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俺と屍と鉄パイプ。  作者: 橘月 蛍
第1部 悪夢の始まり、日常の終わり。
1/47

俺と屍と鉄パイプ。あと姉との約束。

縦書の確認のため、改訂版を仮投稿。内容に変更は無し。

「はぁはぁはぁっ!」


 もう1km近く全力で走っている。周りに奴等は見えないが、確かに、確実に後ろを付いてくる。


「げほっ! げほっ!」


 もう呼吸をまともに出来ない。脳のリミッターはとうに壊れているのか、限界を完全に無視していた。


「……っ……っ……っ……っ!」


 まだ息が荒いが立ち止まれば追い付かれ貪られる。

 気配はするがかなり引き離しているはず。このまま逃げ切れれば、と思う。

 無理だと分かっていても。


「はっみんないきてっかな?」


 小さな人造の希望を胸に、俺は歩き続ける。


 




 たとえ真実を知ることが出来なくとも。






 ただ、生き残ることだけは。






 諦めないと。






 何も理解出来なくとも。






 ただ、ただ。






 諦めたくなかった。




 


 疲れた身体を引き摺り、二時間ぐらいかけて町に着いた。

 追い付いてきた奴等を叩き殺し道中に居た奴等も叩き殺し、今は奴等の気配はしない。

 近くのコンビニに入って安全を確認し、商品を漁る。今更法律なんて誰も気にしない。

 絶対に安全な場所は無いと解っていても、疲れた体はもう限界を迎えていた。


 それでもどうにかバリケードを作り、二階へ上がって休憩室のソファに寝転がる。

 時刻はPM8:00


 探索は朝からにしよう。


 そう思い、目を閉じる。そのとたん睡魔に襲われ抵抗せず闇に落ちた。




 


 追ってくる。


 奴等が追ってくる。


 屍が歩いている。


 その目には何も映らない。


 逃げる。逃げる。


 奴等が追ってくる。奴等が追ってくる。


 ヒタヒタと淡々と。


 追ってくる。




 


 酷い頭痛と共に目が覚める。

 時刻はAM6:17

 意外としっかり眠れたようだ。奴等は来なかったんだろうか?

 疲労の代わりに空腹を感じて、来たときに漁っていた食糧を適当に喰い下へ降りた。

 窓の外に奴等はいなかった。

 幸いここはまだ電気が通っている。発電所は確保されたようだ。拠点としては十分だろう。

 背負ったままのバックパックを下ろして、はたと気づく。


 ……背負ったまま寝ていたのか。


 どれだけ疲れていたんだ、と思いながらとりあえず使いそうな物を取り出し別のサックに移す。


 今日の得物は――

 鉄パイプ。長さが大体80㎝太さ25mm重さ700gといったところか。実際は鋼鉄ではなく、強度の高いステンレスで出来ている。鉄工所からパクってきた高級品だ。見つけたときは、なんで道北の田舎にこんなもんが? とおもった。下手なバールよりも軽くて丈夫なため、随分世話になってるがいまだに曲がったりしていない。まぁ色はすっかり赤黒くなっているが。

 商品棚から包帯を取り出し元々巻いてあった包帯を外す。包帯を巻くのは滑り止めだ。素のままだと血糊で滑る。鉄工所の旋盤で少しだけ傷つけそこに、包帯を巻いた。今のうちに換えないと滑りやすくなって来ている。


 滑り止めを巻き、少しの食糧、救急用品、工具、衣類等をサックに入れる。移した分も合わせ思ったより重くなった。

 重すぎると奴等の餌食になりそうだが、非感染者のことを考えると、減らすに減らせない。

 仕方ないが、武器を少し減らし軽量化する。

 これで大体12kgというところか。バックパックが60kg近くあったことを考えるとかなり軽くなった。


 サックを背負いバリケードを少しずらして外に出る。しっかりバリケードを元に戻し、町の奥へ歩き出した。


 




 原因は判らない。


 途中経過もハッキリとしない。


 ただ、奴等は。


 どこかから伝わり。


 広がり。


 喰い、貪り。



 そして、いま。




 其処に在る。




 


