不人気キャラ削除システム
こんしまちゃんは闇のマンガ家によってマンガの登場人物にされてしまった。
マンガの内容はゾンビもの。女子校の校舎に立てこもっているシチュエーションだ。ちなみに今回のナビゲーターは金髪青眼の「町娘さん」である。
今のこんしまちゃんも町娘さんもダークグレーのパーカーの制服を着ているけれど、同じ教室にいたボブカットの生徒がさっそく死んでゾンビになった。今はウーウー言いながら校庭を徘徊している。
闇のマンガ家――すなわち作者によるとそのボブカットの生徒の持つ「ヘイトシグナル」が赤くなったため退場したらしい。
登場人物の右肩のそばにはヘイトシグナルと呼ばれる手鏡が浮いており、読者からのヘイト値に対応する光を発する。
ヘイト値が高まるごとに青緑色、黄色、赤の順に変化し、ヘイトシグナルが赤になったキャラは不人気キャラとして消されるのだ。
教室の上から、やや低めの女の人の声が落ちてくる。
『物語において一番大切なのは「キャラ」なんですよ。よって作者が打ち切りを回避するには不人気キャラをどんどん消していかなくてはね』
作者の声もヘイトシグナルもこんしまちゃんと町娘さん以外には認識されていない。
現在、教室には3かける3すなわち9台の机が並んでいる。
ボブカットの生徒は消されてしまったので、右前すみっこは空席だ。
きのう彼女は非協力的で態度も悪かったため読者の反感を買ったのだろう。だからヘイトシグナルが赤く光り、物語から強制排除させられたわけだ。
こんしまちゃんは左後ろすみに、町娘さんは一番後ろの真ん中の席に座っている。なお、こんしまちゃんのヘイトシグナルだけが黄色を示す状況だ。
8人の生徒の前には青色のスーツの先生が立っている。
「ボブさんが死んで悲しいとは思いますが……みなさん、彼女のぶんまでわたしたちは生きましょう」
「えー、あんな人、死んでよかったんじゃないですかー?」
そんなことを言ったのは、こんしまちゃんのすぐ前の席に座っているトライテールの生徒であった。
「ボブちゃんってば、きのうはわたしら拒絶しといて自分の机まで蹴り倒してましたよねー。普通に態度悪すぎだっつーの。ああいうのが1人でもいると集団の和が乱れてみんなの生き残る確率が減るってもんです」
「トライさん、なんてことを言うんです!」
先生が厳しく注意した。
「同じ教室の仲間ですよ」
「仲間? 偶然一緒になっただけですって」
それからトライさんはイスを引いて体をひねり、ほかの7人の顔を順に見つめた。
「本当はみんなも、ああいうギスギス要因がいなくなってせいせいしてるクセに」
ここでトライさんのヘイトシグナルが黄色に変わった。
瞬間、こんしまちゃんは口をひらこうとした。
(ダメ……ヘイトシグナルが赤くなったら消されちゃう……っ!)
しかし意思とは反対に、こんしまちゃんはなにも話せなかった。
作者の声が再び響く。
『今回の物語の設定自体に「ヘイトシグナル」は含まれていません。これは作者とごく一部の関係者のみが知っている「おとなの事情」なんですよ。よって登場人物の1人として私のマンガに登場しているあなたや町娘さんには、ヘイトシグナルについて言及する資格はありません』
(そんな……)
青ざめ、震えるこんしまちゃん。
トライさんは、そんなこんしまちゃんにも視線を向けた。
「なに、その顔。あー、そういうこと。ウェーブちゃんもほかのみんなや先生みたいにいい子ちゃんぶるわけだ」
「……え」
このマンガの世界でもこんしまちゃんはウェーブのかかったクセ毛を持っている。ゆえに「ウェーブ」呼びされているのだろう。
とにかくこんしまちゃんは言葉を継ごうとした。トライさんが孤立したらヘイトシグナルが黄色から赤になることは確実だ。なんとか、かばわねばならない。
だが右隣の席の町娘さんが左手を伸ばし、こんしまちゃんの口をふさいだ。
トライさんは眉をひそめ、立ち上がる。
「はいはい、今度はわたしが雰囲気を悪くしちゃいましたねー。どうせわたしのことも消えろと思ってんだろーが。じゃあ望みどおり消えますよーだ」
引いたイスをしっかりもとの位置に戻し、トライテールをゆらしつつ教室から出ていく。その際、彼女のヘイトシグナルが赤くなった。
先生の制止する言葉も聞かずトライさんは姿を消した。
そして先生は、みんなに謝ってからトライさんを追いかける。
