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俺と屍と鉄パイプ。  作者: 橘月 蛍
第1部 悪夢の始まり、日常の終わり。
27/47

俺と屍と鉄パイプ。あと、事実の代償。

遅筆はどうにかならないのだろうか…。

何故か用事が立て込んで8月が過ぎてしまった。


いつにもまして正気を疑う表現が多々有ります。

ニガテな方は読まないほうがいいんでねぇかな。

何度も袖先を掠めるような危うさで朱の影が交錯する。頼りない街灯の明かりの下でソレを見失わないように睨めつけて、凄まじい加速で迫る朱を躱す。左腕を掠めて過ぎたソレが残雪をブチ撒けて急停止するのを意識の隅で認識しながら、シャーベット状の雪で滑って転倒しないように駆け抜けた。

今季の冬は前半戦の大豪雪と大寒波の反動か雪解けが異常なほど早く、路肩に1mほどの雪山が残るだけになっている。それでも、日中の過ごしやすい春風は夜の今では凍える冬風だ。路面は乾いているが、所々の水溜りに張る氷がその寒さを物語る。

そして、今の逃亡にソレがやたらと邪魔になっている。逃げ道を失わないよう気を配りながら走るせいか進みは遅々として、度々回り込まれて死線を味わう事になる。突進自体は慣れて躱せるものの、如何せん加速力が高すぎる。至近距離で二度ほど回避に失敗したせいで全身の骨がギシギシと痛む。流石に近かったせいか最初ほどダメージはなかったが、正直生きてるのが不思議だ。

西條まであと僅か。準備無しでどこまで立ち回ってくれることか。まぁ精々、姉に期待しようではないかよ。

背後に咆哮を背負いながら喝を入れて回避のタイミングを測った。




増える放置車両を利用して何とか赤鬼を撒いたが、破壊的な音が近づいている辺りどうしてか大体の方向を把握されているようだ。

やっとの思いでたどり着いた西條で誰かいないか探す。


「龍人!戻ったか!」

「直人か!全員集めろ!スロープだ!」


見つけた直人に問答無用で言い放って、先にスロープへ向かう。

スロープについて一息吐く内に、戦闘メンバーが続々集まってきた。


「他は?」

「非戦闘員は全員屋上へ退避。問題は?」


混ざって現れた灰斗に端的に聞くとすぐさま返事が返る。問題なさそうだ。


「OK.ちょっと厄介なのに追われてる。ココに来るもの時間の問題だから、対策を寝る暇もない。ありったけの弾を持ってスロープで待ってろ。敵の数は1。見た目は赤い。以上、行動開始!」

「クレイモアでも置くか?」

「俺が惹きつけるから止めろ。ミンチにゃなりたくねぇよ。」

「了解だ。5分で準備する。保たせ。」

「あいよ。行ってくるわ。」


1分と掛からず話を終え、聞いていた奴が次々動き出すのを確認して、スロープを降りた。




降りてすぐにいた無数の奴らを斬り捨て、さっさと抜け出して破砕音の音源を辿る。

予想より遥かに近い位置に朱を捉えて、思わず車の影に隠れた。60人くらい乗れるバスの裏だが感付かれている気がしないでもない。間違っても下敷きにされないよう出来るだけ端によって逃げやすいようにする。


そして、咆哮。

そう《咆哮》だ。アイツ、俺を見つけるまで咆哮なんぞしないで周囲を破壊しながら突き進んでいた。

簡単に浮き上がったバスの下敷きにならないようさっさと逃げ出して、遠回りになるように道を選びながら逃げる。軽乗用車辺なら平気でこちらへ弾き飛ばしてくる。出来るだけ車重の重い車を盾にしながらも、見失われないように一定距離を保つ。阿呆みたいに突進ばかり繰り返すせいで避けるのにはなれたが、二次被害の方が遥かに怖い。車だの街路樹だのチャリンコや看板だのわけわからん物がいくつも弾き飛ばされてきて、逃げ道が制限される。

稼ぐといった時間は後2分ほど。ここからスロープに着くまで3分弱だろう。

一瞬迷う。一度撒いてしまっても恐らくスロープまでコイツは来るだろう。だが、来るタイミングを計れない。万一いきなり自動車でも飛ばされたら誰か死ぬ可能性もある。一度、パニックになれば素人集団の収集など俺には付けられないだろう。