 二日ぶりに戻った町はやっぱり二日前とは、変わっていた。

 国道に流れていた音楽は消え、車は走っておらず、ぽつりぽつりと停まっていた。災害マニュアルにあるところの、鍵を付けたまま車を置いていくとかそうゆう奴が徹底されてるんだろう。


 ここの人は冷静だな。


 よくわからないところで感心しながら、町を歩く。

 人の居そうな、学校や役所を目指す。奴等がいない。生きている者を追って行ったか。それとも、感染者がいないのか。駆逐されたか。始めの選択肢以外は現実味はないな。


 いや、今この時にすら現実味はないがな。


 今、奴等について解っていることは少ない。

 まず、脳を破壊すれば活動停止する。

 そして、奴等に怪我を負わされる(噛まれる引っ掻かれるなど)事で感染し二時間以下で死亡。奴等になる。また、人しか狙わない。他の生命に影響がない。

 他には、聴覚と触覚の内温度だけが機能している。

 映画やアニメのゾンビと違い奴等は、人だけを狙う。こんなに効率的な殺人兵器はない。無差別なことを除けば。



 少し深く入ってしまった思考を引き戻し、また歩き出した。

 一番コンビニに近かった中学を無視して歩いてきている。今向かっているのは役所。理由は人がいそうだからくらい。



 今役所へ続く道に入ろうとしたんだが、奴等がかなりの数その道に群がっている。とりあえず数えてみる。

 4……8……12……。


 40くらいかな?

 結構キツイが、まぁ気合いだな。

 群がっているという事は生きている者がいるという事だ。感染しているかは置いておいて。

 あまり深く考えず、奴等を寄せるために近くの鉄柱を鉄パイプで打つ。


「あ……」


 その音は、静かな町を盛大に響き渡った。


「不味った」


 早速、近くの店からゾロゾロと奴等が出てきた。

 仕方がないのでサックからナイフを五本取り出し鞘ごとベルトに挿す。サックを電柱に引っ掛ける。


「さて、叩き壊して殺りますか」


 姉との約束。

 屍である奴等はたとえ動いていても生きていないと。だから、活動停止させるのは〔殺〕すのではなく〔壊〕すのだと。

 だから奴等を〔壊〕す。俺はそのために歩き出した。



 


 まず、近くの家から出てきた奴等を〔壊〕していく。奴等は音に寄って来るので一つ〔壊〕したら少し移動し寄って来た奴から頭を潰す。

 この鉄パイプは硬いが軽すぎるため、少し勢い良く振るう。

 前はバドミントンのプッシュのつもりで片手で振っていてすぐに疲れてしまっていたため、今は両手で構えて兜割りをしている。

 コツは尖端から持ち手側に十数cm位のところを当てることだ。先過ぎるとエネルギーが伝わる前に流れてしまう。手前過ぎると遠心力を活かせない。


 そんな感じで十数体、奴等を〔壊〕す。

 町中から集まっているようで数百は奴等がいるようだ。

 少ない方へ動きながら、最小限の労力で確実に奴等を〔殺〕す。


「わりきれよ」


 そうつぶやき、奴等を〔壊〕す。


「ただの動く死体だろ」


 そうつぶやき、奴等を〔殺〕す。


「生きてはいない!」


 そうつぶやき、奴等を〔壊〕す。

 そう、俺はまだわかってない。

 彼らを物に出来ない。

 まるでかぼちゃを潰す様に頭を潰すことにまだ躊躇いを覚えている。


「〔()〕らなきゃ殺られるんだよ!」


 そう吼え、自分に暗示をかける。

 脳のリミッターが少しずつ外れていく。だんだん奴等を〔壊・殺〕することに躊躇いを覚えなくなる。

 頭はただどう奴等を排除するかだけを考える。着替え忘れた赤黒い服を新しい血で鮮やかに染め上げ、脳髄でコントラストを描く。


「あははは!」


 いつの間にか、顔には壮絶な笑みが張り付き自身の精神を必死で保護していた。今の自分は狂っていて本当の自分ではないと言いきかせることで。


 



 本当はこれが自分自身だ。




 本当は……。





 あぁそうか。





 ただ今があるだけか。





 もう本当なんてない。





 ただ今があるから。





 そうだ生きないと。





 諦めない。



 



 諦めたくなかった。



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