それを確認したあと町娘さんはこんしまちゃんの口から手を離した。
「気をつけてくださいよ、こんしまちゃん。ヘイト値が高まっているキャラをヘタにかばおうとすると、こんしまちゃんもヘイト対象になってしまいますよ。今のあなたのヘイトシグナルは黄色なんだから、言動には細心の注意を払わないと」
「う……うん」
こんしまちゃんは起立した。
スタスタ歩いて廊下に出る。
「ちょっとお花をつみに行く」
「じゃ、ワタシもついていきましょう」
町娘さんも席から離れ、こんしまちゃんの後ろにつく。
「ゾンビが校庭にもはびこっている状況なので、単独行動は危険です」
「しまった……確かにそうだね……」
トライさんと先生の消えた方向へとこんしまちゃんは早歩きで進む。
その先には階段があった。下りれば1階に、上れば3階に到達する。
1階に続く階段の踊り場には机やイスでバリケードを作ってある。
こんしまちゃんたちは3階に向かった。
でもこんしまちゃんと町娘さんが階段を上り終えたとき、向かって右から悲鳴が聞こえた。
廊下の窓が割れている。
その窓の前に先生が立ち、震えながら下を見ていた。
急いで駆け寄り、こんしまちゃんも窓から外を見下ろす。
すぐ真下の校庭で、トライさんがうつ伏せで倒れていた。
まだ生きているみたいで少し動いたけれど、あたりをさまよっていた青白いゾンビが即座に彼女に襲いかかって右肩をかんだ。
よって……たちまちトライさんも青白いゾンビと化し、ウーウーうなって校庭を徘徊し始めた。
割れたヘイトシグナルが、なんの光も映さない手鏡となってトライさんのそばに浮く。
「わたしのせいです」
先生がぺたん座りになり、うつむく。
「きっとわたしがきつく言いすぎてしまったから……トライさんは精神的に追い詰められてしまったんです。とめようとしましたが、間に合いませんでした」
「……先生」
こんしまちゃんは先生の右肩を、町娘さんは左肩をささえ、教室まで連れ戻した。
* *
翌日。
備蓄している食料をお腹に収めたあと、あらためてみんなが着席する。
先生はショックのためか、みんなの前で横になって寝込んでいる。
そして右前すみっこと、こんしまちゃんのすぐ前の席に人はいない。
「……リーダーを決めない?」
真ん中の席の、クラゲみたいな髪をした生徒が口火を切った。
「先生が倒れたからには、新しくリーダーがいたほうがいいっしょ」
このタイミングでクラゲさんのヘイトシグナルが黄色になった。
「というわけでわたしがリーダーになるわ」
「うわ出たー。こういうときに無駄にイキって仕切りたがるヤツー」
一番前の中間の席に座る天然パーマの生徒があきれたようにかぶりを振った。
「クラゲさんさあ……普段成績がいいからってウチらの上に立っているとでも思ってんのー。リーダーとか、発想あほあほなんじゃねーの」
「パーマ……。わたしはそんなつもりじゃ」
声を抑え、クラゲさんが返した。
対するパーマさんはフッと笑う。
「えー、おととい先生が言ってたじゃん。『みなさんには互いに仲よく共同生活を送っていただきたい』って。なのにリーダーとかがいると上下関係ができてさあ、なんかめんどい感じになるって分かんない? 分かんないかあっ。××だから!」
パーマさんが最後に口走った言葉は、今日のコンプライアンスに照らし合わせればけっして許されない言葉だった。マンガのセリフだとしても伏せ字にせざるを得ないレベルだ。
途端、パーマさんの青緑色だったヘイトシグナルが黄色を経ずに一気に赤へと変わった。
ただしパーマさんはトライさんやボブさんとは異なり、教室から出ていくことはなかった。
(ヘイトシグナルは赤になったけど……パーマさんがずっと一緒にいてくれるならゾンビ化はさけられるはず……)
その晩もみんなは教室で眠った。
が……朝が来て確認したらパーマさんの姿がなかった。
パーマさんは青白いゾンビとなり、トライさんやボブさんと共にすでに校庭を徘徊していた。
* *
「これさあ、アタシらのなかに裏切り者がいるんじゃないの?」
左前のすみっこの席に座るロングヘアの生徒がつぶやいた。
「トライさんは自分からみたいだけど……ほかの2件は別」
いまだに横たわっている先生のほうをちらりと見て、ロングさんが続ける。
「アタシら6人のなかのだれかがパーマさんとボブさんをゾンビのいる校庭に落としたんだよ」
