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俺と屍と鉄パイプ。  作者: 橘月 蛍
第1部 悪夢の始まり、日常の終わり。
25/47

俺と屍と鉄パイプ。あと、突入と救出と居残り。

寝落ちしたため六月中の投稿に失敗した挙げ句、仕事に遅刻しかけたとか。


皆さんのご意見、ご感想お待ちしております。とか。

らしくない。


本当にらしくない。


自分を危険にさらして。


あの時と同じ状況に自分を投げ捨てて。


死にたいのか。








     きっと死にたいのだろう。








二度と戻らないように思えた町に戻ってきた。

鬱だ。非常に鬱だ。

一人で走ると今までの事を思い返してしまう。事の起こりより前の自分と比べてなんて活き活きとしたことか。それでもやっぱり感じてしまうんだ。


生命を懸けてる時にだけ、生きている実感を。


今までの世界がゴミに思えるくらいの充実感。充足感。


友人だと思っていた人を、家族を手にかけた罪悪感も、悲しみも


自分が人でないヒトになっていく恐怖も、飢餓感も


全部吹き飛ばすほどの生の充足が。


死地へ自ら踏み込む程の充実感が。


確実に俺を虜にした。




っと、要らん事を考えてしまった。

バイパスの下を抜ける道をギリギリまで飛ばしながら走り抜ける。天塩川にかかる大きな橋を超えてもう一度、美深の町を視界に収めた。


-----


拠点に使っていたコンビニ。ずらりと取り囲むようにして奴らがたむろしている。

無造作に打ち捨てられた俺の自転車がアイツがココにいることを示している。

LAVのエンジン音に反応して奴らがこちらへ寄って来るのを確認して車から降りる。エンジンはかけっぱなしだ。ブレードは抜かずに、腰の後ろでホルスターに収まるルガーを一丁抜いて構える。薬莢の落ちる音にだけ気を使えばブレードと変わらないほど静かだ。左手に厚みの薄い10発入るマガジンを二本挟んで、右手首の下に添える。LAVに取り付こうとする奴らを5mほど離れた位置から撃つ。殆ど音を立てないようにしながら、二十数体いた奴らを全て片付ける。


さて、アイツは生きているだろうか。




「誰か居るかっと。」


バリケードを足場に二階から侵入し、外に響かないよう気を付けつつわざと音を立てる。事務所をスルーして階段を降り、店内への扉を少し開ける。


人の影はなし、物音もなしっと。敵と思われないといいけど。


今度は音を立てずにそっと店内へ入る。棚の影にそれらしい気配はない。ちらりとカウンターの方を見る。さて、何がいいか。

無造作に、適当な菓子パンを手にとって、カウンターへ放る。そういえば電気が止まっているな。

カウンターの縁に当った菓子パンが破裂音と共に吹っ飛んだ。


「良い反応だ。」


そう声を掛けると、呆れと疲れの見える深い溜息とともにカウンターの裏から直人が出てくる。


「やっぱりお前か。何故来た。」


今度はこちらが溜息を吐く番だ。コイツはアレだ、あいつらの管理を俺にやらせようという訳だ。戦力として使える最低限がいれば、さして役に立たん奴らは好きにしろって感じなんだけどな。


「一人で来て二人で死んでハイ終わりってか?面白いこと言うよな。せっかく、子供二人と歩く動物園助けたのに、今度は主力とその嫁さんを見殺しにすると思うか?ってか、お前本当に俺が来ないとか思ってなかったろ?」


焦って飛び出して、途中で俺来るんじゃないかって気付いたクチだろうに。


「あれだけ落ち着いていれば俺がいる必要も無いだろう?」

「アホか。」


俺の吐いた言葉に直人は苦い顔をする。それも僅かで、フッと笑ってもちろん手伝うよな?とこっちを見てくる。


「ぬかせ。早く行くぞ。」


思い切り睨めつけて、背を向けるとクツクツと笑いながら行動を始めた。


-----


車を避けながら国道を北上する。市街を抜ける少し前に右へ曲がると小学校がある。その裏に自宅があるらしい。奴らは見当たらない。移動したか、何らかの原因で数を減らしたか。俺が始末した分の五倍はこの街にいたはずなんだ。


「静かだな。」

「お前らんトコ行く前に1000くらいヤッたけどな。その後どうなってっかねぇ。」


直人の運転で、邪魔な車両を後輪を滑らせてぶつかって弾き退かす。帰りは快適に進めそうだ。ちょっと酔ってきたが。

ものの数分で直人の家に着く。


「ラストサバイバー発見だぞっと。」


視界一杯の奴ら。恐らく他の場所に生きている奴が居なくなったからだろう。


「最後の生存者ディスカバリーだぞってか?」

「ふぶぅっ!?ちょっまっwww」


思わず口に含んだほうじ茶を吹き出す。開けっ放しの窓の外に吐き出して被害は無いが、その返しは予想の遥か彼方だ。無茶言うな。


「ほら、行くぞ。連中は待っちゃくれないぜ?」

「俺が適当に惹き付ける。車に乗ったら適当に走れ。適当に追いつく。多分。」

「チャリは置いてく。国道のどっかでな。」

「おうよ~。」


窓を閉め車から降りる。直ぐ側の街灯に近づき、直人の合図する。

車が家に向かって走り出したのを確認して、鉄パイプを振りかぶる。

まぁ折れないだろ。と全力で振り抜く。正に切っ先三寸といった所で、街灯をぶっ叩いた。爆音じみた凄まじい金属音と共に鉄パイプと衝突したところがべっこり凹む。腰が抜けたみたいにガクッと曲がった街灯はかなり滑稽だ。


