第1話:魔力測定不能の無能な女との婚約は、今この瞬間をもって破棄する!
「――貴様のような無能な在庫は、我が国の予算の無駄だ。今すぐここから排除してやる!」
きらびやかな夜会の中心で、エドワード王太子が吠えた。
その瞬間、私は確信した。
(……あーあ。この会場、あと三日ともちませんわね)
私の視界には、彼が隣に侍らせている男爵令嬢エリーゼが掲げた杖が、どす黒く発光しているのが見えていた。
構造把握するまでもない。
あれは魔力伝導率の計算を無視した欠陥設計。
出力を上げすぎて熱暴走寸前、いわば安全ピンを抜いた手榴弾を振り回しているようなものですわ。
「エドワード様、落ち着いて。その杖、今すぐ出力を三割カットしないと、術者ごと爆発いたしますわよ?」
親切心で言ったつもりだったけれど、アナログな彼には届かない。
エドワード様は鼻で笑い、私を憐れむように目を細めた
「ははっ! 聞いたかエリーゼ? この女、あまりのショックに頭まで故障してしまったらしい。……可哀想に。魔力のない『持たざる者』には、この神々しい輝きが爆発に見えるのか」
彼は余裕たっぷりに私の顎を掬い上げ、周囲の貴族たちに向かって肩をすくめて見せた。
「いいか、リゼ。君が夜な夜な油まみれでガラクタをいじっている間、エリーゼは国を救う聖なる魔力を磨いていたのだ。努力の方向が最初から間違っていたんだよぉ。君のような欠陥品はゴミ捨て場がふさわしぃ、次期王妃の座に居座るなど、もはや喜劇でしかない」
(……努力の方向? 冗談。その腰の聖剣も金属疲労でボロボロ。あと三回振ったら根元から折れますわよ。
大体、私を測っているその魔力測定器、測定限界ほど低すぎますわ。ダンプカーの重さをキッチンスケールで量ろうとするなんて、最初から詰んでますわね)
周囲の貴族たちは、王太子の言葉に同調してドッと沸いた。
「魔法も使えない、ガラクタいじりの令嬢」
それが彼らの下した在庫評価。
……笑わせてくれますわ。
彼らが今、清潔なドレスで着飾り、|豪華なシャンデリアの下で酒を飲んでいられるのは、すべて私の保守点検という名の犠牲があってのこと。
ここ数年間、私がどれだけの尻拭いに耐えてきたと思っているのかしら!
夜な夜な王宮の魔導具を分解修理し、爆発寸前の回路を繋ぎ直し……。
あの方が『勝手に直ってラッキー』と鼻歌まじりに蹴り飛ばした配線を、泥にまみれて修復し直したのはこの私ですわよ!
私の完璧な仕事は、壊れるまで誰にも気づかれない。
……まあ、慣れてますけれど
それが現場の宿命とはいえ……あのアホ上司たちの管理能力、控えめに言って返品不可ですわ!!)
「――今この瞬間をもって、婚約を破棄する!」
その怒声を聞きながら、私は冷ややかに目の前の「欠陥回路」を眺めていた。
ちなみに私の名前はリーゼロッテ・D・アイアン。一応、公爵令嬢だ。
前世は、日本の大手ホームセンターで資材・工具を担当していた現場主任である。
「これからは、エリーゼのような高出力の魔法を使える人材こそが王妃に相応しい!
――では、ゴミはゴミ箱へ。衛兵、この女を強制転送しろ!」」
エドワード様が、王宮魔導師たちに合図を送る。
床に浮かび上がるのは、強制転送の魔導陣。
飛ばし先は、王都の外縁にある未開拓領域――通称、死の断崖。
(……不当解雇、パワハラ、おまけに物理的な排除。
数年分の徹夜も、このアホの一言で在庫処分ですか
労働基準法があれば、一発で営業停止案件ですわね。
でも、いいわ。ちょうど私も、このブラック企業には愛想が尽きていたところですわ)
私は、あえて逃げなかった。
むしろ、自ら魔導陣の中心へと一歩踏み出す。
「――お先に失礼させていただきますわ。
ああ、言い忘れましたが、王宮全体の管理者権限、私が握ったままですので。
明日からお風呂の温度調節も、トイレの排水も、すべて動作不能しますわよ?」
「ふん、負け惜しみを。 消えろ、無能め!」
光が弾ける。
私の体は重力に引かれ、夜の闇へと放り出された。
自由落下する死の間際、私は叫んだ。
「――よっしゃぁぁ! やっとあのアホ上司どものサービス残業から解放されたわ! クソ現場がぁぁ!!」
(……これでやっと、あのアホな上司たちの尻拭いから解放される!
予算も納期も無視して、自分の好きなように拠点構築ができる!)
落下する死の間際。
吹雪に巻かれながら、私は崖下に眠る「異常な反応」を捉えた。
(……あら? この魔力波形、王都の魔導炉より高出力……。
しかもこのサイズ、都市一個分はあるんじゃないかしら?)
奈落の底に鎮座していたのは、数百年前に封印されたはずの伝説の守護ゴーレム。
全身を黒鉄で覆われた、超巨大な重機。
「――よっし、最高の中古物件見つけましたわ。
ここから私は、自由ですわ!」
私は不敵に笑い、地面に激突する寸前。
その巨大な鉄の塊の構造を書き換え、強制的に再起動させた。
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