俺と屍と鉄パイプ。あと、発炎筒と手榴弾。
ガタンッ
「クソッ。ひでぇ道だな。」
名寄バイパスを自転車でかっ飛ばすこと30分。平坦だった道に様々な障害物が現れ始めると思うように進まなくなったいった。
いたるところに車が放置され死体が転がっている。所々で事故も起きている。平静ではありえない、この快晴の中の路面状況で、反対車線への飛び出しや玉突き事故など・・・。
轢かれたと思われる死体の中で腐敗の度合いの少ないモノがあることから、奴らが路上に飛び出してきたのだろうか?幾つかの疑問が生まれては消えて、イライラを募らせるのを黙殺して自転車をこぐ足を早めた。
さらに30分。
いつもなら2時間近くかかるのをバイパスを利用し若干向上している身体能力に物言わせ一時間近く早く着いた。
測ったわけではないが、恐らく10kg近く体重が落ちているだろう。普通これだけ身体の状態が変われば重心の変化等でマトモに動けない筈だが・・・。
咬まれてから自分の身体が遅くはない速度で変化してるのを感じる。
今はまだ体力のある一般人レベルだろうが、苦しみを我慢すれば休まず走って来れるんだ。脳のリミッターなどあってないようなものだろう。
名寄市街で自転車は無理だ。そこら中事故車だらけでは俺の足の方が早い。これでも荒地走破能力は一般人よりあるつもりだ。好きなんだよ。障害物競走。勢いさえあれば今なら壁走りとかできるかもしれん。
「とりあえず戻るか。」
まぁ寄り道する理由も無い。
名寄北出口を自転車で駆け下り、左に曲がって道なりに進む。そのまま国道40号線を旭川方面へ向かい南下する。途中やはり大渋滞の上そこら中で事故が起きていたのでそこで自転車は乗り捨てる。
ランニングくらいの速度で走り、車の屋根を飛び移ったりしながらひたすら進む。
「っち。多いな。かったりぃ。」
ほどなくして西條の近くまで来るが、予測していた事態が起こっていた。
西條を囲うように奴らが集まっている。前回の襲撃でバリケードは強化してあるから問題無いはずだが、このままでは近寄る事が出来ない。
バックパックから発煙筒を取り出す。何人か見張りを立てているはずだからバリケードの隙間を狙い、発煙筒を投げ入れる。
カツンッと軽い音を立てて一本目の発煙筒がバリケードの中に落ちた。完璧まぐれだな。そんなコントロールよくねぇし。
直ぐに誰かがかけていく音が聞こえた。全く、慌てすぎだ。一言あっていいだろう。誰か居るのかとかよ。
奴らの相手をしつつ、次のアクションを待つ。程無くして中から何か投げられた。オリーブドライブ色の球状の何か・・・?
「手榴弾かよッ!!?」
慌てて車の裏に隠れる。ただ隠れるだけだと足を殺られる。前輪側のボディとタイヤの間に足を捩じ込み、後輪側のボディを握りしめ車体に横に張り付く。
手榴弾の爆発と共に隠れていた車の片側が浮き上がる。
「うおぉっ!?」
車の下に全身のバネを使い滑り込む。浮き上がった車体は勢いを失わずさっきまで張り付いていた側面を支点に反転した。
回避に失敗してたら確実にペシャンコじゃないか。死ねるわ。
ひとまず起き上がり周りを見渡せば、舗装の抉られた跡が三つ、かなりいい感じの間隔で並んでいた。
バリケード周りは完全に空白地帯になっていた。
「龍人!さっさと来い!」
「いきなり爆破しやがってどんな物言いだ!」
怒鳴りながらバリケードに付けられたゲートをくぐると、間髪入れずゲートが閉めら
れた。
「お前、人ば殺す気か!?」
「はぁ?あれくらいでお前が死ぬかよ(笑)」
「死ぬわっ!!」
突っ込みがてら裏拳を放つが体を逸らし回避された。
「それよりほら、これがお望みだろ(笑)」
「おぉ、これこれ!ってなんでじゃコラッ!休ませろよ!」
思わず差し出された武器を手に取りかける。
「なんだ。休まず戦ってこそ狂sっぐは!?」
「いい加減にしなさい。ペリカンの拠点化は終わってるから奥で休んで。」
更にふざけた事を言おうとした灰斗の脳天に紗那の拳が落ちた。
「おー。あ、美深から団体で来るから。お迎えの準備だけはしとけよ。戦えるメンバーもそれなりにいるから。」
「へぇ。朗報、朗報。あの襲撃で大分逝ったから丁度いいね。」
「あぁ、あんなんとは比べるべくもないほど優秀だから安心しろ。」
「ナイス。準備しとく。」
「よろしく。お休み~。」
「俺は放置かっ!?」
叫びを上げる灰斗をスパッと無視して、寝るためにペリカンへ向かった。