「しかし、曲がりもしねぇな…。」


それに対して手のひらの鉄パイプは相変わらず真っ直ぐに血塗れている。もう落ちる気がしない。

盛大な音はしっかり奴らの注目を集めた。車が家の敷地内に入って行くのを見届けて、手短な奴の頭を叩き砕く。


さぁ、スイカ割りの始まりだ。




背後から迫るヤツをブレードで斬り伏せ、全体を巻き込むように横薙に鉄パイプを振るう。中途半端に逃れた奴らの頭を叩き割る。

既に家から100m以上は離れて、直人達が出て行ったらしい音も聞こえたが、如何せん数が多く自転車を取りに向かえない。


「集めっ過ぎかっ!」


そろそろ五分経つ。一時的にブレードのスイッチを切らなければまた折れる。

左右から迫るのを一歩下がってかわし、一纏めに首をはねる。ブレードを鞘に突っ込んで、鉄パイプを両手で構え直した。


「ワンステップだ。行くぞ。」


言い聞かせる様に呟いて体と意識のギアを一つ上げる。

沈み込んだ体を蹴り出して、正面の3体を薙ぐ。開いた空間に体を捩じ込むように入れ、突っ込んできた一体の頭を肘打ちでかち割る。伸びきった姿勢から、半回転しながら半ば倒れこむような形で更に前へ。奴らの間をすり抜けて立ち上がり、周りを纏めて一薙にする。数が多く若干重かったがなんとか振り切った。一番厚い部分を抜け、家の方へ走りながら奴らの頭を最小限の動きで叩き割っていく。

ズキッと鈍い痛みが頭の中を揺さぶる。どれだけアドレナリンが出て、痛覚が麻痺していても脳そのものが上げる悲鳴を誤魔化すことなど出来ない。それでも最初にやった時ほどではないのは、きっと意識のギアをあまり上げていないからだろう。身体能力に見合うだけの意識の加速。無反動とまで行かずともこの程度の痛みならどうにでもなる。


30数体叩き割った辺りで、自転車に辿り着く。オンロードの速度の出る方ではなく、折り畳みの癖にオフロード仕様の生意気なヤツを乗ってきたらしい。これに暫く分の貯金が消えたのは痛かった。

ロックピンを引っこ抜き、持ち上げるようにして広げてから置くと展開完了。ロックピンを突っ込んで、オフロード用のバネの位置を若干修正して乗り込む。

速度について来られると厄介だが、この密度ならぎりぎり抜けるか。

一体の間は2m無い程だ。鉄パイプを腰に引っ掛けるようにしてハンドルごと握り込みペダルを漕ぎだす。自転車の運転は別段上手くないので、段差が無いか注意しながら伸ばされた手を払う。片手運転だと大したバランスを取れない。両手離しはぶっちゃけ無理だ。

鉄パイプを落としてしまわないように上手いこと引っ掛けながら速度を上げていく。直人の走った後を追うようにして疎らに奴らが続いている。囲まれた時点で音を出すのを止めたのが悪かったか。

アイツも武器を持っているはず。問題無いだろ。

国道へ抜けて、コンビニの方へ南下する。名寄と違い殆ど障害物の無い道を走り続ける。途中からブツリと途切れた奴らの群れに嫌な予感がひしひしとしてくる。


考えても見ろ。

奴らの集団が一つだと何故断定出来る。拡散した数も集まった数も考えたってアレじゃ少なすぎるだろう。

最初の街灯の音はドコまで届いた?

そりゃあ決まってる。



”町中だ”



じんわりと疲労が滲み出てきた足に叱咤を入れて速度を上げた。



----



「クソッタレだ!」


無数の奴らに囲まれて立ち往生する直人たちの乗ったLAVを見つけ口汚く言葉を吐き捨てる。

チャリを乗り捨てて、奴らへと突っ込む。

まだ大丈夫だ。どこも破られた様子は無い。

恐らく、ある程度轢き潰した所でタイヤがスリップしてど真ん中で止まったんだろう。LAVの屋根にチラチラ見える薬莢の金色がある程度応戦していたことを表している。エンジンこそかかっているが、あの状態から走り出すことは出来ないだろう。いくらウェイト差があっても数が異常だ。

目測500あまりの奴らだ。一人辺り50kg程度としても50*500で25tだ。タイヤが血糊で滑ることも考えれば無駄な足掻きにしかならない。

機械的に奴らを始末しつつ方法を考える。最低限半数以上壊した上である程度散らさなければ身動きは取れない。役所に行く時は順番に処理したが、一纏めで500は俺でも無理だろう。

