第13話:エドワード様が捨てた「ゴミ」の正体
「――どういうことだ! なぜ予備の部品がどこにもない! 闇市でも買い占められているだと!?」
凍てつく王宮の地下備蓄庫に、エドワード王太子の情けない悲鳴が木霊しました。
かつては「金さえ出せば何でも揃う」と豪語していたその場所は、今や空っぽの棚が並ぶもぬけの殻と化しています。
寒波に閉ざされた王都を救うはずの予備の魔導炉が、起動した瞬間に「ボフッ」というマヌケな音を立てて沈黙。
その修理に必要な魔法のパイプ一つすら、今の王宮には残されていなかったのです。
「申し訳ございません! 街の商人たちによれば、使える中古部品はすべて『ある場所』へまとめ買いされたとのことです!」
「ある場所だと!? どこのどいつだ、この私を差し置いて買い占めなどという不届きな真似をするのは!」
魔導技師たちが震えながら差し出した出荷記録には、見覚えのあるサインが記されていました。
それは、エドワードが「維持費の無駄だ」と吐き捨て、リゼと一緒に崖下へ放り投げた彼女の私物に貼られていた管理ラベルと同じものでした。
彼女が「ゴミ」として持ち出すことを許された古いガラクタの山。
実はその中に、リゼが長年の保守点検のついでに「念のため」とコツコツ修理して溜め込んでいた、王宮を動かすための大事な部品がすべて含まれていたのです。
「……まさか……あの女が持ち出したゴミが……王宮の心臓そのものだったというのか……!?」
エドワードは思い出しました。
追放の日、リゼが大切そうに抱えていた木箱を「そんな汚いガラクタ、まとめて持っていけ!」と、笑いながら魔導陣に蹴り込んだ自分の姿を。
彼は自分の足で、王宮の命綱を崖下へゴールさせてしまったのです。
「もぅなんでもいい! 暖房だ! 誰か暖房を動かせ! 私が凍えてしまうだろうが!」
「それが……リゼ様が予備として保管していた魔法の石もすべてゴミと一緒に崖下へ送ってしまったので、もう燃料が……ありません……」
「そ、そんな……ありえん! ありえんぞぉぉぉ!」
ガクガクと震える膝で、エドワードは真っ暗な闇に包まれた備蓄庫で、一人寂しく立ち尽くしました。
彼が捨てたのは、一人の令嬢ではありません。
王宮が明日を生きるための安心そのものだったのですから。
一方、北の雪原を巡航する移動拠点。
アイアンの背中にある展望テラスでは、王都の混乱など嘘のような、穏やかな時間が流れていました。
私はリタが運び込んできたばかりの木箱の中身を確認して、少しだけ眉を上げました。
(あら。これ、王都の魔導ギルドが門外不出にしていた最新の伝達回路ではありませんこと? ガラムの爺さん、王宮への納品予定品を、名目上は廃棄処分としてこちらに回しましたわね)
(……なるほど、そういうことですわね。王都の商人や職人たちは、私に恩を売りたいわけではない。ただ、この氷河期を生き延びるために、どこに資産を預けるのが最も安全か、冷静にリスク・ヘッジをした結果がこれなのだわ)
「店長、お湯が沸きました。温度は適正、蒸らし時間は三十秒です」
リタが静かに注いでくれたのは、王都の高級商党が「拠点の維持費」として持ち込んできた特級茶葉です。
「ありがとう、リタ。皆さんも手を止めて休憩にいたしましょう。ヴィンセント、天空牛のクロテッドクリームを添えたスコーン、焼き立てですわよ」
「うおぉ! 待ってました店長! この濃厚なクリームがないと、午後の資材搬入に身が入りませんよ!」
ヴィンセントが鼻を鳴らしてスコーンにかじりつき、ヴェルナーが「胃に優しい紅茶だ……」と涙ぐみながらカップを傾けています。
(……ふふ。王都の商人たちも、沈みゆく泥舟より、自家発電完備で温かいスープが飲めるこちらに投資する方が賢明だと判断したようですわね)
王宮が経理破綻し、プライドという名の不良在庫を抱えて震える中。
私の手元には、かつて捨てられた重要スペアと、賢明な商人たちが運び込んだ最新資材が、パズルのように完璧に揃いつつありました。
遠く、南の空に小さく上がる救難信号を眺めながら、私は紅茶の香りを楽しみ、優雅に一言。
「――返品不可ですわよ。あんなに威勢よく、ゴミだと仰ったんですもの」
(……ふふ。エドワード様、欠品の苦しみは、これからが本番ですわよ。バックオーダーなんて、最初から受け付けておりませんわ)
私たちのホームセンターは、失われた技術の加護をすべて我が物とし、さらなる極楽生活へと躍進していくのでした。
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