インサニティ・インフレーション
「...以上で説明終わり。とりあえず味方に当てるなよってのが大前提だぞ。配置とか疑問点とかは直人に任す。」
おのおの頷くのを見届けて、直人の方へ視線を投げる。我ながら散乱し過ぎた説明だったが適度に纏めてくれるだろう。もとより説明能力がさほどあるとは思っていない。
「ああ。出来る範囲で調整しておこう。モノは十分あるとして、何処がいいか?」
手書きで簡単に纏めた西條の地図に赤ペンで指向性対人地雷を表す只を書き込んでいく。クレイモアは前方60°程の範囲に700個程の鉄球をばら撒く対人地雷の一種だ。さらに柱を表すマークを避けながらプラスチック爆薬(C-4)と表す対角にバツを引いた四角を書き込む。C4は各国でセムテックスやPE4・DM12など呼び方は異なるが性能は殆ど変わらない高性能爆薬だ。
「主力は只さんだ。モノも多いし変異体以外には効果が高い。C4に関しては建物に対する被害を考えて柱から逃げつつ配置する。迎えは屋上階に来るから倒壊させるわけにはいかない。ルートを塞ぐ配置もアウト。戦闘員以外のメンバーには既にC4設置位置の上に色々運び込んで貰ってる。何かあって一階が破れた時はドカンとやって全部塞ぐ。そしたら階段に只さんを一階側に向けて幾つか配置しておく。これは警報の代わりでもあるな。スロープ側に配置するメンバーは外壁の破損に気を配りながら室内組で持ち切れない手榴弾を箱ごと持って行ってもらう。屋内駐車場は暗いから明かりを増やす。それも既に他に伝えてある。」
直人が頷きながら地図の端へ纏めて書き込み、さらに分かりやすいように印を追加していった。
「訓練関係はどうする?」
「やってる暇はない。こちらへ来る途中連絡があった。あと7時間少々で迎えが来る。が、奴ら動きが活発になり始めてる。ガラス面側のバリケードが保つか判らん。恐らく一階は爆破することになる。RPGの使い方を忘れるなよ。C4は有線だから何かの拍子に切断した時はRPGの榴弾で起爆する。ショットガン組はまた朱いのが出た時用にスラグ入りの弾倉を最低2本持っておけ。他はOOBで十分だ。人数的に4人一組で行動しろ。狙撃班は灰斗から配置を聞いておけ。退避ルートの確保はおのおのでやれ。以上。」
「わかった。弾薬に関しては一部を一階階段付近に運び出したほうがいいか?」
「任せる。あとは全員近接武器を持っておけ。もしかするかも知らん。」
「もしかってなんだ...?」
直人が僅かに疑問を浮かべるが深く考えるのが面倒になったのか頷いて、指示を出し始めた。
「さて、何も無いのが一番だがな。そういうわけにもいくまいさ。」
独り言が聞こえていただろう直人は反応すること無く指示を続ける。
一先ず自分の役割が終わったことを確認して、席を立った。
防衛力の強化に奔走する者たちを意識の端で拾いながら、極ゆったりとした歩みで二階を歩き回る。
無意識的に生き物を把握し、それがどういうものなのかを推察する。自覚してしまうと不思議なものでコレがどういうものなのか大まかに理解できてきた。
今、生き残っている人間は西條全体で70足らず。他の生き物らしき気配はさほど多くない。小動物らしきものが数十匹程度紛れているが、あくまでバリケードなどは対人向けに作っているのであってそういう生き物を防いでいるものではないのが原因だろう。人の通れないような小さな隙間は塞いでいないし、ココには食料が豊富にあるがその周りに人は殆ど居ない。被害に遭った食料は多くないし、迎えも来ることで無視という方針で決定している。
従業員の休憩室のある方に二人分の気配を感じ、そちらへ向かう。最初の内に粗方片したと思ったが。新規に入ってきたメンバーに紛れていたか。
さしてかからず扉の前に着く。僅かに争うような声を聞いて躊躇いなくドアを開けた。
室内でチャラいあんちゃんが地味っ子を押し倒している。あれ、あいつ狙撃してたやつじゃん。
「ストップ。」
「助けっきゃっ!」
