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俺と屍と鉄パイプ。  作者: 橘月 蛍
第1部 悪夢の始まり、日常の終わり。
23/47

俺と屍と鉄パイプ。あと、黒い奴…じゃないわ…。

予定文字数を超え11000字を記録したのでちょっと読むのに時間かかります。


「ストップ。直人、運転代われ。」

「構わないがどうした?」

「さぁ?」


この応答は予想外だったのか見事な変顔を披露しているのを意図的に無視して刃を抜く。

メガクルーザーの天井板と屋根の厚さは合わせてもまぁ3センチがいいところだろう。素の状態ではさすがに切れる気がしないが。

スイッチを入れて、耳鳴りのような音に顔を顰めながら刀身が温まるのを待つ。こいつの弱点は耐久性とこの刀身が温まるまでのタイムラグだな。前回気にせず使って折ってんだからこっちは折らないようにしないと。

掌から伝わる僅かな振動が安定するのを確認して刃を思い切り天井に突き立てる。


「おい?なにしてるんだ。」

「気にするな。問題ない。」


直人の疑問をバッサリ切り捨てて人が通れる程の穴を開ける。


「ライフル。あと弾も適当に置いといて。」


無言で渡されたSIG550の動作をサックリ確認し、開けた穴から身を乗り出す。

まだ少し遠いが、自衛隊の建物と思しき物が見える。それと、その周りを徘徊する奴らの姿も。


「直人、近づいたら速度落とせ。そのまま轢いて行くには少々数が多い。帰りは別の車かっぱらってもいいが行きで潰れたら困る。」

「ん。あぁ見えた。ギリギリまでは速度出したほうがいいか?」

「いや、少し手前で落としていい。射撃はお前らと同じ素人だぞ。」


さすがに幾ら数が多いからと言って時速80kmで走る車の上から撃つとか無理にも程がある。


「あ、突破したらすぐに降りられる様に動作の確認と装填と忘れるなよー。まぁ、セフティは外さないほうがいいが。」

「さすがにセフティ外す馬鹿はいないんじゃない?」

「紗那、セフティ。」

「あ。」


こいつ最初っから掛けないで来てるからな。わざとかとも思ったが。わざとにしても危ないから掛けといてほしいな。俺ですらセフティかけとるとゆうに。


「速度落とすぞ。」

「おー。前しか撃たんから多少は轢き潰せ。」

「跳ね飛ばすんじゃないんだな。」

「やってみりゃわかるさバランス悪いの轢いたらどうなるか。」


身構えてる人間は撥ねたら飛んでくけどな。当たった場所よか重心が低いときゃ大変だ。


「さて、やるか。」


とりあえず、正面の邪魔になりそうなのは10mまでで20くらいか。良くて5~6殺れりゃいいか。

路上を走っているとはいえ結構車は揺れている。直人の運転の癖も加味しながら適当な奴に照準を合わせる。セレクターはセミオート。ばら撒いても効果は無いからな。


まず一発。

ハズレ


もう一発。

胴体


次。


ハズレ


次々撃っていくが当たるのは精々半分。いや、訂正。いいとこ10発に3発くらいだわ。センスが足りん。


「すいません。」

「おうぅ!?」


結構な集中をしているところに服を引っ張られて見当違いの方向に発砲してしまった。まぁ、なんか頭に当たったんだが。

声の主を確認するとほぼ無言を貫いていた穂月だった。


「私が撃ちましょう。弾の無駄です。」


地味に傷ついた。事実だしそこまで気にしないがその言い方は無いと思うわ。

狭い車内で穂月と位置を入れ替わる。ラッキースケベはあったが…なかった。何がとは言うまい。つうか本人が気にしてなさすぎて最初接触してたことに気づかなかったわ。


入れ替わった穂月が車外に身を乗り出すと、軽快に…凄まじい速さで撃ってるんだけど。

車の正面にいる奴らが次々斃れ行くのを淡々と見つめる。


「さっぱり意味がわからないな。」

「秘書って戦闘能力の必要な職業だったか?」


俺に言われてもな。

直人の疑問は最もだが、これだけの腕前を見せられるとさすがに気付く。この姉ちゃんは社長の差し金で間違いない。あの会社の幹部は既知外きちがいの戦闘能力がある。たまーに気狂きちがいが混ざってるけどな。