一応銃も手榴弾も有るとはいえ…。

いや、銃か。一人で対処することもないよな。

考えをざっくりと纏めて、LAVへ向けて進み出す。コチラではなくLAVのエンジン音に惹かれている為に対処はそれほど難しくないが、如何せん数が多すぎた。

二分強かけてLAVの屋根に飛び乗り稼働時間ギリギリのブレードで周囲を一薙してから、LAVの銃架のハッチを開ける。


「生きてるか!」

「お前良く来れたな。生きてるぞ。」


若干ぐったりとした様子で嫁の頭を撫でながらそう返す直人に雑なドヤ顔を返してやると、フッといつも通りの笑いが帰ってきた。


「よし、元気そうだな。奴らは引き寄せる。こいつで奴らを減らしてくれ。減音器ついてるからガンガン撃てよ。よろしく!」

「おいっ!」


銃二丁をマガジンをさっさと投げ渡して、何か言いたそうなのを無視してハッチを閉める。

よじ登ってくる奴らを蹴落としながら、手榴弾を一つ、LAVの前方に放り投げた。綺麗な放物線を描いたそれは、鋼製の電柱に当って高い金属音を出して周囲の奴らを引き寄せた後、爆発した。

爆心地から綺麗に円形の空白ができるが、爆発音に引き寄せられた奴らがあっとゆう間に埋める。その横から、根本を抉られた電柱が倒れ、途中で電線により止まった。もう一つ手榴弾を取り出して、安全ピンを引き抜きレバーを開放し、一秒半ほど待って電柱の先端へ放り投げる。電柱の先端より少し落ちた所で爆発したそれは奴らの頭を幾つか吹き飛ばしつつ電線を引き千切った。


「ギリセーフ。コントロールに期待できんなぁこれは。」


ボヤきながら、再度ハッチを開けてよろしく!っと一言言った時、電柱が派手な音を立てた。結果を確認せず、大分疎らになったLAVの周りを更に掃除する。後は電柱に群がる奴らを潰せば、大方いいとこだろう。

ブレードの冷却時間を考えながら、鉄パイプを両手で握り直した。



-----



「多いなクソ。」


久し振りに手の感覚が無くなって来た。

直人たちの方に奴らが行くことは殆ど無くなったが電柱を時折叩く俺の方は満員電車だ。乗ったことねぇけど。大体、俺の乗る電車は閑散としてるし。

最初の方こそバンバン撃ってた直人たちも残弾が怪しいのか、近寄る奴らの排除とたまに俺の援護くらいで撃つのを控えている。弾倉も予備弾も全部置いてきたからどうしようもない。


前から迫る奴らをテンポよく叩き、振り向きざまに首の骨を叩き折り、左から来た奴に腕を絡めて捻り折る。そいつを投げてスペースを確保し、後ろから来た奴は足を払い踏み砕く。何度か踏み砕いたせいか靴が怪しくなってきた。ベルト固定だから緩んだりはしないが。

しかし、キリがない。LAVの方は一応空いてる。どうする。


いや、選択肢とかねぇんだけどよ。


「直人!行け!」


叫んで、電柱を思い切り叩く。鋼製の電柱が上げる派手な音が車の近くに居た奴らも引き寄せる。

直人の嫁さんがチラリと迷子の様に泣きそうな顔をしてこっちを見たのを視線を逸らしてやり過ごし、走りだしたLAVを見送って電柱を再度叩く。

あいつらはコレで問題ないとして、どうやって名寄まで戻ろうか。考えるよりも一先ず周りの奴らを叩かないと行けないわけだが。


まぁ、精々生き足掻いてやろうか。


-----


時間が経つにつれ、トカゲ野郎だの真っ黒野郎だのが寄ってくるようになってきた。

僅かずつ移動しているものの何時間掛かるか分かったものではない。下手すりゃあ朝焼けが見られるぞ。街灯の明かりこそそれなりにあるが、それでも夜の闇の中で動く真っ黒野郎を捉えるのは面倒だ。服が明るい色の時はいいが黒ジャージはマジビビった。


もう少し行けばコンビニに着く。一度休憩がてら籠城しよう。しんどくなってきたしな。

迫る奴らをなぎ倒し、トカゲ野郎の頭を叩き潰し、真っ黒野郎をホームランする。嫌に生命力のあるトカゲ野郎も脳味噌叩き潰してぐちゃぐちゃにしてやりゃあ二度は無いさ。




なんとかコンビニまでたどり着く。

ピンピンしてんのは鉄パイプくらいで、靴も服も俺自身もボロッボロだ。コンビニのバリケードは来る度ちまちま増設したからしばらく持つだろう。

事務所に上がる余裕も無く、カウンターの内側にべったりと座り込んでため息を吐く。

携帯の時計を確認すれば、時刻は19:41だ。


これはマジで朝日拝むぜ。

生きていれば…だがな。


近づいて来た地鳴りのような足音に力無く嗤いをこぼして、もう一度立ち上がった。

次回、俺と屍と鉄パイプ。あと、独りきりの撤退戦。


今月中には投稿したいよ!がんばる!

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