コチラを一瞥するなり、地味っ子を突き飛ばしたチャラ男がこちらへ無言でカッターナイフを向ける。テンプレートはいらんのだが。
「仏は一度。拒否は要らない。」
こちらが帯剣していることに一瞬たじろいだ様子になり、カッターナイフを下ろしてこちらへ近づいてくる。こちらの躊躇いを誘うなら愚策でしか無いな。
「そうか。」
「「えっ?」」
疑問と驚きをごちゃ混ぜにした音を吐いたのは二人。前側を切られたらしく腕で抑えるように蹲る地味っ子と切り裂かれた喉を呆然とした様子で抑えて膝をついたチャラ男。
「言ったはずだ。仏は一度だと。被害の報告が来ていないとでも?」
途端憤怒の形相で掴みかかってきた男を蹴飛ばして、倒れこんだ所にブレードを心臓へ突き立てて床へ縫い付ける。
「ふむ。鉄パイプで死ぬまで殴り続けるよりアッサリしていて楽だな。さして加虐趣味は持ち合わせていない。まぁいい声で哭けばどうかもわからんがな?」
ブレードを引き抜こうと藻掻く男はさして時間をかけず動かなくなった。ちらりと地味っ子の方を見ると恐怖で動けないようで嘆息する。目の前で生きた人間が殺されれば無理もないだろうが、自分が襲われていた事に自覚を持ったほうがいいと思うがな。
「これは私が片しておく。貴様はさっさと新しい服を貰って着替えてこい。あと、自衛隊んとこ一緒に行った奴と一緒に行動しろ。いいな。」
怯えながらも小さく頷いたのを見て、男を肩に担ぐ。ブレードは言葉の最中に仕舞っている。名前が出なくて言い方は適当だが伝わっただろう。
扉を出る寸前に固まっていた地味っ子が僅かに動き出したのを意識の隅で捉えてその場を後にした。
死体を担ぎながら3階屋内駐車場へ出る。スロープへ無造作に近づき、ゴミを捨てるかのように男の死体を投げ捨てた。
落下する途中からすでに奴らが下の方へ群がる。そこそこの高さから落ちた死体は血を僅かに飛び散らせ、ぐちゃりとあってはならない形に変形し、奴らに群がられて見えなくなった。
「やはり食欲が上がってないか?骨も残さずとゆうのもどうなんだろうな。」
群がった奴らが散った後には凄惨な血の跡の他には僅かに衣類の残骸が残るだけだ。
最初の内では死んだら放置され、生者だけを執拗に追い掛け回していたが今では人間以外も捕食しているようだ。完全に食べているために拡大はしていないようだが。
何度か共食いも見ている。奴らの習性は未だに良く判らないが気にしておいたほうが良さそうだ。
******
邪魔者をさらに2人ほど排除した後、バリケードの状況を確認したり、料理を手伝ったりしているうちに大まかな準備は終わった。
「さてと。取り敢えず大まかな準備は終わった。が、バリケードがもう持たん。打ち合わせ通り、スロープと一階に別れて配置してくれ。狙撃組は灰斗から説明があったと思うが階段から狙撃してもらう。ある程度、前衛組が引いてきた時点で半分は撤収。スロープ側に回れ。残りは援護を続けてもらう。一階に関しては恐らくさほど持たない。予定地点を過ぎた事が確認され次第、一時二階へ避難して爆破。その後、一階階段付近で暫く粘ってもらう。爆破部からの侵入があった場合は一部を二階に再配置するから覚えておけ。あと3時間、夕暮れ前には迎えが着くはずだ。質問は?」
「スロープ側が突破された場合は?」
「警戒すべきなのは緑のと黒のだが、緑のは銃弾を躱すほどの能力はないし、黒いのは殴れば他と変わらない。動きが早いから銃で狙っても多分当たらん。両方共キッチリ頭を潰すことを忘れるなよ。特に緑のはかなりしぶとい。」
「近接武器は残っている鉄パイプに砂を詰めた物を一応全員分用意した。他に何故か長いマチェットが2つあるがどうする?」
「何処製?」
「なんだ、あのやたらしなるやつ。」
「コールドスチールだな。あれはコスパがいいが品質はそこそこといった所だ。お前が一本持っとけばいい。多少荒く使っても壊れないし、しっかり刃を付ければ骨ごと切れるはずだ。長さによるが。」
「あとで見せる。あとは特に無いと思うがどうだ?」
直人が見回すと目があった奴らが次々首を横に振る。大雑把に質問がないことを確認して、こちらを見て頷いた。