「ココ抜けたら自衛隊っぽい武器持った奴らがいるから一応速度を落として近づけ。ただ、なんか雰囲気がおかしいから注意しろよ。」

「あぁ。」


遠目に見るとあんまし自衛官かどうかとか判りゃしないし。社長関連で嫌な噂も聞くしな。

適当に奴らを轢き潰したり弾き飛ばしながら近づく。元の車体の色はどこへやら、赤黒くなったボディはフロントがそろそろ限界に近い。


「穂月さん射撃やめー。向こうのに当たるぞ。」

「そんなヘマはしませんが。数もそれほど多くないので問題ないでしょう。」


そんなヘマは~の件で車内に戻って来てるあたりその台詞の必要性が謎だ。いや、構わないんだがな。

最初の指示通り武装した集団の前で停車する。集団の装備は多分正式装備の89式だろう。ただ、何人かAKシリーズ装備してる奴がいるのが不可解なんだが。

集団の中から9MM機関拳銃(あれ?不人気で配備辞めてなかったっけ?)を装備したおっさんが出てくる。こいつは確実に自衛官だ。日本人だし武器の類は自衛隊の装備だし(防弾具は知らん)だいたい目が平凡すぎるし。


「生存者か?」

「なにおう当たり前のことを。」


思わず素で突っ込んでからこちらのリーダー役を特に決めてなかったことを思い出す。

直人の方に目配せするとつらっとした顔で顎をシャクった。なんだ、やれと?俺は下から数えたほうが早い方の若造だぞ。大体、こうゆう交渉だの面倒なことは大人でやりゃあいいんだよ。

っとそこまで考えて、うちの集団の主導権を思い切り自分が握っていることを思い出した。出しゃばった真似しなきゃよかったとか思ってないぞ。たぶんな。


「それはどこで?」


おっさん空気読め俺を見て言うのかお前は。


「まぁ知り合いのツテだ。細かいこと気にするな。別に危害加えに来たわけでもあるまいし。」

「こちらの助けが必要なわけでは無さそうだがどうしてここへ?」


淡々と次々質問を重ねてくるが俺達の後ろに奴らがいることを忘れてないか?


「単にこっちにここから出る手立てがあるってだけの話だ。安全な場所へのな。」

「?そうか、知らないのか。」

「何を?」


そういえば特に放送機関だのネットだので情報集めたりしてねぇな。


「いや、細かい話は後だ。とりあえず来い。」

「だとさ。…早ぇなおい。」


振り向くと全員車に乗っていた。そろそろ追いつかれるので詳しくはほっといてさっさと車に乗る。やはり狭い。帰りはなんか車両貰ってこう。



とりあえず、自衛官じゃない奴らの嫌な視線はスルーの方向で行く。






案内されたのはなんか会議室っぽいところ。机は無いけど椅子が結構あってこっちは全員入れた。

説明はさっきのおっさんがやるようで自衛官と思われる者が他に2人。おっさんは疲れたようにドカッと椅子に座りこちらを見る。

別にこいつらの事情など関係無いのでさっさと話を促す。


「あぁ、話な。あの化け物共の発生している地域に関してなんだがな。」

「あー、よくある全世界でーとかじゃないノリか。」


問題はその範囲なんだけどな。


「初期の段階で我々は政府の意向を無視して警察と情報収集に回ったんだが、あの化け物が出ているのは東京の一部と北海道の上川管内のごく一部だ。」

「なんで上川管内なんだよ。」

「知らん。東京に関しては被害の広がりが速くて今の前線の場所はわからんが、こっちは士別から美深まで。面積にたいして敵の数は多くないから脱出自体は特に問題ないんだがな。」

