表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/16

ナビゲーターの顔

 次に目覚めたとき、こんしまちゃんは湿(しめ)った森のなかに寝転(ねころ)んでいた。

 あたりには()げ茶の太い幹が密集している。その枝に()い緑の葉っぱが生い(しげ)っている。


 そして、こんしまちゃんの格好はまた変化(へんか)していた。

 (あら)い布でできた焦げ茶の(くつ)とズボンをはいている。トップスは白いチュニック。その上に(たけ)が背中のなかばまでしかない前びらきの黒い長そでの上着(うわぎ)羽織(はお)っている。


 さらにこんしまちゃんの目の前の枝に、白くて丸い仮面が引っかかっている。おでこからあごまでをおおう形状だ。仮面の上部には、人の垂れ目を思わせる穴が2つある。


 立って服や(かみ)の葉っぱを(はら)ったあと、その仮面を左手に取るこんしまちゃん。

 右手で仮面をなでながら、ぽつりと言う。


「わたし、また別の世界に転生(てんせい)したのかな……」

「お察しのとおりです」


 2つの穴を光らせ、仮面がキリッとした声を発する。


「前の世界ではお(たが)い頭をぶつけ合って、それであなたは死んでしまったのです」

「お互い……? ……まさか」


 こんしまちゃんは、仮面の穴をじっと見る。


「仮面さんは、前の世界にいた町娘(まちむすめ)さんが変化(へんげ)した姿なの……?」

「まあ、そうですよ」

「今までのコウモリさんや帽子(ぼうし)さんも、同じ()()()だったんじゃ……」

「バレましたか」


 観念したように、仮面がため息をつく。


「ええ、正解です! ワタシはいろんな姿になってあなたと共にいました。もちろん善意ゆえではありません。あなたがストックする『今週のしまったポイント』のおこぼれにあずかるためです。(たましい)を反転させた『しまった』のエネルギーこそがワタシの食べ物なんです。これまでは警戒心(けいかいしん)を持たれないよう、ナビゲーターとして異世界におけるあなたの役目を明確にしていたわけですねー」

「わたしを積極的に転生させようとしていたのも」


 こんしまちゃんが、仮面のふちをそっとなぞる。


「あなたが、より多くの『しまった』を食べるためなんだね……」

「おこりますか?」

「いいや……そういう思惑(おもわく)があるほうが、無条件の親切よりもよほど信用できる……。わたしはもとの世界に再転生するまで『しまった』と転生をくりかえす……あなたはわたしをナビゲートしながら代わりに『今週のしまったポイント』のおこぼれにあずかる……。わたしと仮面さんが共に行動しても、損を(あた)え合うことにはならない……だから」


 仮面の穴に向かって、微笑(びしょう)を送る。


「これから()()()()よろしくね……仮面さん」

「はあ……そう思ってくれるなら、こちらにとっても都合がいいです。ではこれまでどおりのナビゲーターに(もど)りましょうかね」


 カタカタと仮面が(ふる)える。


「あなたは狩人(かりゅうど)息子(むすこ)に転生しました。その役目はシンプル……3日間、生き延びること。それだけです」


* *


 森の木々のあいだから、夕焼けの光が差してくる。(けもの)の遠ぼえもどこかから聞こえてくる。

 こんしまちゃんはごくりとつばを飲み()んだ。


「とりあえず(いえ)に帰らないと……」

「あ、待ってください。その前に仮面のワタシを装着しましょう」


 左手にかかえられた仮面が、(あわ)てたような声を出す。


「理由は不明ですが、この世界に生きる人間は例外なく仮面をかぶっています。素顔(すがお)のまま帰宅するのはオススメしません」

「分かった」


 こんしまちゃんは仮面を顔面にはめる。ヒモみたいな部分はないけれど、仮面は吸盤(きゅうばん)のように彼女(かのじょ)の顔に()りついた。

 でも、こんしまちゃんの視界は暗くなってしまった。


「あれ……。前が見えない……」

上下(じょうげ)が逆です!」

「しまった……」


 指摘(してき)を受け、いったん仮面を外す。

 見ると、2つの穴が下部に位置していた。これでは穴のかたちもツリ目に見える。

 上下を反転させ、仮面の上側に垂れ目部分を持ってくる。その状態でかぶりなおす。


「よし、見える……」


 斜陽(しゃよう)の差す森のなかを歩いていく。

 仮面をかぶっているためか、少し息苦しい。


* *


 こんしまちゃんに狩人の息子としての記憶(きおく)はない。

 でも本能的に、自分の(いえ)がどこにあるか分かっていた。


 家は、森のなかのひらけた野原にたたずんでいた。

 まだ日は(しず)みきっていない。焦げ茶の木で作られた簡素(かんそ)な小屋の前に立ち、(とびら)をたたく。


 するとこんしまちゃんと同じ格好をした大柄(おおがら)の男性が扉の内側から姿を見せた。数本の矢を()れたえびらを右肩(みぎかた)にしょっている。左手には弓がにぎられている。

 父親とおぼしき(かれ)もまた、垂れ目の仮面をかぶっている。


「おお、無事だったか!」


 彼は扉を閉め、弓を持ったままこんしまちゃんをかきいだく。ちなみに今のこんしまちゃんは男の子の(からだ)になっている。


「たった今、村のほうから知らせがあってな。どうやら『面食(めんく)い』が出たらしい。だからおまえも(おそ)われたんじゃないかと心配していたが……なにもなくてよかった」

「面食い……?」

「人の仮面を引きはがす(おそ)ろしい獣さ」


 ここで父親は眼光を(するど)くし、こんしまちゃんを(はな)した。

 えびらから矢を()き、弓につがえて即座(そくざ)(はな)つ。


 直後、こんしまちゃんの後ろに立つ木の上から、緑の上下を着た男が落ちてきた。さらに男の右手から鋭利(えいり)なナイフが転がった。

 右肩(みぎかた)に矢を受けたその男に父親は近づく。


「きさま、盗賊(とうぞく)だな。おおかた面食いの仕業(しわざ)に見せかけて(おれ)たちを殺そうとしていたんだろう」

「ゆ、許してくれ」


 緑の仮面をつけた男がわめく。


「ほんのできご――」


 盗賊が言うよりも早く、父親は右手を()ばして緑の仮面を引っぺがした。その角張(かくば)った素顔(すがお)を陽光にさらした。

 ついで仮面の垂れ目()しに盗賊を凝視(ぎょうし)する。


 すると盗賊は(くち)と目をあけたまま、いっさい動かなくなった。死んでいるようだ。


(こわ)かったよなあ」


 (やさ)しい声を出して、父親が仮面の垂れ目をこんしまちゃんに向けなおす。


「でも、もうだいじょうぶだ」

「う、うん……」


 ガタガタと(ふる)えながら、こんしまちゃんはこの世界のルールを理解した。


(仮面を外せば死ぬ……? いやそれなら転生直後、仮面をかぶっていなかったわたしは死んでいたはず。かといってお父さんや陽光が特別な(ちから)発揮(はっき)したようにも見えなかった。右肩の矢も致命傷(ちめいしょう)じゃない……。つまり考えられることは1つ――)


 ――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


(生き延びるためには、だれにも顔を見せてはいけない……)


 こんしまちゃんは震える右手で、仮面を顔に()しつけた。


* *


☆今週のしまったポイント:1ポイント(合計9ポイント)

次回「面食い狩り」に続く?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