プロローグ
「ごめん。瑞樹のことは友達としてしか見れない。好きな子がいるんだ」
俺にとっては一世一代の告白。その返答は随分前に型落ちした携帯にも入っていそうな定型文だった。
仲野瑞樹、二十歳。生まれて初めての告白は寸分の迷いもなく一刀両断。四月だというのにひどく肌寒い春の午後、恋した人の前で号泣しそうである。あ、ホントに涙出そう。
コンビニのバイトで知り合って二年。週末も二人だけで頻繁に遊びに行く仲だ。
ちょっとだけ。ほんのちょっとだけだが可能性があると思っていた。他の奴らより距離は近い。俺以外には二人だけで行動する奴は居ないし多少なり好意を持ってもらっていると思ってた。それが友情だったとしても、この告白に少しは悩んでくれるだろうと思ってたのに。
俯くと涙が出そうだったので目の前の綺麗な顔を凝視する。
少しだけ困ったように寄せた眉。切れ長の双眸が情けない表情の俺映し、薄い唇には緩い笑みが宿っている。艶やかな黒髪がさらさらと揺れていた。すらりとした肢体。ごく普通の一般市民だと知っているが醸し出す雰囲気はどこか高貴で侵し難く、芸能人オーラというのはこういうものなのだろうと思う。そこに居るだけで空気がまるで違うのだ。
目の前にいる恋しい人は、ただただ美しかった。
「でも俺、瑞樹のこと好きだから、これからも友達で居てくれるか?」
あ。紹介が遅れました。
俺の初恋の人、眞野空。自分のことを俺なんて呼んじゃうちょっとアレな女の子ではなく。
俺より長身で、とっても綺麗な美青年である。
よりにもよって初恋相手が同性とは、俺も本当に救いがない男だと思う。分かってるから放っておいてくれ。
心底情けなくなった俺は、とうとう、涙を一筋流してしまった。