俺と屍と鉄パイプ。あと、帰着と連絡と独走。
とりあえず区切りが良かったので切りました。
若干違和感がありますがよくわからないとです。
真っ暗な視界の中、ドコかに突き刺さったらしいブレードのスイッチを切って手を切らないように気を付けながら周りを探る。斜めに突入したせいか完全に幌に包まれた状態ではイマイチ周囲の状況がパッとしない。
なんとか幌を剥ぎ捨てると冷たい目の穂月と目が合った。スッと目線の動いた先には、座る両足の間に半ば以上突き刺さったブレードがある。
「殺す気ですか?」
絶対零度の視線に思わず引き攣った苦笑をしながら手を振って悪意のないことをアピールする。
「有用な人員を擦り減らすほど愚か無いわ。」
わざとらしくため息を吐く穂月にもう一度苦笑しながらブレードを引き抜こうと引っ張る。ガッチリと刺さり込んだせいかビクリともしないブレードに一旦抜くのを諦めて、開いた席に座る。
「切断時に融解した金属が張り付いているようですね。戻ってから抜きましょう。」
言いながらブレードを避けて別の場所に座り直すのを見て器用なもんだと関心する。外を見た時転がっていた黒い奴らやあのデカブツ、放置するのもどうかね。回収すれば色々分かりそうだが…。
「あれ、どうする?」
「ひとまず放置するしか無いでしょう。各所へ連絡を取り拠点の防衛に尽くしたほうが無難かと。」
それもそうだ。現状、あのサイズの奴に有効打を与えるには7.62クラスのバトルライフルが無いと駄目だ。車載の50口径のM2重機関銃ならさして苦労せずにやれるだろうしな。それに、この感じならまだまだ集まってくるんだろう。
「じゃその辺、説明頼むわ。ああいうのが出るなら今のラインを縮小する必要もあるだろうし、こっちはこっちで西条の防御固めないと不味いしな。」
「時間の経過と共にアレら以外のモノとも遭遇する危険性が高いです。早急に対処しましょう。」
とりあえず、今のところやることにさして変わりはないが。使わねぇと思って説明しなかったが、RPGの使い方を説明しないとダメか。あのサイズなら紗那のグレネードか、RPGか、カイトのVSSもそれなりに効果はあるだろうが…。弾の数がな…。
トラップツールを使うことも視野にいれるか。しかしC4なんぞ下手に使えば西条が丸ごと吹き飛びかねん。
「おい、大体聞いてたが後で集まってくれ。お前もな。」
「うへぇ…俺もかよ…。」
バッチリこっち見て言うんじゃねぇよ…。面倒くせぇ。
「一応、都合上統率者ですので出席は当然かと。」
穂月、必要になればバリバリ喋るんだな…。さっきから視線は冷たいが。
「分かったよ。出ればいいんだろ。ここでどうするにしろLAVが来たら俺らは西条の方へ戻るからな。色々と意見交換だけはしていくがな。」
「我々にも仲間がおりますのでご了承いただければ幸いです。」
穂月が付け足す。ため息を付いて若いのが「わーってるよ」といってそれっきり黙った。
「情報と車両が手に入ったのはいいことだ…。しっかし、やっこさんも品揃え豊かにしやがって。対処考える身にもなれよ。」
「こちらで判明している分にはアレらにそのような思考を期待するほうが間違いかと。」
「………わーっとるわい、そんくらい。」
どうせ、こうなった理由もよくわからないんだ。気にするだけ無駄。
ま、穂月がこっちきた時点で社長絡みてことだけは確実だな。あいつ絡みでなきゃもっと別の奴を堂々と送ってくるだろうし。大体この件に関する情報が現時点でまだまだ少ないってのも本社の方でトラブルが無い限りありえなしな。本社が狙われるって事は会社の関連機関も狙われてるだろうが…。このへんにL.G社の支社はないはずだしどうなっていやがるのか。
無闇に場所を増やせば制圧出来なくなるリスクも増える。てことはこの規模でやったなら相当デカいとこが黒幕に決まってる。この件に関して自然災害的な原因ではない事は間違いない。やり口があからさまだしな。隠す気もないのか…隠す必要がないのか…。ま、何にしろ大体の見当がついちまうような状況だし、精々利用させてもらうことにしようか。
ココを狙った理由だけはさっぱり分かんねぇんだよな。俺とアイツが知り合いだって言っても、アイツの知り合いなんて世界中にいるだろうに。今更だがな。
「もうすぐ着く。めし食ったら前に集まったトコに来てくれ。」
「七瀬さんと大宮さんには私から伝えておきますので、先に食堂へどうぞ。」
「おう。…忘れてたな。任すわ。」
すっかり忘れていた。放っぽっておいたらさすがに怒るだろうな。いらんことを考える暇があるんだから、もう少し周り見ねぇとなぁ。
ゲート周りの奴らを挽き殺しながらくぐり、入り込んだ奴らをパッパと片付けて若いのと別れた。話し合いには若いとおっさんと後何人かでするらしい。何人でもいいけどな。
「ってことで話は終わりだ。奴らさえこっちの指示に従えば今のところ問題無いだろう。」
結局、今のラインは縮小しない事になった。居座ってる傭兵共と話を付けて防御に当たってもらう。それによって奴らの行動を制限する事も視野に入れてる辺り中々強かで良い事だ。
話し合いが長引いたせいかLAVが帰って来たらしい。途中で連絡が入った。七瀬と大宮は帰りの分の物資を積んでるはずだ。燃料のストックが無いこちらとしては有難いもんだ。
「戻ったらどうするかな。とりあえずバリケードの補強と見回りか。またあれこれ考えないといけないとか止めてほしいわ。」
「最初に陣頭指揮取ってしまったのが運の尽きですね。ご愁傷様です。」
「なんつうかお前…何気に毒舌なのか?」
答える様子もなく部屋の出口へ歩き出した穂月を追うために椅子から立ち上がる。
迎えが来てからの動きもそろそろ考えておいた方がいいか。あいつは恐らく俺の事を'わかってる'。嫌にでも振り回される覚悟がいるだろうな。別にいいけどよ。
LAVのエンジンキーを回し、僅かにアクセルを踏み込んで吹かす。軍用車独特の低めのエンジン音が響く。個人的に言えば車なんぞ乗れれば何でもいいんだが、時と場合によってこういう車も悪くない…とかな。随分改造してあるようだが自衛隊ってそういうのいいんだったか?
