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俺と屍と鉄パイプ。  作者: 橘月 蛍
第1部 悪夢の始まり、日常の終わり。
26/47

俺と屍と鉄パイプ。あと、独りきりの撤退戦。

ギリギリ1話更新。

お待たせしました。

「さってと。上から行って一撃かい?そんな上手く行くもんかね。」


何処にも居ない誰かに向かって肩を竦めながら階段を上がる。近づく足音はもうそろそろココに着くだろう。ブレードを抜いてスイッチを入れておく。

事務所への入口からチラリと外を見ればのっぺりとした表情のない巨人が焦点の定まらない眼でこちらへ迫っていた。基地で遭ったデカブツだ。前回もそうだが表情がない。気色悪い。


さて、どう考えても前回よりデカイぞ。下手すると届かないか。


そこでふと気づく。アレは前を見ていた。下に注意が一切行っていない。それに立ったまま殺せなんて誰が言った。問題は転倒させられるか。邪魔が入らないか。


まぁ、なんとかなるか。グダグダ考えんのも飽きたわ。


足音から大雑把に距離を測りつつ、下へ降りる。視界に入らないよう気を使いながらバリケードに僅かな隙間を開ける。目の合った奴らをサクッと射殺して他の奴に気付かれていない事を確認。

ブレードの稼働時間を着にしながらも、迫ってくる足音を慎重に聞き分ける。恐らくあと3歩。


2歩


1歩


っ!

一足に飛び出し軸足を真正面から叩き斬る。何か恐ろしく硬いものを斬る感触と共に、巨体が倒れて来るのを左へ避け蹴り足を斬りに移動する。スレスレで避けた蹴り足はバリケードを粉微塵に破壊して二階のベランダのような部分を蹴り抜いていた。アレを喰らって生きている保証は無慈悲なまでに存在しないだろう。

落ちてきた蹴り足に向かって支えるように切り上げ、自重で膝下辺りをぶった斬る。と、同時に飛び退れば身体を捻った膝蹴りが飛んできた。そのまま振り向いてこちらに手を伸ばして来るのを追加で僅かに下がって避ける。足が不自由な分腕を使った攻撃が多いが、距離があるためとりあえず避けることは出来る。

巻き込まれてひき肉になる奴らを横目に見ながら、避け続ける。

パターンは掴めた。遠い時は這いずりからの叩き付け、近い時は右腕での薙ぎ払い。横行けば膝蹴りだ。

タイミングを読んで僅かに踏み込む。振り翳された手を10センチほどの距離で躱し、一気に走りだす。狙いは肘だ。微妙に高い位置にある頭を攻撃するのは難しい。

完全に打ち付けられた腕は横薙ぎに振り払うまでに僅かにタイムラグが生じる。その隙を縫って左の肘を斬り裂く。相手の身体が傾ぐのに合わせて移動し右上腕辺りを切断した。

崩れ落ちる身体からさっさと抜け出して安全を確保する。巻き込まれて集まっていた奴らの殆どがミンチになっている。滑りやすくなった足元に気を配りつつ頭に向かって歩き出した。




動揺している隙はない。


悲しんでいる隙もない。


休憩する隙もない。


先を見通す隙もない。


怒涛と言うのが何故だか似合わない性急さの中。


流されないように藻掻く程度は許されていいだろう。


最早〈殺・壊〉す事に躊躇いなど無いけれど。


それが弔いだとしたら少しは救われるだろうか。


そんな現実は塵ほども存在しないけれど。


生きていることだけは否定させはしないさ。


暴虐の全てを懸けて。




静けさを取り戻したコンビニのカウンターで溜め息を吐く。

大体これで全てだとは思うが、名寄側から流れて来ないとも限らない。早い内に戻る必要がある。

商品棚から適当に見繕って補給し、未だ動いている飲料の棚(この冷蔵棚なんていうんだろうな)からペットボトルの小岩井コーヒーを取る。個人的には練乳が入る前の方が好きだったんだが。


さておき、ずらかるか。

帰ったら甘いもの作ろう。つかパフェ食べたい。ビタービタースウィートしよう。おぉうヨダレ出そう。


出てもいないヨダレを拭いながら外へ出る。ミンチになった奴らの血肉の匂いを肴にコーヒーを飲む。クッソ最低な気分だがコーヒー自体は普通に美味くて微妙な気分になる。自分の自転車を回収するのははなから諦めて、放置されていたママチャリに跨がる。微妙に血糊を回避していたため滑ることもなく名寄に向かって走り出した。チラリと確認した時間は20時半。結局休憩していないが朝日を拝む事は無さそうだ。


しっかし無変速はダリィな…。


-----


相変わらずの荒れた道を走る。LAVが通った時に邪魔な車両を跳ね飛ばしたらしく、バイパスは意外に快適だ。ママチャリの貧相なタイヤを痛めないようにだけ気を配り、チェーンが千切れんばかりにペダルを漕いで道程をかっ飛ばす。

稀にいる奴らを躱し、どうしても邪魔な奴だけを叩き潰しながら直走る。

降り口まで残り僅かの二車線に通りかかった時、その違和感を捉えた。


なんだ?何かいるな。コレは…上!?


