表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/17

ポイントの使い道

 ウェーブのかかったくせ()をゆらし、こんしまちゃんは目をあけた。


 こんしまちゃんは逆さまになって空中を落ちていた。あたたかい陽光が上から差し()む。

 今の彼女(かのじょ)は、自分の高校の制服を着ている。前面に灰色のボタンがついているダークグレーのパーカーに、ひざ(たけ)よりも短い黒のフレアスカート。それに加え、赤茶色のローファーと白いハイソックスをはいている。


 あたりの景色はライトブルー。

 遠くに、ちぎれた白い雲が()かんでいる。


 しばらく落ち続けたあとで、クリーム色のトランポリンに激突(げきとつ)した。

 3回ボヨンと()ねてから、こんしまちゃんはトランポリンで正座になった。


 しかもこんしまちゃんの2メートル前方で、だれかがあぐらをかいている。


 金髪(きんぱつ)青眼(せいがん)色白(いろじろ)の、ほっそりとしたきれいな女性だ。19(さい)くらいに()える。やや乱れた(かみ)臀部(でんぶ)にも垂れかかっている。

 その格好は古代ローマの「トガ」と呼ばれる衣服に近い。全体にひだのある純白の布で上半身(じょうはんしん)から太ももまでをおおっている。布は左肩(ひだりかた)で結ばれ、青いブローチによって固定されている。右肩は露出(ろしゅつ)している。


 その女性が、こんしまちゃんに青い視線を向けた。

 ほどほどに高く、おっとりとした声を出す。


魔王(まおう)に駅長……これまで立て続けに転生(てんせい)して大変だったでしょう、こんしまちゃん」

「は、はい……」


 姿勢を(ただ)し、おずおずと答えるこんしまちゃん。ついで問う。


「すみません……あなたは、どちらさまでしょうか……。もしかして女神(めがみ)さま……?」

「いいえ」


 おっとりとした口調(くちょう)(くず)さず、目の前の女性がほほえむ。


「ワタシはただの町娘(まちむすめ)(たましい)です。町娘さんとお呼びください」

「これは失礼しました……。町娘さん……」


 こんしまちゃんが(あやま)った。

 町娘さんはコホンとせきばらいし、眼光を(するど)くする。


「本題に(はい)ります。こんしまちゃんは、もともと生きている世界とは(こと)なる世界に何度も転生して戸惑(とまど)っていますね?」

「そうです……」


 激しく首を(たて)()るこんしまちゃん。


「これ、夢なんでしょうか……」

(ちが)います、リアルです」


 あぐらをかいたまま町娘さんが、こんしまちゃんに50センチほど近づく。


「こんしまちゃんの魂だけがもとの(からだ)()け出し、さまざまな別世界の存在に生まれ変わっている状態なのです」

「ど、どうしてそんなことが……」


 こんしまちゃんは首を振るのをやめた。

 町娘さんがさらにこんしまちゃんに接近する。


「あなた、『しまった』が口癖(くちぐせ)でしょう」

「そうですけど……」

「……『しまった』を反対から言ってみなさい」

「たっまし」

「そう。『たっまし』すなわち『たましい』……『しまった』とは『魂』を逆転させた(こと)の葉なのです。それは魂の反転――生まれ変わりをあらわす言霊(ことだま)とも言えます。その特別な言葉を乱発した結果あなたはみずからの魂を逆転させ、ついには異世界に転生することになったのですよ!」

「そ、そんな……」


 青い目を眼前まで近づけてくる町娘さんにうろたえつつ、困惑(こんわく)の声を()らすこんしまちゃん。

 直後、町娘さんはニッコリし、こんしまちゃんの両手にそっとふれる。


「でも安心してください。ワタシがこんしまちゃんを救います。もとの世界に(もど)る方法、知りたくないですか?」

「わたしが『しまった』をやめればいいんでしょうか……」

「いいえ。やめても、あなたは特定の異世界にとどまったまま。だから、むしろ『しまった』を連発しましょう! もとの世界に『再転生』するまで『しまった』と言い続ければいいんです」

「なるほど……教えてくれてありがとうございます、町娘さん……」


 こんしまちゃんは頭を下げようとした。でも町娘さんが間近(まぢか)にいるためスペースがない。

 ここで町娘さんは、こんしまちゃんから手を(はな)す。


「さらに耳寄りな情報があります。現在あなたは合計11ポイントの『今週のしまったポイント』を所有しています。魔王の世界で7ポイント、駅長の世界で4ポイント(かせ)いでいますね」

「今週のしまったポイントってなんです……」

「魂を込めて『しまった』と言うたびに加算されるポイントのことです。さきほど申したとおり『しまった』とは『魂』を反転させた特別な言葉。よって(くち)にするたびにエネルギーとしてこんしまちゃんにストックされます」

