第12話:ゴーレムの背中に天空の牧場が爆誕しましたわ!
「――みなさん、危ないですから少し下がって! 上空から推定重量五百キロの未確認物体が、直撃コースで落ちてきますわ!」
私の呼びかけに、ヴィンセントが慌てて大剣を構え、ヴェルナーが顔をこわばらせて回避に移りました。
吹雪の止んだ晴れ間に、巨大な綿菓子のような雲を引き連れて、何かがふわりと落下してきたのです。
(……高度三千メートルからの自由落下? 精霊界の物流品質は、前世の格安配送より少しばかり大らかすぎますわね)
トスッ。
アイアンの右肩後方に着地したのは、透き通るような角を持ち、全身から温かな魔力を放つ伝説の聖獣――天空牛でした。
着地の衝撃はアイアンの装甲が優しく受け止め、牛さんはのんきに「モォ」と喉を鳴らしています。
「て、店長! これ、昨日の精霊のお礼!? こんな大きな牛、ゴーレムの上でどうするんですか!」
ヴェルナーが胃を押さえながら叫びますが、私の構造把握は既に最適解を導き出していました。
「騒がないでくださる? ただの新規事業の開始ですわ。
ヴィンセント、その場所を起点に防護柵を設置して。傾斜角度は常に水平から五度以内に制御するよう、アイアンに同期させますわね」
「ええっ、本気ですか!? お掃除や餌はどうするんです!」
「仕様を確認なさいな。餌は空にある雲、飲み水は私の浄化装置直結。
排泄物は床下のバイオ溝を通じてフランカの管理する堆肥槽へ自動搬送。
衛生管理レベルの動線設計、一分で完了ですわ」
私は万能工具を軽やかに振るい、廃棄場から回収した散水用スプリンクラーを自動給餌機へ魔改造。
アイアンの排熱を床暖房に転換し、雪山の上とは思えない常夏の放牧地を爆誕させました。
(……よしよし。これで生乳の内製化、成功ですわね)
数時間後。
石窯から漂ってきたのは、王都の高級店すら足元にも及ばない、濃厚なチーズの芳香でした。
「お待たせいたしましたわ。搾りたてを贅沢に使った、ダブルチーズ・ピザですわよ」
焼き上がったピザを切り分けると、黄金色のチーズが滝のように溢れ、三メートルはあろうかというほどトロリと糸を引きます。
一口食べた瞬間、ヴィンセントがガクガクと膝をつきました。
「……っ!? なんだこれ……俺、今まで何を食ってたんだ? 王都で食ってた硬いパンが、急に汚物みたいに思えてきやがった……!」
「店長……もう無理です。あの寒くて、ドブ臭くて、固まった脂みたいなメシしかない王都なんて……想像しただけで吐き気がしますわ」
リタが無言でピザに依存つき、ヴェルナーに至っては「もう一生ここでいい」と廃人のような恍惚とした表情を浮かべています。
(……ふふ、いい中毒症状ですわ。
人間、一度「構造的に正しい楽園」を知れば、劣悪な環境には生理的に拒絶反応が出るものですわね)
「ゴゴゴゴ……ッ!!」
突如、足元から凄まじい重低音が響き、デッキの温度が三度ほど上昇しました。
「ひいぃっ! アイアンが怒ってる!? 店長、何か機嫌を損ねるバグでもしましたか!」
ラモンが腰を抜かしますが、私は平然とアイアンの外壁を優しく撫でました。
「あら、ただの嫉妬ですわ。新入りの牛さんに構いすぎたから、オーバーヒートを起こしただけ。
いい子ですから、出力を抑えてちょうだい? 後で特製の魔石オイルを差し上げますわ」
アイアンは「キュイィ……」と甘えるような駆動音を漏らし、再び穏やかな温もりを拠点に供給し始めました。
ふと遠くを見れば、真っ暗な王都から力ない信号弾が上がっているのが見えます。
あちらは今頃、不衛生な毛布を奪い合い、バターの欠片すら拝めずに震えているはず。
「……福利厚生としては、少しやりすぎたかもしれませんわね。
でも、このミルクの魔力反応……ただの栄養補給には留まらない予感がいたしますわ」
私は、チーズに骨抜きにされた従業員たちを見守りながら、確信しました。
ここは雪山の底。けれど、この背中はもう「村」ですらない。
世界が喉から手が出るほど欲しがる資源を生み出し続ける、動く聖域ですわ。
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