「じゃ、行動開始。」
俺がそう言って立ち上がると、他の奴らもバラバラと動き出した。
無闇に探すことの無いようコンテナの近くにパイプ椅子を置いてだらけていると、直人が何か持ってきた。
「さっき言っていたヤツだ。どうだ?」
「デカイな...24インチか。刃はしっかりついてるし、重さがあるから切るのは楽だろ。つか、マニアックすぎるだろ。」
モノはコールドスチールで間違い無い。大型マチェットならオンタリオの軍採用のやつ買えばいいのに。いや、確か値段はコールドスチールの方が手頃なんだったか...変わらねぇだろ大して...。
「それが分かるお前もどうなんだかな。」
「言うな。わかってる。間違っても真っ直に振り下ろさないように気を付けろよ。抜けなくなるぞ。頭狙いで薙ぐか袈裟にした方がいい。威力不足は無いと思うが気を付けろよ。」
「わかった。あと、一階の一部のバリケードで固定してたワイヤーが何本か抜けたらしい。そろそろやばいな。」
「降りるか。」
「そうだな。」
小剣レベルの近接武器が何本かあるのは心強いが...乱戦は誤射がな。まぁ、死なない程度に頑張ろうか。
降りると、各々適当に距離をとって固まっている。バランスを確認しながら見回し、適当に階段に座り込む。
それから数分、爆発音の後に一人見慣れない奴が走ってきた。
「赤城さん!正面駐車場側の入口が抜けました!かなりの数です!」
「1から5班まで向かわせて対応する。ワイヤバリケードの状況は?」
「全然持たなかったです。それでもかなりの数がバラバラになったようですが。今のところはクレイモアが抑えていますが時間の問題でしょう。再設置して手動でも爆破していますが、かなり危険ですね。」
「そうか。一先ずそっちは任せる。」
「はい。」
二人は打ち合わせて直ぐ動き出し、1から5班を連れて行った。20人でどこまで持つだろうか。
「龍人、ルート制限こそしてるが、このままだとジリ貧じゃないか?」
「最初っからジリ貧だよ。ある程度後退するか、対応出来ないほどバリケードを破壊されたら一階は放棄だ。防火扉は閉めてあるがC4で一階が半壊する可能性もあるだろう。二階は警戒が面倒になるからな。」
「それはわかってる。屋上は階段とスロープさえ守ればいいが...。持たんだろうな。」
肩を竦めて見せるとふっと笑って対応に戻った。
奴らで厄介なのは何よりも数だ。防火扉はバリケードとしてはそこそこ優秀だがすし詰めになるほど押し寄せれば大して持たないだろう。一階の階段と二階の階段はただのシャッターだからあっと言う間に破壊されるだろうしな。
遅延作戦をやらないなら、鉄板でも持ってきて階段側を完全に塞ぐしか無いだろうが、溶接技術があるのは俺しかいなかったし、鉄板は塞ぐ程の数が無かった。最悪コンテナに立て籠もってもいいがそれだと迎えが降りられない。一応バリケード型には作ったが、電気溶接で何処まで保つかわからない。ガス溶接ならガッチガチにすればかなり強度が出るが。
スロープ側の決壊が早いか、二階の放棄が早いか。スロープ踊り場の屋上側はバリケードにしてあるが二層しかない。スロープ出口の車が越えられるとかなり状況が切迫するだろうが。三階屋内駐車場はコンテナが来た時からワイヤバリケードでガチガチに固めているから踊り場の方で対処できれば持つと思いたいな。鉄柵も所々付けてるが、強度がクソだ。さほど持たない。
疎らな銃撃の音が聞こえてくる。こちらの立てた音で奴らの頒布が寄ってきたようだ。
「直人、全て投入だ。正面駐車場側でできるだけ応戦してくれ。狙撃組も半分援護にやる。半分は先にスロープへ回してしまおう。」
「大丈夫なのか?」
「こちらの音で集まっている。集中させたほうが有利だ。他が抜けた時点で一階は放棄で構わん。後の判断はお前に任せる。俺も前へ出るからな。」
「わかった。任せろ。」
「行ってくる。」
直人が細かい人員配置を伝えに行くのを横目に、正面駐車場の方へ歩き出した。
>PM2:48.