「……不可解だわ」
リーダーとなったクラゲさんが慎重に答える。
「そもそも、どうしてそんなことを? 食料は充分にあるから口減らしする必要もないっしょ」
「あー、それは一種の正義感にもとづいているんじゃないですか」
右手を小さく挙げ、町娘さんが発言した。
「今まで死んだ人は言動に問題が見られました。犯人は集団の秩序を守るという大義で、そういう人を排除したに違いありません」
「怖いけど……その可能性もあるんだね……」
こんしまちゃんが自身の上半身をブルッと震えさせる。
……ここで、右後ろすみっこのツインテールの生徒がバシッと机を両手でたたいた。
「やめようよ、みんな! 根拠もなく人を疑うのはよくないよ!」
バシバシ机をたたくと共に、そのヘイトシグナルが黄色に染まり始める。
「信じ合わなくちゃ! ゲームをやっているんじゃないんだから。ゾンビのはびこった……こんなときだからこそ! 人間らしさを失っちゃいけないの!」
さらにヘイトシグナルは変色を続け、ツインさんのそれはたちまち赤くなってしまった。
町娘さんがこんしまちゃんに耳打ちする。
「これはやっちゃいましたねー。こういうときに正論っぽいことを言うキャラはかえってヘイトを集めますよー」
さらに町娘さんは、こんしまちゃんが余計なことを言わないようにまた左手で口をふさぐ。
「……こりゃツインさんも作者に消されますねー。しかしこんしまちゃん、今は耐えてください。おそらく今回のこんしまちゃんの果たすべき役目はこのマンガから安全に脱出することです。だから不用意に動いて消されてしまったら元も子もありません」
「ちょっと、なにコソコソ話してんの。ウェーブさんの口も押さえちゃってさ」
ロングさんが町娘さんをにらみつける。
「まさかあんたが裏切り者じゃないでしょうね、金髪さんっ!」
「いえ、ワタシは違います」
金髪と呼ばれた町娘さんはハッキリと否定した。
しかもロングさんのヘイトシグナルも黄色に変わる。
町娘さんは含み笑いをしつつ、あとでこんしまちゃんに言った。
「ワタシはビジュがいいし今のところヘマもしていませんからねー。そのビジュのいいワタシにあんなきつい態度をとればヘイトを稼ぐに決まっています」
……ともあれ、その夜は順に見張りを立てることにした。2人ずつ起きてだれかに怪しい動きがないか警戒するのだ。
でもツインさんは自分が見張りをする番になって、もう1人と共に教室から消えてしまった。
* *
翌朝、青白いゾンビとなったツインさんともう1人の生徒が校庭を徘徊しているのが確認された。
割れた手鏡のようなヘイトシグナルの残骸もそれぞれの右肩のそばに浮いている。
「ヘイトシグナルが赤くなっていたツインさんだけじゃなくて、もう1人の子まで……」
こんしまちゃんは窓の外を見下ろしつつ、息をつく。
もう1人の生徒の髪は「おかっぱ」である。一番右の真ん中の席に座っていた生徒だ。
「どうして……あの子はヘイトを買っていなかったはず」
『いやいや、ちょっとアクションがなさすぎたから』
こんしまちゃんの鼓膜に作者の声が響く。
『嫌われることをすればキャラは不人気になります。同時に、個性が薄かったりとくに行動しなかったりするキャラもまた人気が落ちます。思い出してみてください、今までおかっぱのあの生徒は1回も発言していないし行動もしていません。よって徐々に人気が落ち、それがヘイトシグナルを赤くしたんですよー。これまでは読者に「この子にもなにかあるんじゃないか」という期待がありましたが、いつまで待ってもそれがないので一気に冷めちゃったパターンですね~』
「しまった……」
こんしまちゃんは、自分のスカートをギュッとつかんだ。
もはや3かける3の席のうち、一番右の縦列はすべて空席である。一番前の真ん中の席も、こんしまちゃんのすぐ前の席もあいている。さらに先生はいまだに教室の前側で倒れている。
左前すみっこのロングさん、真ん中のクラゲさん、左後ろすみっこのこんしまちゃんのヘイトシグナルは黄色である。いつまで眠っているんだということで、先生のヘイトシグナルも黄色になっている。いまだに青緑色を保っているのは町娘さんだけだ。
クラゲさんが体を左に向けて言う。
「間違いないね。このなかに裏切り者がいるわ」
「……といっても」
こんしまちゃんがゆっくりと言葉を引き継ぐ。