「あ、そう。で?」


じゃあなんで出てないんだって話だ。


「いま、東北にいる自衛官と装備片っ端から集めて掃討しようとしてるんだよ。現地の正確な情報は俺達しかわからないからな。」

「一週間たってるんだが?」

「むしろ一週間でここまで進展したって言って貰いたい所だ。コロコロ変わる官僚どもなど当てにならん。」


うわー否定しねー。

ま、あと何日もせずにこっちは封殺出来そうだってか。兵器の数こそねぇが実戦経験を除けばそこそこ練度が高いからな。


「じゃ、とりあえず救助は要らないな?こっちにいる奴らは逃しちまうから、あんたらはあんたらの仕事をすればいい。」

「と、言いたいところだがこっちにも結構民間人を抱えているんだ。出来れば回して欲しいな。こっちは準備で忙しいんだ。」

「あ、そう。じゃあ連絡しとくわ。電話使えるよな?」

「もちろん。」

「じゃ、連絡は後でするとしてだ。奴ら、何者だ?」


軽い薄笑いを取っ払っておっさんを見る。おっさんは眉間にシワを寄せて目を泳がせた後、一つ溜息を吐いてこちらを見た。


「|Ferricフェリック Armsアームズ社を知ってるか?」

「あぁ、世界最大の民間軍事企業だろ。動員兵数が10万を超えるだかの。」


|Ferricフェリック Armsアームズ社。あそこは武器のライセンス生産とか弾薬の生産とかもしてるはずだな。そんなのがここに何のようだ?


「奴ら、手伝うとか言って大量の物資とともに居座ってるんだ。市民と何度かトラブってるから出てって欲しいんだがな。別にココを守るだけならそこまで人員は必要ない。まして指揮系統の違う戦闘集団がいる事自体危険で仕方無い。」

「何人いる?」

「800人。奴らは外の集合テントに追いやったが。宿舎は市民に使わせてる。俺達は会議室や仮眠室でごろ寝だ。」

「装備は?」

「こちらは余剰なし。あちらはAKタイプの極地帯仕様だ。動作不良とは無縁だろうな。あと、大量のグレネードとLMGを持ってきてる。LMGはPKPばかりだな。たまにMG36が混ざってる。どっから入手したんだか。」


とんでもないな。完全に制圧を目的にした装備じゃないかよ。それも物量に物言わせるタイプの。


「とりあえずは放置の方が無難か。救助の関しては任せとけ。俺達はとりあえず戻りたいんだが、車がな。」

「装甲車両を一台貸してやる。定員は10人だが乗れんことも無いだろ。」

「LAV欲しい。」

「端的だなおい。今は出払っている。偵察終わったら戻ってくるがそれまでいないだろう?」

「すれ違った覚えもねぇ…。」

「ちなみにバイパスは行ってないからな。」


そりゃすれ違わねぇな。


「パジェロとかじゃダメか?」

「残念ながらソフトスキン(非装甲ってこと)で抜けれるほど密度が薄くねぇ。」

「そりゃぁまた…エラいところにいるな…。」

「西条だからな。ド真ん中だ。」

「おぉい…あーならどうする?」

「3人残るさ。定員的にもな。」

「分かった。今日の夜までには戻ってくる。とりあえず装甲車両を持ってこさせよう。」

「すまんな。頼む。」


おっさんが会議室を出る。

さて、誰を残すか。俺は確定だな。単に乗りたいだけだが。


「穂月は残すか。直人は帰りの運転手な。ん~。どうする?」


直人が全員を見渡す。


「七瀬、大宮、どっちか残れ。」

「「えっ」」


直人の指名に硬直する2人。お互い見合った後コソコソと話し始める。


「あ、あの…。」

「あ、そ。じゃ二人共残れ。」

「「ええっ!?」」


直人の言葉に揃って大袈裟に驚く二人。

何なんだ。めんどくさい奴らだな。


「龍人、問題ないな?」

「あぁ。」


何やら、またコソコソ話をしているがとりあえず放置でいいだろう。


「てことで4人残るぞおっさん。」


戻ってきたおっさんが扉を開けるのと同時に声をかける。


「おう。もうすぐ準備出来るから先に外に行ってろ。」

「わかった。」


おっさんは特に驚かないで返事をし、直人が帰るメンバーを引き連れて部屋を出た。


「さて、戻ってくるまで何してるか。」

「集まってきている奴らの数を減らしていましょうか?」

「初めてお前さんが意見してるところを聞いたな。そうしよう。」

「で、弾くれってか。」

「話が早くて助かる。」


大げさにやれやれとジェスチャーしながら部屋を出て行くおっさんを見送り穂月へ向き直る。未だコソコソと話をしている七瀬と大宮は無視の方向で行く。


「さて、社長はなんて言ってた?」

「気付きましたか。特には何も。」

「あ、そう。ま、コメントがないと困るわけでもないし構わねぇんだけど。どこの奴ら潰そうか。」

「正面でいいのでは。」

「よし、行くか。」


回答に是非も言わずさっと立ち上がって部屋を出ようとする。七瀬と大宮が戸惑いがちに付いて来るのを足音で確認しながら自衛隊の武装を頭のなかで並べていく。

弾数が多いのは5.56NATOだろうが。7.62は減装弾だから撃っても面白くないし。射撃に面白さを求めるのは間違っているだろうか。いや、この状況下で言えば全く間違えなんだが。


