ったが、確かに昨日調べた限り町の人は女ばかりで男共も気が弱そうだった。まぁどうにでもなるか。問題は実戦経験だな。


「とりあえず集めてくれ。」


直人は頷いて、職員たちの方へ行った。

集まった人は16人大体予想どうりか。


「直人、誰が使えそうだ?」


直人は何言ってるんだ?と言う顔をした後、思い付いたらしく話始めた。


「まず、俺の上司の(はら)雄介(ゆうすけ)さんだ。アレな。」


指差した方を見ると、ゴツいおっさんがいた。直人よりは若いか。ゴリマッチョまでいかないがかなり筋肉質だな。人の良さそうな顔だ。


「見た目通りだ。性格も良い。ただ、若干頭がな。まぁ良くも悪くも見た目通りってことだ。」


直人が次を指差す。その先には、若干背の低い青年が回りを気にしつつ立っていた。


「アレが、俺と同じく平職員の杉田(すぎた)玄白(げんぱく)だ。」


「ぶっゲホッゲホッゲホッ」

アクエリアス拭いた。


「どんなネーミングセンスだよ!…ってあんた平職員!?マジかよ!」


直人が此方を見て非常に苦々しい顔をして言った。


「本人に言うな。落ち込むから。あと、俺が平職員なのは、自分が良いと思ったことをしてきたからだ。原さんが居なければ、今頃クビになっているさ。」


「へぇ。だから、妙に信頼されてる訳だ。まぁ今更身分なんぞくそ食らえだ。問題ない。」


直人はそれを聞いてフッと笑って杉田に向き直った。


「アイツは、多少ビビりだがセンスは良いし、他人を守る為に率先して行動する。悪くないと思うぞ。」


回りを見て少しオドオドしているが、瞳は強い意志を示している。面白い。


「あっちが、穂月(ほづき) (あや)だ。何かの秘書らしい。細かい事は分からんが、間違いなく強い。」


身長の高い細身の女性。無言で静かに外を見つめている。確かになんか強そうだ。髪長っ!膝丈!?


「あの元気っ娘が、伊藤(いとう)夜無(よな)だ。俺が助けに行ったときは、噛まれたクラスメイトを皆殺しにしていた。その時の目がかなりやばそうだったが、彼女もかなり強いだろう。」


回りの人に元気に声をかけている少女は、白い髪に深紅の瞳だった。肌の色も病的に見えるが、本人の明るさで補われている。


「その時何人生きてた?」


「38人のクラスで彼女を含めて8人だ。」


確かに強そうだ。


「ただ…」


直人が複雑そうな顔で続けた。


「俺が教室に入った時、生きてたのは13人だった。調度彼女が最後の屍を倒した時に俺は教室の前に居た。彼女は、噛まれたがまだ生きてた生徒を…」


「迷いなく、殴り殺した。だろ?」


直人は驚いた顔をしたが、すぐにフッと笑った。


「そうだ。止められなかった。手を出したら殺されると思った。」


俺はニヤリッとして、


「賢明な判断だ。まぁ容赦ない方が生き残れるだろ。」


直人が苦笑しながら、別の奴を指差す。


「で、あれが佐藤(さとう)雅也(まさや)。清掃員だそうだ。掃除以外は平凡だが、実戦経験がある。それなりに使えるだろう。」


指差して言った先には、俺より若干身長の高い、なんというか…あらゆる面で平凡な見た目の人がいた。平凡過ぎて年齢が全く判らん。

直人が掃除だけ凄いぞ。と追加情報をくれた。


「あ、使い方思い付いた。あいつには奴らを掃除しろと言えばいいんじゃね?」


直人がニヤリとした。


「それは試した。掃除だったよ。跡形も無かった。」


それは期待出来そうだ。直人が手を下ろし、肩をすくめる。あとは良く分からんってことか。

さっと、全体を見渡す。中々戦えそうだが、士気は低い。


「とりあえず、3つに分けよう。」


大勢で動くとどうしても音がする。探索したい場所も沢山ある。


「あぁ。班長とか決めるのか?」


すんなり肯定して問いかけてくる。考えが同じなのは楽だ。


「俺と、直人と、穂月で良いだろ。伊藤と杉田を俺に、原を直人に、穂月には佐藤で。後のメンバーは、直人に任せる。」


直人はこちらと他の人たちを見てフッと笑い、


「任せておけ。10分後に出よう。」


と言った。




生きるための。



何もかもが。



足りなかった。



まだ、足りない。



食べ物も武器も。



意志も力も。





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