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コブが大きいほどえらい

 前の世界での役目も無事に終えたこんしまちゃんは、また新たな世界に転生(てんせい)した。


 ブカブカの青いジャージを着たこんしまちゃんが、右半身を(した)にしてベッドに横たわっている。

 視線の先には、ちょうど大きな姿見(すがたみ)が立てかけられていた。

 ウェーブのかかったくせ()を持つ十五(さい)くらいの女の子が現代的な服を着た状態で現代的な部屋にいる――そんな光景が映し出される。


「やったあ……わたし、もとの世界に再転生できたのかも……」

「あまいですっ!」


 姿見が小さくなり、手の平サイズの手鏡に変化(へんか)した。

 その手鏡がこんしまちゃんの目と鼻の先に飛んできて、その身をコンニャクみたいにひねって言う。


「自分のお背中をさわってみなさい!」

「ん……?」


 こんしまちゃんは起き上がって、両手を背中に回した。

 なんか背中に固くて丸くて大きな突起(とっき)みたいなものがあるのが分かった。


 コブである。肩甲骨(けんこうこつ)から(こし)の上あたりまでが()()のかたちにふくらんでいるのだ。

 一番(いちばん)(あつ)い部分が背中の中心部に位置している。その厚みは30センチといったところか。


「ひゃああっ……なに、これ」

「この世界の人間は」


 手鏡がこんしまちゃんの顔を映しながらささやく。


「背中にコブを持っているんですよ」

「しまった……わたし、もとの世界に(もど)ってこれたってかんちがいしちゃった……」

「ともあれあなたは普通(ふつう)の高校生に転生しました。もちろんその『普通』はこの世界における『普通』ですけどねー」

「それで手鏡さん……今回のわたしの役目は」

「カミングアウトですよ」


 ベッドに寝転(ねころ)がり、手鏡がふぅ~っと息をつく。


「この世界ではね~、背中のコブが大きいほどえらいんです。コブが大きいほどモテるし、就活にも有利だし、出世もしやすいってわけですわ~。そして今のあなたは自分を大きく見せたいがためにニセモノのコブをしょっているんです。中学生のときからね。それに罪悪感をいだいたあなたは本当のことをみんなに言おうと決めました。でもなかなかカミングアウトできずにいるんです~」

「え、わたしのコブは本物じゃないの……?」


 いったんジャージを()ぐ。ついでコブをグイッと動かす。

 するとコブは背中から外れて横にスライドした。よく見ると今のこんしまちゃんはランドセルのようにコブを背負(せお)った状態だ。だ円形の黄土色のコブを、左右の黒い肩ベルトでしょっているだけなのだ。なお、コブは全然(ぜんぜん)重くない。


 自分の本当の背中をなでてみると、絶壁(ぜっぺき)であった。

 再びジャージを着て、ニセモノのコブをひざに()せるこんしまちゃん。


「え……この世界のみんなが、これをしょってるとか……?」

「ほとんどは本物のコブです」


 ニセモノのコブにのぼり、フィギュアスケートよろしく手鏡がくるくる(まわ)る。


「しかしニセモノを使うのはタブーとされます」

「しまった……わたし、まずいんじゃ……」

「だからカミングアウトしなきゃいけないんですよ。それによって確実にみんなはあなたに幻滅(げんめつ)しますが、(かく)し続けてあとでバレるよりはよほどマシです……おっと。だれか来ました」


 手鏡はもう1度大きくなって姿見に(もど)った。

 こんしまちゃんは(あわ)ててコブを背負(せお)ってジャージの下に隠す。


 部屋のドアがノックされたのち、あいた。

 普通の顔をした壮年(そうねん)の女性が姿を見せる。


「なにしてんの~。早く学校に()きなさいよ~」

「しまった」


 こんしまちゃんはベッドから(はな)れて立ち()がる。


「すぐに着替(きが)えなきゃ……」

「じゃ、ごはんはすでに用意してあるから(おく)れないようにね~」


 母親とおぼしき女性は出ていくときに背中を見せた。

 確かにコブがあるようで、背中の全体が()()の形状に()り上がっている。厚みは15センチくらいだ。


 姿見のそばにあるクローゼットから制服を取り出し、こんしまちゃんは着替える。

 ジャージについてもそうなんだけど、制服のトップスの背中には大きくゆとりを持たせてあるようだ。服が背中のコブを圧迫(あっぱく)しないようにするためだろう。


 あらためて姿見をのぞくと、立派(りっぱ)な背中のコブを持つ自分が素晴(すば)らしい人間のように思えてきた。

 そんな考えに支配されそうになった自分に気づき、こんしまちゃんはかぶりを()る。


「しまった……わたしはカミングアウトするんだ……」


 だけどなんとなく、ニセモノのコブを外す気になれない。


* *


 季節は夏のようで、ちょっと暑い。


 スクールバッグを右肩(みぎかた)にかけ、こんしまちゃんは高校へと歩いていく。

 やはりその場所へと、足が勝手に動いていく。


 大小の差こそあれ、町のみんなも背中にコブをつけている。男性も女性も、幼い子どももご年配のかたも、それぞれにコブを持っている。

 リュックやランドセルのような背中に負うタイプのカバンはまったく見かけない。みんな、カバンを手に持つか片方の肩にまっすぐかけるかしている。


 歩道を進んでいると、後ろから声をかけられた。


「相変わらず、すごいコブだね……ぐふ」

「そ、それはどうも……」


 こんしまちゃんは()(あせ)を垂らしつつ答えた。

 直接言われると、なんか罪悪感で背中の絶壁がぞわっとなる。


 そしてこんしまちゃんが振り向くまでもなく、さきほどの声のぬしが右隣(みぎどなり)に現れた。

 同じ制服を着た女の子である。どうやら友達らしい。

 その子の背中にもコブがあるが、厚みは5センチくらいである。こんしまちゃんの(ニセモノの)コブの30センチに比べると(うす)い。


 5センチの彼女(かのじょ)は顔をひきつらせ、言葉を引き()ぐ。


「い、いいなあ。コブが大きいだけで勝ち組人生だもんね」


 確かに、さっきからこんしまちゃんは自分の背中のコブに人の視線を感じている。

 すれ(ちが)うみんなが羨望(せんぼう)のまなざしを向けてくるのだ。


 こんしまちゃんはちょっと疑問に思い、5センチの子に()うてみる。


「なんでコブが大きいとえらいのかな……」

「人間の脳がそう認識するようにできているからよ……ふへ。夢と希望がつまっているからという俗説(ぞくせつ)を信じている人も多いけどね……ひひ」


 5センチの子は口元(くちもと)()さえながら薄く笑う。

 こんしまちゃんが首をかしげる。


「だけどコブが大きいと不便(ふべん)なこともあると思うな……あお向けで()づらいわけだし……背もたれのあるイスにも(すわ)りにくいし……」

「しーっ……発言には気をつけたほうがいいわよ……ふひ」


 周囲を見回し、5センチの子が(くち)の前に人差し指を立てる。


「そんなこと言ったらコブの大きい人のぜいたくな(なや)みってことで、世界中のコブの小さい人たちを敵に回しちゃうかもよ……へひゃ」

「しまった……」


 こんしまちゃんの背中に(あせ)(つた)う。

 ニセモノのコブが背中に()りついているので、わずかな汗すら簡単には流れてくれない。


* *


☆今週のしまったポイント:5ポイント(合計22ポイント)

次回「5センチの差」に続く?

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