「きのうは見張りのあいだに2人がやられてる……さすがに起きていた2人をゾンビの近くに落とすことはできないんじゃ……? 1人が不意打ちにあってももう1人がさけぶなりすればよかったと思うし……」
「あの2人が裏切り者だったという線はないですかねー」
町娘さんは両手を後頭部に回して静かに疑念を口にした。
「秩序を乱す者を排除するという自分のやるべきことを終えたから自分たちもゾンビになろうって感じで」
「いや……そういう使命感があったらずっと生きてアタシらを監視し続けるでしょ」
ロングさんが首を回す。
「たぶん犯人はまだ生きている2人で……もちろんアタシじゃない。つまりクラゲさん、金髪さん、ウェーブさんのうちのだれかとだれか。そうよ! そうとしか考えられない!」
「だけどわたしは違う……」
慌ててクラゲさんが、否定するように片手を振る。
対するロングさんは混乱しているのか、およそ人間の言葉とはかけ離れた声を発して机を持ち上げた。
机を振り回してほかの3人を攻撃しようとしたので、クラゲさんと町娘さんとこんしまちゃんはロングさんを取り押さえた。
教室のカーテンをロープにしてロングさんを縛る。そのヘイトシグナルが赤く発光する。
クラゲさんは息を荒らげた。
「きょうは……眠らないで過ごそっか」
「そうするしかないね……」
こんしまちゃんはうなずくしかなかった。
さらにこのあと、3人で一緒にお花つみに行くことになった。
で、教室に戻ってきたとき……ロングさんが教室から姿を消していた。
「逃げた……? どうやって」
クラゲさんとこんしまちゃんは、とっさにあたりを見回した。
町娘さんが窓の外を指差す。
「見てください、ロングさんです」
校庭に、ロングヘアの生徒が落ちていた。
今この瞬間、ボブカットのゾンビに首筋をかまれてロングさんが青白いゾンビに変貌した。赤いヘイトシグナルが割れ、なんの光も発さなくなる。
「まさか……自分から?」
尻もちをつき、クラゲさんが涙目になった。
「わたし……リーダーを名乗っておきながら、なにしてんの……なんもできてない。はは、もういいや……」
ヤケになったのか、クラゲさんが窓枠に右足をかけて身を乗り出した。ヘイトシグナルも黄色から赤になりかける。
こんしまちゃんと町娘さんがとっさにその身を引きとどめる。
そして――。
そのこんしまちゃんと町娘さんの背中を……何者かが押そうとした。
刹那、こんしまちゃんがクラゲさんの腰をつかんだ体を垂直軸に沿って回転させた。
「残念だけど……それはできないよ……」
クラゲさんの頭が後ろにいた何者かのひたいに激突する。
相手はひたいを押さえ、ひざをついた。
こんしまちゃんはクラゲさんを町娘さんに預け、しゃがむ。
「あなただったんですね……」
じっとこんしまちゃんは相手の目を見る。
「先生……」
そこには、青いスーツを着た先生がいた。
ここで町娘さんが先生の背後に回り、その体を羽交い締めにした。
こんしまちゃんは、青ざめた顔の先生へと目を近づける。
「最初に死んだボブさんも2番目に死んだトライさんも3番目に死んだパーマさんも4番目に死んだツインさんとおかっぱさんも5番目に死んだロングさんも……あなたによってゾンビの近くに落とされたんですね……」
まぶたをパチクリ開閉しながら続ける。
「2番目に死んだトライさんが自分からゾンビのもとに落ちたという点が引っかかっていたんです……トライさんはみずから死ぬような感じには見えませんでした……となればあのときトライさんを追いかけた先生が実は一番怪しかったんです……さっきのロングさんも……わたしたちが離れた隙に校庭に落としたんでしょう……自分はショックで倒れているフリをして……」
「それはどうでしょうね」
つばをごくりと飲み込み、先生が反論する。
「いくらわたしでもツインさんとおかっぱさん2人を同時に突き落とすことはできないと思いますが」
「おかっぱさんは先生の協力者だったんじゃないんですか……」
こんしまちゃんが詰め寄る。
「だからおかっぱさんはボロを出さないように発言を控えていたんです……おそらくパーマさんをゾンビの近くに落とすときも2人で協力して声を上げさせないようにしたんでしょう……そして共にツインさんを殺害したあと、油断しているおかっぱさんを先生が突き落とした……違いますか」
