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第7話:新入社員の初仕事は、トイレの設置ですわ

拠点構築の第二段階、人員拡張にあたり、まずは預かった従業員のスペックを確認しておきますわ。


前世の棚卸しに比べれば、五人の構造把握なんて造作もありませんわね。

 私は作業開始前に、並んだ彼らを値踏みするように眺めました。


(……よし。数値で見れば、彼らが王都でいかに安月給でこき使われていたか一目瞭然ですわね。

 うちなら福利厚生のピザ込みで、生産性を三倍には引き上げられますわ)


・まずはリーダーのヴェルナーさん。

 防御力が突出していますわね。まさに動くバリケード。

 判断力がシビアで納期を気にするタイプとお見受けしました。現場監督に最適ですわ。


・次に剣士のヴィンセントさん。

 攻撃力……というより、純粋な筋力が素晴らしい。

 重い鋼材やアイアンのスペアパーツを運ぶパワーリフト要員として重宝しそうですわ。


・斥候のリタさんは、俊敏性がずば抜けていますわね。

 ゴミ山の奥深くに眠るデッドストックを見つけ出すピッキングのプロとして期待大ですわ。


・神官のフランカさんは、衛生管理の責任者。


・ 魔導師のラモンさんは、私のDIYを支える外部バッテリー兼、精密溶接の助手。


「……あの、店長? なんでそんなにジロジロ見てるんですか?」


「いえ、皆さんの耐用年数を確認していただけですわ。

 さあ、スペックは把握しました。早速、トイレ建設の現場へ向かいますわよ!」


(……そう。現場で一番大事なのは、いつだって衛生管理なのよ。

 不衛生な職場に、良い仕事は宿りませんわ)


王都のトイレ事情なんて、道端の溝に流すかバケツに溜めて窓から捨てるかの二択。

 そんな前時代的な手法、私の拠点では一秒たりとも許しません。


「そこの大型魔導馬車のフレームを運んでちょうだい。

 リタは周辺の配管資材の回収、ラモンは動力源の調整ですわ!」


私は構造把握(スキャン)を飛ばし、ゴミ山から最適なパーツを抽出していきます。

 壊れた魔導釜(ボイラー)のタンクは、汚水処理用の発酵槽(コンポスト)に転用。

 そこにプフが拾ってきた、分解能力の異常に高い魔導バクテリア(バイオ・クリーナー)を投入します。


「店長、これ……本当にトイレなんですか? 王都の神殿より神々しいんですけど……」

 ヴィンセントが、私が組み上げた真っ白な陶器風の物体を拝むように見つめています。


無理もありませんわね。

 物質構造の最適化(メンテナンス)をフル回転させ、汚れを寄せ付けないナノセラミック加工(防汚コーティング)を便器の内側に施しましたから。

 おまけに、アイアンの排熱を床下に引き込み、便座は常に人肌のぬくもりをキープ。


(……極寒の地で冷え切った便座に座る絶望感。

 あれは、現場の士気を著しく下げる最大の不具合(バグ)ですからね。

 おしり洗浄機能(ウォシュレット)の魔導回路も、バッチリ組み込み済みですわ)


「ラモン、そこに魔力を流して。水圧は一定に、でも優しくね」

 「こ、こうですか? ……うわっ! なんだこの水の動きは! 芸術的すぎる!」


ラモンが叫ぶのも当然。

 ただ流すだけではなく、トルネード洗浄(旋回流水)の原理を取り入れた渦巻き流水ですわ。

 少ない水で、すべての汚物(デッド在庫)を効率よく一掃する。

 これこそがホームセンター店員が夢見た、究極の節水(コスト削減)ソリューションですわ。


「店長……これ、ボタンがいくつかありますけど、この『ムーブ』って何ですか?」

 恐る恐る尋ねるヴェルナーさんに、私は淑女の微笑みを向けました。


「それは、皆さんの尊厳(バックヤード)を、魔法の指先のように優しく、時に激しく洗浄する機能ですわ。

 一度味わえば、もう野外の草むらには戻れませんわよ」


仕上げに、アイアンの余剰電力(アイドル・パワー)を利用して、自動でフタが開閉するセンサーも搭載。

 静かな駆動音と共にフタが開くたび、冒険者たちが「おおおっ!」と驚喜の声を上げます。


(……いいわね、そのリアクション。

 現場のインフラが整う瞬間のこの高揚感、これがあるからDIYはやめられませんわ)


「……信じられない。臭いが全くしないどころか、このハーブの香りは……」

 フランカさんが、入り口に植えられたばかりの魔導ハーブ(芳香剤)に顔を近づけます。


プフが拾ってきた謎の種を、アイアンの魔力が漏れる排水溝(栄養源)付近に植えたら、一晩で驚異的な速度で群生したのです。

 清涼感あふれるミントのような香りが、プレハブ工房全体を包み込んでいます。


「ぷふぅ! むっふー!」

 プフが自慢げに胸を張ります。


(……一方その頃、王都の王宮では、排水が逆流して異臭騒ぎ(バイオハザード)の真っ最中かしら。

 あそこの管理者権限、私以外に誰も持ってないものね。

 暗闇で冷え切った便座に怯えるがいいですわ。ざまぁですわね)


従業員たちは、自分たちの(プレハブ)に設置された魔法の個室を代わる代わる体験し、戻ってくるたびに魂が抜けたような至福の表情を浮かべていました。


「店長……俺、もう一生ここから出たくないです……」

 「王宮の騎士団が攻めてきても、このトイレだけは死守します!」


(……いや、守るべきはもっと別のところにあると思うんだけど。

 まあ、従業員満足度(モチベーション)が爆上がりしたなら良しとしましょうか)


温かい食事、風呂、そして清潔なトイレ。

 基盤(インフラ)が整ったところで、私はアイアンの巨大な肩を見上げました。


「さて。次は移動中の安全運行(セーフティ・ドライブ)のための設備ですわね。

 ヴィンセント、そこの外装プレート(ジャンク・メタル)を持ってきてちょうだい!」


私はアイアンの肩に頑丈な鉄骨(フレーム)を組み上げ、廃棄された防弾ガラスを再研磨(ポリッシュ)して、風を遮りつつ視界を妨げないパノラマ・ウィンドウ(強化風防)を設置しました。


「これぞ、我が拠点の司令塔……観測デッキ(展望台)ですわ!」


「すげぇ……! 崖下が一望できる! これなら移動しながらでも在庫が見つけ放題だ!」

 「リゼ様、これなら雨の日でも見張りが苦になりませんわ!」


「ええ。さあ、これで準備は万全。

 明日はアイアンを巡航形態(キャリア・モード)へ改造し、このゴミ山まるごと積み込んで出発ですわ!」


「「「はい! 店長!!!」」」


雪山の静寂を切り裂くような、力強い返事。

 私の工作拠点は、いよいよ動く巨大要塞(アイアン・キャリア)へと進化の時を迎えようとしていました。

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