自衛隊の駐屯地自体は塀で囲まれていたりするわけではないが、なぜか駐屯地中央付近のいくつかの建物と車両の倉庫などがある区画だけは、金網と単管で組んだバリケードが設置されてる。これだけ組むには相当な材料がいるはずだがどっから持ってきたのやら。

大方、事態の始まった直後からトラック走らせてそこら中からかき集めたんだろうが。このへん土建屋結構あるしある程度在庫があるだろう。大体、年度跨いで工事ってしないもんだしな。今頃は大体倉庫だの資材置き場だのにしまってあるはずだ。


建物を出てバリケードに設けられたゲートを目指す。ゲートは何故か鉄門で出来ている。

それほど離れていないここまで発砲音が聞こえてこないのは単に減音器をつけているからだ。周囲の奴らを集めないためにも重要なんだが…俺たちが来る時盛大に音を出したせいでやたらと集まってきている。


ゲート近く、何台か置いてある高機動車に無線で会話してるらしき自衛官を見つけた。


「状況は?」

「ん?あんたらは?」

「少し前にココに来たんだよ。すまんな、奴ら集めちまって。」


その若い自衛官はフッと笑って何でもないさと言うと真剣な表情に戻る。


「手伝いにでも来たのか?」

「そんな所だ。多少集まることになっても最終的に殲滅する必要が有るなら撃ってしまったほうがいいだろう。走ってきた感じじゃこの周辺に今集まってきてる以上の集団は殆どいない。」

「そりゃいい事聞いた。手伝ってもらえるか?」

「任せとけ。」


雑に親指を立てて拳を向けると任せたと言わんばかりに拳を合わせてきた。

こいつノリいいやつだな。


「って事で、七瀬と大宮はあそこからゲート周りを撃つべし。」


近くにある建物の屋上を指さしながら、背負ったカバンから二脚と4倍のスコープを取り出す。七瀬のSIG550を奪って、取り出したのを取り付けてさっと調整する。距離が近いから大して問題無いとは思うが。


「あんましサイトずってたら直せよ。こことここ回せば調整できるから。」


適当な説明に文句も言わず頷いて、二人は建物に向かって歩き出した。

…あの建物入ってよかったのか?まぁなんとかするだろう。


「良ければ5.56NATOくれ。持ってきた弾こいつら抜ける時に結構撃ったんだ。」

「あそこで撃ってる奴らのところにたっぷりある。遠慮せず撃ちまくれ。」


なんか、会う自衛官どいつもこいつも公務員っぽくねぇなー。


「わかった。いくかい。」

「あなたの装備は?」

「あー……どうする?」


そういえば22LRなんて無いよな。


「あ、各方連絡なんか忙しくなってるから、俺の使うか?」

「お、悪いな。借りるわ。」


よし、89式5.56mm小銃確保だ。ついでに弾の置いてあるところから9mm拳銃を一丁かっぱらう。

延々と空の弾倉に弾を込めている自衛官の横から装填済みの弾倉を6本ずつとってカバンからウェストポーチを取り出しそこに突っ込む。微妙に入らなかった89式の弾倉を左手に持ってバリケードに張り付く奴らに89式を向ける。


「私は後方を撃ちますので。」

「よろしく。俺はまぁ、適当に撃つわ。」


車の上でもとんでも無いテンポで撃ってたがこれは酷い。

軽快な発砲音とともに、300mは離れたところの奴らの頭が吹っ飛ぶ。サイトも無しに2秒に一発で全てヘッドショット。お前はどこの達人様だと穂月にツッコミを入れたい気分だが、おそらく無駄になる。


