第5話:ゴミ捨て場に珍客?
「――ふぅ。室温25度、湿度50%。これぞ恒温維持ですわ」
アイアンの胸部装甲の内側、昨晩のうちに私が突貫工事で組み上げた、高断熱プレハブ。
廃棄場から回収した建築用断熱材を二重に敷き詰め、床下には魔力漏れを起こしていた旧式ヒーターをバイパス接続した床暖房を完備。
外がマイナス十度の極寒でも、この居住空間の中では薄手の部屋着で過ごせますの。
「プふぅ……」
床の暖かさに骨抜きにされたプフが、お腹を出して液体のようにとろけていますわ。
(……よしよし。これで「住」の品質保証は完璧ね。さて、店長として朝のルーチンワークを始めましょうか)
私は防寒用の作業服に着替え、アイアンの肩口……地上十メートルほどの高さにある展望デッキへ出て、朝の周辺検品を開始した。
真っ白な雪煙の向こう、廃棄された魔導馬車の残骸が積み上がるエリアに、不自然に動く影を見つけた。
一、二、三……四人。
装備はボロボロ、寒さで膝をガクガクと震わせながら、ゴミ山を必死に漁っている。
「……あー。多分、隣国への護衛か何かで遭難した冒険者ね」
(……装備の摩耗具合、それにパーティ構成のバランスから見て、格安で依頼を請け負った新人か、あるいは運の悪い中堅かしら。この崖下、資材は豊富だけど食料資源はゼロですわよ。現場の状況判断を誤ると、一発で詰みだわ)
放っておいても良かったけれど、彼らが漁っているのは、私がさっき目星を付けた高級魔導部品……魔力抽出器の山だ。
素人に無茶な掘り起こし方をされて、物理破損されるのは、元店員として我慢ならない。
(……さて。今日こそアイアンの中に快適な自室を内装工事しようと思っていたのだけれど。
現場というものは、いつだって想定外の特急案件が舞い込んでくるものですわね)
それに…
(……良質な中古在庫を台無しにされるのは、職人のプライドが許さないのよ。あそこ、まだ生きてる回路がいっぱいあるんだから!)
私はアイアンの巨大な手のひらに乗り、エレベーターのように彼らの目の前まで降りていった。
「そこの方々。立ち入り禁止とは言いませんけれど、その山は私の管理区域ですわよ。勝手に在庫を荒らさないでいただけますかしら?」
「……っ!? ゴ、ゴーレムが喋った……!?」
「逃げろ、伝説の守護神が目覚めてるぞ! 祟りだ、ゴミを漁ったから怒ってるんだ!」
リーダー格らしき剣士が腰を抜かして雪の上にひっくり返る。
アイアンを見上げる彼らの視線は、恐怖と絶望に満ちていた。
(……失礼ね。アイアンは今、私のおかげで動作環境最高なんですわよ。そこら辺に転がっている錆びた鉄屑と一緒にしないでほしいわ。失礼しちゃう)
「つなぎ」にリメイクしたドレス姿、腰には万能工具を下げた私を見て、彼らはさらに呆然としている。
「安心なさい。私はただの工作令嬢ですわ。あ、ついでに元公爵令嬢でもありますけれど。それより、あなたたち。顔色が不良在庫並みに真っ青ですわよ?」
話を聞けば、彼らは王都からの避難民を護衛していた冒険者パーティだった。
例の王宮インフラ……基幹暖房システムが止まり、王都では凍死者が出始めたせいで、街は大混乱に陥っているらしい。
慌てて脱出しようとしたものの、吹雪で視界を奪われ道を見失い、この「死の崖下」まで滑落したのだとか。
「……なるほど。納期ギリギリってわけね。完全に運用計画のミスですわ」
(……ったく、あのアホ王子のせいで、現場の末端まで連鎖倒産じゃない。元いた職場の不祥事がここまで響くなんて、迷惑極まりないわね)
彼らの胃袋は空っぽ、体温は危険水域だ。
仕方ないわ。デモンストレーションついでに、一肌脱ぎますわよ。
私は昨日作った自作石釜の余熱を利用して、大型寸胴鍋をセットした。
中に入れるのは、プフが山ほど持ってきたトマトと、彼らが持っていた干からびた保存食のクズだ。
「アイアン。熱交換、最大出力でお願い。焦がさないように、じわじわとね」
「ゴゴッ!」
私の物質構造の最適化で、食材の細胞壁を瞬時に分解。
さらに、アイアンの排熱回路を鍋に直結させ、超高速沸騰させる。
(……よし、これで即席トマトスープの出来上がりっと。
本当はもっと時間をかけたいけど、この納期じゃこれが限界ね。嘘も方便、いや技術力の勝利ってやつかしら)
仕上げに、構造把握で見つけた「野生の防寒ハーブ」を投入。
真っ赤な湯気を上げる濃厚トマトスープを、木を削って作った即席のコップに注いで渡してあげる。
「ほら、これを飲みなさい。胃洗浄にはなりませんが、体温は確実に三度上がりますわよ。品質保証は私が請け負いますわ」
冒険者たちは、差し出されたスープを恐る恐る口にし……。
「う、うめえええええっ!? なんだこれ、生きてる心地がする!」
「熱い、熱いけど止まらねえ! 体の芯から熱が……これ、魔法の特級ポーションか何かか!?」
「こんなに柔らかい具材、王都の高級店でも食えねえよ。なんだこれ、溶けるぞ!」
(……ただの熱量計算ですわよ。
栄養素を分子構造レベルで分解したから、消化管への吸収効率が一般食の十倍以上なだけ。
現代日本のホームセンターなら、災害用備蓄コーナーの定番レベルだわ)
スープでようやく人心地ついた彼らは、涙を流して私に感謝し、王都のさらに凄惨な状況を語り出した。
王宮は完全に凍り付き、エドワード様は「予備の魔石を民から買い占めろ!」と無茶な強制徴収をして、物価を暴騰させているらしい。
「……本当、あの方はコスト意識というものが欠如してますわね。持続可能性の欠片もありませんわ」
(……いいわ。あっちがインフレしてるなら、こっちはデフレで勝負よ。
それに、この冒険者たち。身なりは悪いけど、この雪山を生き延びる根性はある。
拠点の物流担当として契約できないかしら)
私はアイアンの肩に戻り、地上から彼らを見下ろしながら笑顔で言った。
「あなたたち。行き場がないなら、私の物流センターで期間従業員として働いてみないこと?
報酬は温かい食事と、最高級の福利厚生ですわよ」
「えっ、いいのか!? この伝説のゴーレムの主が雇ってくれるのか!?」
「飯が食えるなら、なんだってやるぜ店長! このスープがまた飲めるなら、命だって預ける!」
崖下の楽園に、初めての「従業員」が現れた。
彼ら五人(一人は怪我で倒れていたのを救出した)の目は、先ほどまでの絶望が嘘のように、希望……というか食欲で輝いている。
(……まずは彼らのために、プレハブ小屋の建設ね。
ちょうどいいところに、大型輸送車の残骸が転がってるわ。
よし、そうとなれば早速、改装工事に取り掛かるわよ!)
王都が沈みゆく中、私のホームセンター計画は、着実に人員確保へと移行していくのであった。
さて、明日は彼らにどんな過酷な現場を体験してもらおうかしら。
まずは拠点のインフラ整備、特に下水処理の構築からかしらね。
「……プふぅ?」
「ええプフ、忙しくなりますわよ。従業員の労務管理も店長の仕事ですもの!」
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