後二時間半か。
******
「フッ!」
乱れる呼吸を飲み下して、ブレードを振るう。腕に縛り付けたウェイトがズレて痛みを発するのを黙殺する。バランスが良くなる代わりに殆ど治っていない傷口からは脳を叩く警鐘が鳴らされる。
それでも他の者の負担を減らすために次々迫る奴らを斬り倒す。時折、ブレードを替えながら一撃確殺のつもりで首を刎ねていく。腕にさほどの疲れはないが先の見えない戦いに溜息をつく暇もない。
「クレイモアまで後退っ!」
俺の声に前に出ていたのが次々後退していく。それに遅れないよう後退しながら奴らを誘導してクレイモアの殺傷範囲へ引きずり込む。ワイヤートラップ式のクレイモアを飛び越えて、加害範囲外の背の低いバリケードへ飛び込むと、僅かに遅れて派手な爆発音がした。
「次は!」
「もう少し!」
バリケードから飛び出して、無心に刃を振り翳す。射線と被らない要注意しながら進行を食い止めていく。ブレードを交換するタイミングで、完了の声を聞いて後退する。
「半分残れ。後はトラップ設置に回っていい。一階はあと1時間と持たない。大宮!」
「はい!?」
「直人に伝えろ。伝えたら...なんだっけ、ほら、アイツ、アイツと二人で二階の扉確認してこい。確認終わったら直人に報告、その後俺に報告。おk?」
「はい。七瀬!」
万が一何処か開いていたら面倒だ。二人が走って行ったのを見届けて、前に戻る。手榴弾がもう少しあればまだマシだったんだが。
視界一杯の奴らに無駄な考えを投げ捨てて、ブレードを構えた。
>PM3:26
予想よりも大分後退速度が速かったが、それといって大きなトラブルもなく後退できている。一人死んだが、マシな方だ。こちらで惹き付けている分バリケード側の負担は少ないようで、爆薬類を余裕を持って使えているらしい。緑のや黒いのも出たという報告も来ているが対処できている分には問題はない。
「問題は、増えてるってことか。」
「だな。一階はあと十分がいいところか。」
わずかに頷いて返し、直人が爆破の準備に掛かるのを見届ける。
確実に減らしていた奴らが増え始めたのに気付いたのは、二階の扉を確認して戻ってきた大宮が階段から正面駐車場を見渡した時だ。大慌てでこちらへ走ってきた大宮曰く、折り重なるようにして前の奴を押し倒しながらこちらへ押し寄せてくる奴らの群れが正面駐車場前で詰まっているらしい。
確認したが、あながち間違いでもない状態に思わずため息が出た。直人には余裕だなおい。とか言われたが、お前もなって心境だ。
情報整理の為に前に後ろにと移動していると思うが西條は狭いな。いくら入ってくる場所が限定されていても容量が小さいのはネックだろう。まあこっちの人数的にはギリギリの範囲でしか無いが。何処ぞのマンガのような大型ショッピングモールは間違いなくガラス部を破壊されて中に溢れかるだろうが、ここは侵入経路が限定されているし問題無い。シャッターも外にあったが閉じようが無くて放置している。
それはいい。今更だ。
「もう無理ですね。これ以上は囲まれそうです。」
「そうか。直人に爆破準備が済んだら全員を上に退避させろと言っておけ。準備の時間くらいは持たせよう。」