相当な速度の出ているママチャリを蹴飛ばして速攻で横へ飛ぶ。空中で朱い影がママチャリをぐちゃぐちゃにするのを見届けた直後、全身を荒いアスファルト舗装の衝撃が打ち抜けた。擦り傷を作らないよう故意に転がって勢いを落としながら体勢を立て直す。

軋む体を起こして立ち上がる。視線の先には朱い影。


鬼だ。赤鬼。馬鹿クセェ。


そう表現するより他に無い。

二メートルを越すような体格。真っ赤な皮膚。つかこいつ男か、ぶら下がってやがる…。足首の辺りに僅かに残る布地を除けば全裸だ。筋肉馬鹿の素っ裸とか誰得だよ気持ち悪い。

何気に逸れた思考を立て直しつつ、赤鬼の脅威度を図る。

破壊力はデカブツより下だろうが、十分だろうと予測出来る。大体知覚外から飛んできた時点で異常な筋力を持っていることは間違い無い。アルミニウムとは言え、自転車のボディをぐしゃぐしゃにして無傷なことから頑丈であろうことも間違い無い。

下手をするとブレードでも何度か斬りつけたら刃がなくなる可能性もあるか。大体現時点で、酷使したせいか微妙に切れ味が鈍っているみたいだし、さっきのデカブツは足が異常に堅かった。本来撫で斬る必要の無いブレードで撫で斬りが必要だったほどだ。振動切断の関係上撫で斬りは大した効果はないはずだが硬い対象に対して刃を守るためには撫で斬りは有効らしい。

そうなると、武器が鉄パイプだけになるわけだが、恐らくこいつも効果は薄いだろう。俺の今の筋力と合わせればそこそこの威力は出るが、如何せん鉄パイプそのものが軽すぎる。中に鉛でも流し込めば別だが、重量は一キロを切っている上に全長36インチじゃ大した遠心力は得られない。仮に長さが2メートルあって中に鉛が流し込まれていれば材質的には威力も強度も問題ない。恐らくデカブツのくっそ硬ぇ脚でも叩き折れる。

が、所詮仮定に意味は無い。なら、現状の選択肢では…


逃走一択か。

どれほど頑強だろうと、20mm榴弾はさすがに通用するだろうし、VSSの徹甲弾の威力は確かだ。拳銃弾を除けばロシア産の銃弾の衝撃力は比較的高い。反動は重めだけどな。AWMも.338ラプアマグナムだから十分威力は期待出来るだろう。恐らく5.56NATOは通用せんが…。いざとなればC4爆薬もあるわけだし。


そっと後退する。あちらの注意は間違いなくこちらへ向いている。何かしらのアクションがあれば直ぐにリアクションが返ってくるだろう。キッカケを作らないギリギリの速度で後退していく。

彼我の距離が40mほどになった時、ザリッと小石が音を鳴らした。


瞬間、背を向けて全力で走る。

背後から凄まじい雄叫びが聞こえ、大地を踏み抜く音が聞こえた途端、



俺は宙を舞っていた。



肺から強制的に全ての空気が排出される。

よくある戦闘モノ小説の一節を身持ってタップリと味わう。

背骨から鳴ってはならない音が聞こえたが、それどころじゃない。

激痛に霞みそうになる意識を無理やり繋ぎ留めて、赤鬼を見る。俺にぶち当たった時点で急停止したらしく舗装に小さなクレーターが出来ている。踏み込みの音から俺が宙を舞うまで恐らく約1.2秒程。軽く時速120キロは出てんぞ。なんで俺生きてんだよ。

無駄に暗算などしている内に無様にも地面を転がる。聞こえた音はさておき動くのには一応問題ないらしい。赤鬼から目を離さないように、重心を安定させたまま後退する。


再度、咆哮。


踏み込みのモーションから一瞬で加速したソレを、最速の動きで回避する。スピードを求めて動いたため移動距離は僅かだ。至近距離を通過した朱に戦々恐々としつつ体勢を立て直す。咆哮、踏み込み、突進までの感覚は恐らく前回とほぼ変わりない。なら音だけでどうにか避けられる筈だ。


意識のギアを一つ上げて、俺は極限のチキンレースへ参戦した。


次回、俺と屍と鉄パイプ。あと、進g…いや、なんだ。赤鬼だな。うん。


8/1 計算ミス修正

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