「なら、奴らを撃った方がいいだろうっと。」

「どうしました?」

「いや。」


反応されると思わんかってビビったわ。…思わんかってって何弁ですかー?ん、まぁ気にしたら負けか。

さて、そろそろ殺ることやろうか。さっくとな。

89式を構える。狙いはとりあえず近い奴順で。静止状態なら素人でもそれなりの精度は出せる。

バリケードから半分身を乗り出すように狙いをつける。数は多いがバリケード周りは薄い。適当に狙いをあわせて引き金を引く。距離はほんの10mかそこら。射線さえ見えてればまず外すような距離ではない。実際、綺麗に眉間に撃ち込まれた5.56mmの小さな弾丸が奴らの脳を掻き混ぜながら貫通し、中身をぶちまけた。

ほとんど一発で仕留めているとはいえバリケード周りは自衛隊が今まで撃った分を含めそこら中赤黒い液体と飛び散った脳梁でマーブルとなっている。案外、血液の色に染まらずに目立つピンク色した脳みそはエグい物がある。なぜかわからないが腐臭がそれほどしない。理由を考えても全く無駄ではあるが。


穂月の負けじと次々奴らを排除していく。奴らの死体が折り重なって進みが遅くなっているのはこちちらにとって好都合だろう。

早々に3本目の弾倉を空にして次の弾倉を叩きこむ。直接叩くより断然楽だな。などと考えながらそれでも撃つ手を止めない。


1時間くらいか。弾倉にして50を超えるほど撃った。

少し休もうとバリケードから離れると無線に真顔で話しかける若い自衛官がいた。何かあったのか表情が段々と険しくなっている。内容までは聞き取れないが明らかにヤバそうな雰囲気を発してる。

会話の聞き取れる距離まで近づく時には半分怒鳴るようなかなり焦りの混じった声で話していた。


「救援に行くから場所を教えろって!何人生きてる!?敵の数は!?」

「場所は分からない!一人死んで残り5人だ!敵の数もわからない!」


なんだそれ、どういうことだ?まだどこかに集団でいたのか?大きな音を立ててるから街にいる分はほぼうちらのトコに行ってるはずなんだけど。


「周りに何がある!?」

「道!森!山!国道じゃない!畜生!なんだよこいつら!」


全然分かんねぇ。


「おい!落ち着け!奴らじゃないのか!?」

「奴らなら苦労しねぇよ!くっそ!こいつら早ぇ!何なんだこのやろう!」


社長なら何か知ってるか…?電話しよう。


「浅葱!!!畜生!」

「直ぐ見つけてやる!一人でもいい!生き残れ!!!」

「わぁってるよ馬鹿野郎!!!!渡辺!弾補給したら態勢立て直すぞ!」

「くそっ何がどうなってる!?」


若い自衛官が無線機を叩き付けるように置くと俺達の出てきた建物に走っていく。


「さてと、電話するか。」


電波が通じていることを確認してアドレス帳から社長の名前を選ぶ。短いコール音の後小さなノイズとともに電話がつながった。


「どうした?」

「お前は開口一番それか。心配するとか無いのか?」

「心配するような事があった時点でアウトじゃね?」

「まぁ、そうとも言う。って、そうじゃねぇよ。そっちでやたらすばしっこいの知らねぇ?」

「はぁ?ん?あぁ。知ってるわ。奴ら普通は三半規管が残念な事になってるんだが、まともな平衡感覚と視力を持った肌が備長炭みたいな光沢のある黒に変色してる奴らがいるらしいぞ。そいつ、三次元的に攻撃してくるって報告書上がってたわ。」

「うっわぁ…間違いなくそれだな。さんきゅー。」

「おう。もう何日とかからずそっち迎えいけるからな。」

「あ、自衛隊の方にもよろしく。」

「おー分かった。じゃな。」

「おう。」


通話を終了する。

さて、あの若いの探さないとな。ドコ行ったかな?