「え、それなら……」


 こんしまちゃんはすっくと立ち()がり、両腕(りょううで)を右に左にぶらぶらさせた。軽く足踏みも()ぜる。トランポリンの上なので体がはずむ。


「しまったしまった~。しまったった~。しましましまった。しまったしまったしまったあ~」

「なんですかその珍妙(ちんみょう)(おど)りは」

「小学生のころに開発した『今週のしまった音頭(おんど)』です……あ、それ……しまっ」

「ダメーッ!」


 町娘さんがさけぶ。


「そんな魂の込められていない『しまった』をいくら言葉にしても『今週のしまったポイント』はたまりませんっ!」

「しまった……!」

「あ、1ポイント追加です」

「今のはいいんだ……」


 こんしまちゃんが正座に戻る。


「でも町娘さん……『今週のしまったポイント』をためてなにかお得なことはあるんですか……」

「もちろんです!」


 ドヤ顔で町娘さんがふところから1枚の白い紙を取り出す。

 紙を受け取ったこんしまちゃんは、内容に目を通す。黒い文字列が並んでいる。字はすべて横書きの日本語で書かれている。



《今週のしまったポイントの使い道》

①すでに転生した世界1つの様子を見る。⇒1ポイント消費

②次に転生する世界を既知(きち)の世界から指定する。⇒5ポイント消費

③次に転生する個体の特徴(とくちょう)を可能な範囲(はんい)で指定する。⇒5ポイント消費

④指定した2つの世界を合体させる。⇒10ポイント消費

⑤既知の世界1つを消滅させる。⇒15ポイント消費



「この5つのことができるんだ……まあ5番目だけは絶対にやらないけど……」


 それからこんしまちゃんは紙を町娘さんに返し、聞いてみた。


「もともとわたしがいた世界の様子を見たり、そこを次の転生先として指定したりすることは……できないんだよね……?」

「はい。少なくとも今は無理です」


 町娘さんがキッパリ言う。


「それと、陽光がそそぐこの空間も異世界の1つです。またワタシに会いたくなったら、ポイントを消費してください。あなた自身が心で念じればわざわざ声に出さずとも自動的にポイントは消費され、それに応じた願いがかないます」

「分かりました……とりあえず次に転生する個体の特徴として『めちゃくちゃ強い人』を指定しようかな……? えっと、願いを心に念じてと……」


 するとこんしまちゃんの目の前に、大きな火の玉1個と小さな火の玉2個がどこからともなく現れて人魂(ひとだま)みたいにただよった。

 大きな火の玉が縮み、7個の小さな玉に分かれる。同時に、小さな火の玉2個が消滅(しょうめつ)する。

 直後、また火の玉は見えなくなった。


「これでポイントが消費されたんですね……」


 そしてこんしまちゃんが、あぐらをかいている町娘さんにお礼を言う。


「いろいろお世話になりました……ありがとうございました……」

「いえいえ」


 金髪に右の人差し指を引っかけ、町娘さんがはにかむ。


「ワタシがこんしまちゃんを応援(おうえん)したかっただけです」

「大変うれしいことですが……町娘さんは、どうしてそこまで親切にしてくれるんです……」


 こんしまちゃんは(やさ)しく問うたが、町娘さんが答えることはなかった。

 ちょっと気まずくなったので、こんしまちゃんは別の質問をおこなう。


「そういえば、死なずに転生する方法ってご存じありませんか……」

「その世界での役目を終えればいいのです」


 町娘さんがこんしまちゃんを指差す。

 こんしまちゃんの体は、いつのまにか(あわ)い光につつまれていた。


「ワタシのいるこの世界でのこんしまちゃんの役目は、『自分が転生をくりかえす理由を知ること』と『これからなにをするか決めること』と『今週のしまったポイントを理解すること』の3つでした」

「……わたしが転生しているのは、魂の反転をあらわす『しまった』という言葉をいつも(くち)にしているから。これからは、もとの世界に再転生するまで転生をくりかえすようにする。そのために、魂を込めて『しまった』と言ったときに加算されるポイントも活用していきたい……」

上出来(じょうでき)です」


 そう言う町娘さんに対してこんしまちゃんはさらに言葉を重ねようとしたけれど、自分をつつんだ光は一気(いっき)(かがや)きを増し、こんしまちゃんの視界もほかの感覚もすべて(うば)った。


 こんしまちゃんが消えたあと、町娘さんの背中からコウモリのような(つばさ)が生えた。

 町娘さんのきれいな顔がゆがむ。


「チョロいもんですね」

「なにが……?」

「えっ!」


 突然(とつぜん)の声に(おどろ)いて、町娘さんがあたりを見回す。

 だれもいない……と思ったら、(そら)からだれかが逆さまにふってきて町娘さんの頭頂部と激突(げきとつ)した。

 町娘さんが(たお)れる。


「わあ、痛い!」

「しまった。わたしも痛い……」


 目の前で、制服姿のこんしまちゃんが頭をかかえて横たわっている。

 同じポーズで町娘さんが問う。


「こんしまちゃん……っ! あなたは別の世界に転生したはずじゃ……」

「そうだよ……ただし次に転生する世界としてこの世界を指定したの……」

「はあ……? あなたは『めちゃくちゃ強い人』に転生することのほうにポイントを消費したでしょう」

「いや、あれはフェイクだよ……町娘さん、いろいろ知りすぎててあやしかったからね……もう1度この世界に転生して様子を確かめたかったの。心で念じればわざわざ声に出さなくてもそれに応じた願いがかなうんだったよね……? だからわたしは言葉のうえではウソをついて心では『またこの世界に転生する』と願ったの……。どっちも同じ5ポイント消費だからあなたをだませた……!」

「う……し、()()()()


 両者、頭をかかえたままトランポリンの上を転がる。

 こんしまちゃんも声をしぼり出す。


「だから、それ……()()()()()()()()()()()()()()……っ?」


* *


☆今週のしまったポイント:-3ポイント(合計8ポイント)

次回「ナビゲーターの顔」に続く?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