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俺と屍と鉄パイプ。  作者: 橘月 蛍
第1部 悪夢の始まり、日常の終わり。
16/47

私と屍とショートスピア。襲撃、思い、生存。

「多過ぎるぞ!」

「文句言わない!」

雪崩の如く迫り来る奴らを必死に壊す。

放水により、一度に相手をする数こそ多くは無いが徐々に押されている以上このままでは崩壊も遅くない。


「攻めるぞ!放水は左右を押さえろ!遊撃隊は中央を叩くぞ!」

「全員構え!3、2、1、今!」

散って戦っていた遊撃隊が相手をしている奴らを叩き潰し中央に集まった。


「全員戦いながら左にずれろ!ゆっくりでいい!」

「練習なしで車掛かりの陣!?」

「正解だ!削り倒せ!」

ぎこちないながらも、ゆっくりとした速度で入れ替わり、左端は放水の援護を受けながら抜ける。出来るだけ戦闘時間を短くし、消耗を防ぐ。


「保つと思うか?」

「あと、20分ってとこかな。」

「リアルな数字ありがとよ。クソ。」

「はいはい、戦う戦う。」

「もちろんだっ!」

話しながらも戦う手を休めない。




20分だ。

リミットは正確に訪れた。

一人、二人、と被害は増え残った者達の負担は増え続けた。そして境界は崩れた。


「紗那!無事か!」

「ギリギリ!」

抑えを失った奴らが次々雪崩こみ、放水をしていた者達を襲う。放水の援護が失われ、更に奴らは雪崩こむ。

この戦いで殺し合いに慣れた数人を除き、犠牲者が増えていく。


奴らの頭を的確に叩き潰し、なんとか自分の周り3mを確保する。

我先にと襲い来る奴らをすべて壊す余裕など最早無く、遠ざける事を優先する。


「後ろ!」

その声と共に足を引き、全身を使って手に持ったポールを振り抜いた。それは後ろから来た屍の水月を穿ったが、元より死んでいるものに効果はなく吹っ飛びこそすれ、直ぐに動き出した。


「右!」

こちらに意識を逸らせた紗那に警告しながら奴らを捌いて行く。流れは衰えることなく私たちを押し流していった。




まだだ。


まだ死ねない。


まだ終わらせるには早い。


まだ知らない世界がある。


だからここで死ぬことは許さない。


紡がれた物語の続きを知るまで。


私はこの世にしがみつく。




10分、生き残った者達は円陣を組み正面の奴らにのみ集中することで負担を減らしていた。


「紗那、長続きしないぞ。」

「わかってる。何か案は?」

「いっそ一階を放棄するか?」

「階段までいけない。」

「クソッ・・・。」

明らかに限界の近い者達を一人ずつ内側で休ませる。休ませられるのは息を整える程度で休息にはならないが荒れた呼吸のままでは行動に支障が出る。私と紗那を除けば動作に余裕のある者は一人、それでも私達より体が強張っているのは明らかだ。皆、精神的に余裕がない。体力の無駄な消費は致命的でアドレナリンのドーピングが切れれば直ぐにでも状況は変わるだろう。私は医者じゃない。全くその瞬間を想像できない。


「あんた下がって!」

紗那が青い顔をしている中の一人を円の内側へ引き摺り倒した。尻餅を着いたそいつの横を中にいた者が通りすぎる。なんとか中央まで下がったそいつは立ち上がろうとして、ガクリッと気絶した。


「拙いよ!もう持たない!」

「何人!?」

「半分!」

「クソゲーっ!積んだ!?」

「馬鹿ぁーーー!」

怒声と共に輪を縮めるが、小さくなった輪の中には気絶したものが増える。


「ヤバい!ヤバい!ヤバい!」

「無理無理無理無理ぃっ!!!」

どれだけ奮戦しようと流石に支えられなくなってくる。


「ッ!!!」

左右を捌いている間に正面が近づき過ぎた。周りは自分の分を捌くので手一杯で援護はない。

ポールで押し返そうとするが掴まれた。


「冗談抜きで積んだか・・・・。」

「まだまだぁっ!!!」

「っ!?」

槍が飛んできた。それは屍の横っ面にぶっ刺さりの目の前に来た。


「皆殺しだ!」

掴んでいたポールを屍ごと突き飛ばし、少し短い槍を引き抜く。目測で160cmぐらいか。

近づく奴らを薙ぎ払う。強度は上々。奴らが体勢を立て直すより早く正面の屍に短槍を突き立てる。正確に頭部へ一撃、頑強な刃が屍の頭蓋を打ち割る。突き刺さったそれを捩じ払いながら引き抜く。油断無く次々に突く突く突く突く突く。


「はぁっ!」

ミシミシと音を立てて奴らを穿つ短槍は徐々にガタツキが酷くなって行く。


「もう一本!」

横合いから投げ入れられた短槍を見て、即座に戦法をかえる。突きから薙ぎへと、技術よりも力で勢いで首を刎ねる。短い穂先では一撃とはいかないまでも、二振りで数体の奴らを壊す。しかし、元からガタつきの酷かった短槍は、5回目の薙払いで穂先はもげ飛んだ。

直ぐさま次の短槍を掴み無心に奴らを突き壊す。ひたすらに何処かから放られる短槍を手に奴らを突き壊す。壊す、壊す、壊す。




私の世界を穢すなら。


貴様らの存在を壊すまでだ。


この世界に物語などいらない。


安寧と想像があれば私はそれでいい。


ここでは手に入らない物はいくらでもあるから。


ならば。


想造者たちの物語くらいは。


自由であればいい。


その為にこの世界。


この混沌は不要だ。


邪魔するモノは壊し尽くす。




手の感覚が殆ど無くなり立っているのが精一杯になった頃、どれだけいるのかわからない奴らは視界内から消えていた。


「何とかなるもんだな。」

「龍人か。助かった。」

「最初見たときはめちゃくちゃ焦ったわ。」

「他は?」

「生存11名。内2名はお前と紗那。」

「キッチリ生き残ったか。」

「とりま、ここ塞いでペリカン行こうぜ~。もう怠くてかなわん。」

「同意。はぁ。やるか」

戻って来た龍人と共にバリケードの修繕を始めていた紗那に合流した。



生き残る。あの世界の続きを見るために。

ただ・・・全ての想造者達に感謝を。


世界の終わりまで。

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