探しに行く前に弾薬を補給してたら戻ってきた。


「おつかれ。助けに行くんだろう?」

「当たり前だ。幸い古いGPSを積んでるんだ。まぁ精度が半径50mの骨董品だが…。」


何時の時代の代物だそれは。今のって10mくらいまで絞れるだろ…。


「で、横から聞いていた感じだとなんか変異したようなのがいるらしいぞ。肌の色が備長炭みたいに光沢のある黒なんだとさ。」

「それは信用できるのか?」

「当然。現状で最も精度の高い情報を持ってるだろうと思われる連中だしな。」


若いのは考えるような素振りを見せたあと悩むような顔で口を開いた。


「その情報が正しいとして、どんな特徴があるんだ?」

「さっきの肌の色と、奴らと違って視力があって平衡感覚もまともだから三次元的に攻めてくるとさ。俺も気になるし付いてくわ。上の二人はココに置いていくから、穂月と俺も勘定に入れといてくれ。」

「いいのか?人出があるのは助かるが。お前ら他の民間人と違って十分戦力になるようだし。」

「当然。」


適当などや顔かましてやったら笑いやがった。

若いのは半分笑ったまま車両の準備をするといって車庫の方に走っていった。

こっちも準備しますか。




「で、このへんにいると。」

「そうだ。この辺りで戦闘していればすぐにわかるはずなんだが。」


太い幹線道路に何本か脇道のある所で一旦停止中だ。

今のところ戦闘音はさっぱり聞こえてこない。少なくとも50m以内にいるならこちらの音もあちらの音も聞こえているはずだが、コンタクトは全くない。

それどころか、周囲の林からは木々の擦れる僅かな音がするだけだ。殆ど無風の現状だと匂いもあまり期待できん。


「虱潰しに当たるしか無い。大して広さじゃないのだから全員で回ろう。」

「賛成。車で移動でいいな。降りることもないだろ。」


二台の高機動車で幹線道路と言えどUターンできるほどは広くない。脇道にバックのまま入ったりと回頭する手間を省きながら調べていく。GPSの反応のあったところを結局100m以上移動して、戦闘があったと思しきところを発見した。


「若いの、さっきってたのこいつだよ。これ、真っ黒だろ。」

「エグいな。」


そこにはいくつかの奴らの死体と黒い奴の死体があった。

黒い奴は、破れた衣類の隙間から本当に備長炭のような真っ黒で独特な光沢のある皮膚をしていた。そっと触れると硬質そうな見た目に反して普通の肌のように柔らかく、だが炭独特の滑らかさを感じる皮膚だった。


「さって、まぁこれからどうするかな。」


思わずダルそうな声が出たが誰も特に気に留めることもなく次にどうするか話し合いに入っていた。


「GPSもう一度やったが反応が移動してる。基地の方にだ。」

「フラグきたー。」

「代弁ありがとう。全速で戻るぞ。」

「「「「おー。」」」」


緩いなぁ。もっとキリキリしてるもんだと思っていたからわりかし拍子抜けなんだよなぁ。




「大宮、向こう。」

「え?あっち?」

「そそ。」


指差す方をスコープで見る。かなり遠くの方だが黒い点々がこちらに移動してきているのがわかる。


「あれはなんだ?」

「少なくとも味方じゃないと思うよ。」


黒い点は奴らとも違うし車ならこの距離だともっともっと大きく見えるはず。


「大宮、撃とう。」

「うん。どれから?」


七瀬はゆっくりと見回すと一つ、指差した。


「先ずはあれからだ。あっち側は確か防御が薄いから。」

「分かった。」


スコープを覗いて狙いを定める。目測から距離を見て移動速度も含めて調整する。.338ラプアの初速は結構早く、着弾までの時間はほんの僅か。

フッと息を吐いて軽く吸い込んで止める。

後は勘で引き金を引く。

僅かに時間を置いて一発目が黒い奴の頭に当り頭部を僅かに吹き飛ばした。

次々と撃ち続ける。

半ば勘ではあるが5発中3発が命中。


「リロード。」

「ん。カバー。」


弾倉を変える間に七瀬がタタタッと短い連射を続けて逃した1体を仕留めた。


「次、あっち。」


指さして、また短い連射をし始めるのを聴きながらスコープを覗く。

今度は距離が先より短いので僅かに修正してテンポよく弾倉を空にする。


「リロード。」

「カバー。」


今度は4発が命中した。残り4体。

リロードの間に七瀬が2体仕留めてまた撃ち始める。


「やった。」

「お疲れ。今度は向こうだな。」


2体を3発で仕留めて七瀬が新たに指差す方へ目を向ける。


「七瀬、あれ多分味方じゃないかな。」

「後ろ。」

「んーと?あ、見えた。」


無月さんの言っていた装甲車らしき車を追うようにしてとても大きな奴が走っていた。


「何?あれ…。タイラント?」

「それじゃ思いっきり兵器じゃないか。ンデス的な?」


某ゾンビゲームに出てくるのを適当に上げるけど、どれもイマイチしっくり来ない。


「そこまでおっきくない。」

「なんでもいいわ。やるぞ。」

「うん。」


結局は何であろうとやることは変わらないのでスコープを覗く。


「あ、大宮、やっぱいいわ。」

「へ?」


スコープを覗いた先で大きな頭が宙を舞っていた。





「いたぞ!デカイ!」


いやいやいやいや…それなんか違う!