僅かな迷いが致命的な隙を生むのはよくあることだ。

大体、何かしだすと周りが見えなくなるのは俺の悪い癖なんだ。



衝撃。



目の前にあっと言う間にショーウィンドウが迫って、砕けた。

強かに打ち付けた全身が激痛を訴える。ザックリと切り裂いた左腕から心拍に合わせて血が流れ出る。刺さったガラス片が奇跡的に無い事を悟って、紅く滲む視界の中起き上がる。

もう一度突進が来ることを警戒して見据えた朱は、されど悠々とこちらへ歩いて来ていた。無意識が盛大な警鐘を鳴らすが、逃走で消費した体力は馬鹿にならないのか、左腕から流れ出る血が思ったより多いのか、膝を付いた姿勢から倒れないようにするのが精一杯だ。

無表情な赤鬼の顔が僅かに笑ったように見えた。そしてソレが拳を握ったのを見て、俺は意識を切り替えた。


「俺を殺してみろよ!」


起き上がりざまに左腕を振りかざす。対してソレは右腕を振りかざす。

全身の筋肉を引き千切るつもりで全力の正拳を打ち放つ。殆ど同時に放たれたソレの拳とぶつかって、僅かに停滞する。


あぁ、逝ったな。


そう思った時には、パンッと情けない風船の割れたような音と共に左腕の肘から先、綺麗に弾け飛んだ。切り替えた意識は脳が焼き切れそうなほどの痛みを黙殺して、身体を走らせた。

打合わせたソレの拳に傷ひとつ無いのを意識の片隅で捉えながら、未だ打合せた姿勢から動かないのを横目に全力で逃げ出した。


ダラダラと流れ出る血を止めるためにブレードを抜く。肘関節の一部も半ば砕けているようで、走る振動が激痛に変換されていく。

これだけ痛けりゃ今更だと、温まったブレードを迷わず振り落とす。肉の焼ける嫌な匂いと共に肘が落ちる。僅かに流れ出る血を刀身を押し当てて焼き止血した。

正気の沙汰じゃない。現に脳に送られる痛みは際限無く膨れ上がって今にも爆発しそうだ。


そんな時でもどこか冷静なのは分かってしまったからだ。

拳を打合せたその瞬間、痛みを知らない自分が居たことに。

奴らがどんな手段を使って人を変えてしまうかを。

だから俺は適応してしまったんだろう。

ソレは自己を否定することだ。

俺は俺が誰だかわからない。

だからこそ奴らと同じにはならなかったんだ。

ソレは宿主の意志を写し取る。

ソレが自分だと思うから疑問を抱かない。

奴らは動く屍?

バカな。

何故あんなにも強く拍動している。

それは生きているからだろう。

生きた人間を殺してきたんだ。

ソレにたとえ正気が無いとしても。

自分の意志だったものが何時の間にかソレの意志と入れ替わっていただけの話。

それでも、本人の意志を失ったんなら死んだも同然だろうか。

今更気づいた所でどうしようもない。

ただ明確なことはソレらが俺たちの敵であるという事実だけだ。

なら今はそれでいいさ。


乱れる思考を放棄して、スロープへの道を走った。





「龍人!?どうした!」

「気にするな!すぐ来る!」


焦りをありありと浮かべて叫ぶ直人にそう叫び返してスロープへ向かって走る。

肘先無くなっただけでやたらと重心のバランスが悪くなっている。上半身が振れないように腕を抱え込んで、半ば脚力だけで前に出る。

横の車を突き飛ばすように、跳ね退けたそこへ朱い影が突っ込んでくる。


「ありったけぶっ放せ!」


叫びながら崩れた姿勢を立て直してさらにスロープへ走る。

距離が離れたと見るや飛んできた榴弾が赤鬼の近くに着弾したのを背中に感じながら、それを放った紗那が苦い顔をしたことで結果を悟る。距離が有るために疎らな射撃は語るべくもない。

先までより僅かに荒い咆哮に警戒を強めながら車の上に飛び乗った。着地で縮こまった身体を精一杯引き延ばすように、前に飛ぶ。

半拍遅れて、飛び乗っていた車が足の下を吹っ飛んでいく。スロープへ飛んでいった車は俺の予想よりも遥かに呆気無く回避され、思わず安堵の息が出そうになった。が、着地に失敗して無様にも息を詰まらせる。