「はい。」
報告に来た大宮に言伝をして、前に戻る。
増員したものの押され気味なのは仕方無い事だ。疲れを見せている者を庇いながら戦うのは余り性に合わないのだがそれも仕方無い。数が違いすぎる。
時折空振りして血を飛ばしているものの、焼き付いた血糊は中々落ちづらい。奴らを斬り刻むことで無理矢理に刀身を冷やして稼働時間を伸ばしてみたりもするが、結局マメに交換しないと折れそうだ。刻々と疲弊していく者たちを下がらせ、前に突出する形になりながら出来るだけ回転率を上げようとする。ポールアームでもあるまいし、やはり片腕で片付けられる数には限りがあるが。ポールアームにしても片腕ではどうにもならない。
「準備出来たぞ!」
誰かの怒声とともに全員を撤収させる。
殿を引き受けながら、僅かでも密度を減らす為に手榴弾を放る。別々の方向へ投げられた3つ手榴弾は上手いこと奴らの内側に入り込んで爆発した。これで手榴弾はネタ切れだ。
ブレードを鞘に戻して、MkⅡを抜き、階段側に集まる奴らを走りながら仕留めていく。先に下がった奴らの援護を受けつつ、階段を駆け上がった。
「ぶっ飛ばせ!」
叫んだ声に、直人が迷いなく起爆スイッチを押した。
階段を上がり切っていない背中に轟音と共に爆風が叩き付けられる。狭い室内で小さくはしたが結構な数を爆発させた為、一瞬バランスを失って転びそうになるのを耐え切った。
「思ったより派手だったな。まあ素人仕事にしては上出来か。」
「大丈夫か?とりあえず、二階で何処が抜けているか確認させに行ってる。万一、一階と坂になっている所は、RPGで吹っ飛ばすように伝えてある。」
「いいんじゃないか。あとは、一回階段周り掃除して、只さん置いたら休憩だな。休憩時間があればいいが。」
軽く打ち合わせるうちに戻ってきた者から、穴は2箇所だけでどちらも大きくないと報告された。
恐らく、信管(爆薬を起爆するのに必要な機材)の許す限り、細かくして一つ一つを離れさせた為に、床が抜けなかったんだと思うが。時間かけただけあるな。
「じゃあ、穴の周りに外向けで只さん設置だな。間違っても穴に向けて囲むなよ。限界まで壁際に設置してもココは射程内だからな。」
クレイモアの加害範囲は最大250mだ。店内は端から端まで100m無い。階段はほぼ中心だが、有効加害範囲が50mだと考えるとどう考えてもアウトだ。この狭い距離で、一時間足らずの時間を稼げたのはやはりクレイモアのおかげだ。
「さて、ここからが本番だ。気合入れておけ。」
「ああ。交代で休憩させながらでいいか?」
「時間があるなら好きにしたらいいんじゃないか?俺も疲れたしちょっと休むわ。」
>PM3:41
車で出られればよかったんだが。今更思ったが、人数考えてもまず無理な話だ。
溜息を吐きながら、ブレードの手入れをするために水の蓋を開けた。
抵抗がなくなってしまう事は怖くはない。
人間性がなくなってしまうのは怖くはない。
ただ...自分が死ぬことだけが怖くて。
他人の手を汚す事に躊躇いを無くしてしまったから。
せめて僅かばかりの偽善でもって。
生きるために手を貸すことを決めた。
生かすために殺す事を決めた。
ただ結局は自分の為に。