どう見たって黒くないから!


「あれはなんだろうな。」

「知らん。お前は?」


いや、聞いてんだから知ってるわけないし。

とゆうか元が人なのはわかるがどうすれば身長が二倍以上に伸びるんだ?


「足が長いからって車に追いつくのはどうかと思うんだ。」

「さもありなん。」

「すまん。それの意味がよくわからん。」

「いや、おれもよく知らね。」


おい…。

デカブツの後ろを追うがやたらと足が速い。逃げている車両はどこかイカれたのか出ている速度は精々時速60キロってところだ。徐々に距離を詰められているようだがこちらが先に追いつけるだろう。


「穂月、狙えるか?」

「問題ありませんが効果は薄いかと。」


だよねーどう考えてもクマよりさらにデカい奴に撃ったってねぇ。


「気を逸らすくらいになればいいだろ。とりあえず頼む。」

「はい。」


残念な事にここにいるメンバーの最大火力は5.56NATOなんだな。せめて7.62弾があれば多少の効果を見込めるんだが。


「さて、長さは足りるかねぇ。」

「目測で直径30cm足らずだと思いますが。」

「じゃ、行けるか。若いの。すれ違って。」


端的な俺の要求に若い自衛官は一瞬すごい顔して振り向いたが、神妙な顔になると


「どうにか出来るんだろうな。出来なかったじゃ済まさないぞ。」

「さぁ。できるんじゃない?出来なくてもやらなくてもデカい被害が出るだけだし。」

「やるしかねぇっていやぁいいんだよ…。」


呆れたような声音で呟いて若い自衛官はアクセルを踏み込んだ。


「ある程度は足止めしますので。」

「あいおーよろしくー。」


穂月が窓から身を乗り出すのを見てから屋根に上り、ボンネットに足を乗せてブレードのスイッチを入れる。相変わらずの嫌な耳鳴りのような音に顔をしかめながら敵を見る。

刃渡り60cmのこいつが俺の最大火力だ。これを失えばあとは誰かの銃をかっぱらうか鉄パイプか。

相手の気を引くことを考えれば鉄パイプで突っ込んで音立てた方がいいんだけどな。俺以外の身の安全的に。

タタタタタタタッと絶え間なく銃撃が開始される。フルオート射撃にも関わらず大半がデカブツの足に当たる。

体格こそいいが局所的に無数の弾丸を受けた足が血肉を撒き散らしながら真っ赤に染まる。

二度のリロードを挟んで高機動車がデカブツに追いつく。


「よし。サクッと逝っとけ。」


ボンネットの上に中腰で立ち上がる。

右手の刃の存在を確かに感じながら、僅かに振りかぶる。


タイミングは一瞬。


彼我の距離は残り50mほど。

全開で踏まれたアクセルが重い車体を無理矢理に加速して速度差を60キロ以上に引き上げる。

路面の凹凸で震える車体の上で風圧に耐える。


残りの距離がほんの5mほどになった時ボンネットを思い切り踏みつけた。


「とどけよ!?」


踏み出した体は走るデカブツの肩の高さまで飛び上がり風圧で僅かに減速しながら追いついた。


首に目掛けて全力で刃を振るう。

吸い込まれるように叩きこまれた刃はいつも通り、切れづらい肉を瞬時に斬りやすい硬さに固め、振動を生かしていとも簡単に筋繊維を引き千切り、首の頑強な骨を豆腐でも斬るかのように断ち切った。


予想より遥かに少ない抵抗にバランスを崩す。

ヤバいと思った時には遅く頭から高機動車の幌に突っ込んだ。


突っ込む直前、僅かに見えたのは宙を舞うデカブツの首と残された生焼けの傷口から噴き出るドス黒い鮮血だった。


――――

次はしばらくあとになりまするー。

てかね、さっきのについて。も更新しないといけないのよwww

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