「気を付けろよ!即死するぞ!」


痛む身体を持ち上げて、一応警告し走りだす。

残り50mほど、何台も車があり動きが制限されるが気にして入られない。

響く咆哮に、射線から逃れるように飛び退る。直前まで居た場所に朱が飛び込むのと、一斉射撃が開始されたのはほぼ同時だった。先よりも圧倒的に密度の高い銃撃に晒された赤鬼が僅かに怯む。

小口径とは言えこの数の弾丸を浴びてこの程度のリアクションとかふざけてるんじゃないのか。

頭を守るように交差した腕の隙間からスロープを睨んでいるのを捉えながら射撃の邪魔にならないようにさっさとスロープを上った。


「何だコイツ!滅茶苦茶堅いぞ!」

「知るかっ!跳んで来るかもしれないから気を付けろよ。」

「跳ぶのかよ。クソ。弾が切れる。」


グチグチいいながらも、腕の隙間を執拗に狙い撃つ灰斗に軽く戦慄しつつ再装填の隙を埋めるために手榴弾を二つ三つ放る。


「今のところ効果がマトモにあるのはウチと姉と狙撃組だけだよ。」

「そんなことだろうと思った。一粒弾スラグは?」

「あった?」

「探したらあったけどいい忘れてました。」

「死ねタコ。」

「撃てチビ。」

「小さいはステータスはっはー。」

「取ってくる。持たせよ。」

「うい。」


紗那が返事をしながら弾倉を取り替えるのを見ながら屋上へ走りだした。




背後の騒がしさに意図的に蓋をして、コンテナの中を漁る。

さすがに、血みどろで左腕を半ばから欠損では無理もないだろうが。戦闘メンバーもかなり動揺していたからな。状況を良くすることに必死で無駄に話しかけては来なかったが。

大まかに覚えておいた場所に、確かに目的の物が有るのを確認して引っ張りだす。軍用と思しき一粒弾スラグの入った弾薬箱を肩に掛け、奥の方にコソッとあるRPG7(いわゆる対戦車ロケット)を一つ。予備弾の入った4発入りのケースも肩に掛け、本体は手に持ってスロープへ急いだ。



「問題無いか?」

「不気味なくらい問題無いよ。」


それもそうだ。動きがないってのが一番不気味だ。


「とりあえず、ショットガンはスラグ詰めなおせ。空弾倉は?」

「3つずつくらい有るから直ぐやらせる。」


紗那に弾薬箱を渡して様子を見る。そこそこ傷は増えているが、倒れる様子は微塵もない。

RPG7の準備をしながらどう出てくるか伺う。恐らく次は飛んでくる。アレの一番恐ろしい攻撃は、突進よりジャンプだ。曲線を描いて飛んでくる物を撃つのはかなり難しい。至近距離なら仲間を撃ちかねない。それがアレに判るかどうかだがな。


「とりあえず、効くか試そうじゃないか。」


片手で持つとかなりバランスが酷いが、持てないほどではない。反動のあるものじゃ無いからおそらくは当たるだろう。


「後ろに立つなよ!」


後ろに誰も居ないのを確認しながらもそう叫んで一拍。なんとも野暮ったい感じのトリガーを握りこんでぶっ放した。

飛翔は一瞬。

その一瞬でアレは目の前にいた。

投げ出すように前に出て、背中ギリギリを朱い影が飛んで行く。忘れずに一発、RPG7の予備弾をひっつかんだのを褒めてほしいね。

俺との距離が離れたのをいいことに、OOBダブルオーバック3インチマグナムが火を吹いた。8ミリ12発の鉛球が纏めてあたって潰れる。セミオートの速射性を活かした鉛の嵐は、俺がRPG7を装填し直すだけの時間をギリギリ稼いだ。


「斉射ぁっ!」


逃げながら叫んだそれに僅か遅れで、一斉に放たれるそれの効果を確認するまでもなく。

抱き抱える様に構えたRPG7のトリガーを握りこんだ。



残り数話で第一部終わります。


…え?マジで?そんなに書いたの?

真っ先に自分で驚いておりまする。

次回は9月中に。………多分。

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