「そろそろ出ませんと日没に間に合いませんよ。」
「飛ばすから捕まってろよ~。ちなみに俺は免許取りたての初心者ドライバーだからな。」
「「えっ!?」」
七瀬と大宮の呆けた声を無視してアクセルを思い切り踏み込む。
短く上がる悲鳴を無視して、派手な音を立てて開けられるゲートを飛び出す。人体を弾き飛ばす反動を押し切るために低いギアでガンガンアクセルを吹かす。肉壁の密度に合わせてギアをこまめに変えて出来るだけ高速を維持する。いくら軽装甲車両と言えど、フレームの強度はそこまで高くないのか嫌な音が聞こえる。が、メガクルーザーでやった時のような壊滅的な音じゃない。
「問題無いようですね。」
「俺的にはもう少し強度があるかと思ったが、重量との兼ね合いかねぇ。」
「さぁ?私には何とも言えません。我が社の同系統車両は頑強ですので。」
どこぞのドイツ車みたいに無筋コンクリートをぶち破るレベルで頑丈だからな。それを軽自動車でやるしな。それが豆柴なんて名前とかな…。
「とりあえず、変なのに遭遇しないようにだけ気ぃつけて行くか。まぁ、遭遇したらしたらなんだがな。」
「銃架用に何か頂いて来れば良かったのでは?」
「おぉ…忘れてたわ。」
「「えっ…!?」」
車に乗ってからこの二人は驚くことしかしてないな。着くまで暇なんだから話題でも提供したらどうだよ。
車が二度も通過したルートには無数の奴らがいる。それを跳ね飛ばしながら走っているというのに話題を提供させようというのは無理があるだろうか。運転している本人のほうが遥かに負担ではあるものの、まずこの状況で雑談するところがおかしいと言えるが。
時折、べっとりと張り付く血肉をワイパーとウォシャーで洗い流し微妙に赤いガラスの先に黒い一団を見つける。
「もしかして、あれって突然変異的に時間経過で増えるのか…?」
「否定する要素も肯定する要素も現状ありません。とりつかれなければ良いですが。」
「フラグ?」
「大宮!?それのほうがフラグだぞ!?」
七瀬の半分悲鳴のような声の直後に黒い一団が飛びかかってくる。殆どが弾かれる中、何か張り付くような音がした。
「穂月よろしく!」
鞘からブレードを抜いて渡す。
張り付かれた状態なら銃より使いやすいだろう。恐らく。多分。なんとなく。
黒いのがキィキィと耳障りな呻きを屋根の上であげる。穂月がブレードを受け取り、しゅるりと席を抜けて閉じられていた銃座の扉を跳ね上げる。鈍い打撃音と共にバックミラーに黒い影が映り、続けて耳障りな叫びとともに二つバックミラーに影が映る。バンッと勢い良く銃座の扉が閉じられ、しゅるりと戻ってきた穂月が僅かに血に濡れたブレードをボロ布で拭いて鞘に戻した。
すっと伸びた手に握られたブレードが鞘に差し込まれた時はヒヤッとした。シフトレバーに伸ばした手の近くを抜き身の刀身が通るのは精神衛生上良くないと思う。
「この状況そのものが精神衛生上非常に悪いと思いますが?」
「そんな顔に出てるか?」
「いえ、口に。」
思わぬ誤算だ。
黒い奴らは身のこなしは軽いものの、移動速度は所詮、ヒトの全力疾走程度で車には追いついて来なかった。集団でない限りは、僅かにハンドルを切って取り付かれるのを防ぎながら、ひたすら西條への道を走る。予定ではスロープの一部を開放して車両の出入口にしているはずだ。コンテナの中の物資が役に立った。ある程度の殲滅力がある現在なら奴らを排除しながら短い時間なら作業できる。
スロープ直前で派手にドリフトをかまし、そのままバックで入ると増設された金属製のゲートが閉じられる。若干ギリギリだったが入ったから良しとしよう。
「貴方は借りたものを直ぐに壊す気ですか?」
「気にするな。まだ壊れてない。」
「「まだって何…まだって…。」」
こいつら無駄に息合ってるな。
シャナがスロープを駆け下りてくるのをバックミラー越しに確認して、LAVを降りる。
「龍人、面倒なことになった。」
「面倒って?」
「赤城に電話が来た。血相変えてお前のチャリ奪って走ってった。会話で深月がどうとかって。」
「あぁ、嫁さんか。」
結婚してたのか…。と呟いてそのままシャナが踵を返す。
「穂月、細かい計画は任せた。ちょっと出てくる。」
「社長程では無いですが貴方も人使いが荒いですね。」
それほどでもwと返して降りたばかりのLAVに乗り込む。
正直言って本当に面倒だ。
LAVを走らせながら思う。何でこんなことしてんだろうか。別に引きこもっていても良かった気もするし。人様の事情に首突っ込むほど偉いのかよ。
あぁ…
本当に面倒だ。
直人のフルネームは赤城直人ですた。たまに自分も忘れそうになるわい。
次回、俺と屍と鉄パイプ。あと、突入と救出と居残り。