「……さっきあなたごと落とそうとした手前、もう言いのがれはできませんね」
先生がため息をつく。
「そうですよ! わたしがみんなをゾンビにかませたんです! なぜって……みんなが仲よくしないのが悪いんです! だれかに嫌われるような生徒はわたしのクラスに要りません」
ここで先生は自分を羽交い締めにしている町娘さんにダブルひじ鉄を食らわせた。
拘束を振りほどき、こんしまちゃんに襲いかかる。
その身をかかえて窓に向かう。
「あなたも要りません」
「なぜですか……」
「ウェーブさん、あなたはわたしが真犯人であると推測しておきながらロングさんとわたしを2人きりにしました。それはこのわたしを泳がせて犯人としてのボロを出させるためだったんでしょう? あなたはわざとロングさんを殺させたんです。そんな冷酷な子もわたしは許しません」
「しまった……」
こんしまちゃんは先生と共に窓から飛び出したとき、自分と先生それぞれのヘイトシグナルを見た。
どちらも赤く光っている。
そして校庭に落下し、ゾンビにかまれてゾンビになった。
* *
意識を失ったこんしまちゃんは次に気づいたとき、あたりに三角や四角の模様が並んだ部屋にいた。まるでマンガのコマのような模様だ。
青いスーツの先生も目の前に立っていた。
彼女へと、こんしまちゃんは話しかける。
「やっぱりあなたは……先生は作者――闇のマンガ家さんだったんですね……」
「どうして分かったんですか」
先生は右手で左ひじを押さえ、うつむいた。
こんしまちゃんはすぐに答える。
「リアリティのためにリアルの人間をマンガに放り込むほどの人が……自分だけマンガに入らないなんてありえないと思ったからです……」
「そうですよ、私こそが作者です」
先生もとい闇のマンガ家は、はすにこんしまちゃんを見返した。
「私は作者として不人気キャラを削除していたわけですが……それもマンガの文脈のなかで実行する必要がありました。だからこそ狂気的な教師になりきっていたんです」
「そしてわたしも……削除されたわけですか……」
半歩近づき、こんしまちゃんが問う。
「これでリアリティを確保できて打ち切りも回避できていたらいいんですが……」
「それを心配します?」
青いスーツをはたき、闇のマンガ家が笑む。
「人気がなくなって消えたらあなたもマンガの外に戻れないって言ったじゃないですか」
「しまった……わたし、転生もできなくなるんじゃ……」
こんしまちゃんが焦る。
対する闇のマンガ家は噴き出す。
「私のマンガもまた打ち切りですよ」
周囲の、マンガのコマのような模様をなでる。
「キャラを消しすぎたんです。不人気だからといって消しまくるその誠実でない姿が、読者にも見抜かれたんでしょうね。だからマンガの人気自体が落ちました」
さらに小さく口角を上げた。
「作者自身のヘイトシグナルが赤くなったから、私のマンガそのものも消えるわけです」
「闇のマンガ家さん……」
「でもいいんです」
声をかけようとするこんしまちゃんよりも先に、闇のマンガ家が言葉をかぶせる。
「私はリアルのキャラとしてリアルのあなたと対決しました。この体験をもとに、まだまだ崖っぷちで踏ん張ってやります!」
ついでスーツの胸ポケットからペンを取り出す。
「とはいえ打ち切りになってもオチはつけないといけません。今回は……そうですね~、救助に来たかたがたが、ゾンビ化したみんなを正常に戻す薬を渡してくれて……そして9人の生徒と1人の先生みんながもとの教室に戻るという感じにしましょうか」
「ハッピーエンドですね……」
「いや、そのときのギスギスは継続するからご都合ビターエンドですかね」
「読者は納得するでしょうか……」
「さあ?」
ペンを回したのち、闇のマンガ家が模様の1つにペン先を当てる。
「でも私はリアルの人間としてリアルのあなたを消したくないと思ったんです。あなただけでなく、マンガの不人気キャラすらね。自分で殺しといて矛盾していますが……そういうのも人間のリアルだと私は学びました」
壁のように浮き出た四角形のコマのなかに……先生とボブさんとパーマさんとロングさんとおかっぱさんとクラゲさんとトライさんとツインさんと金髪さんとウェーブさんが映り込む。
目もとが隠れているためそれぞれどんな表情をしているかは定かでないが、みんなゾンビ化しておらず、人間として生きているようだ。
やや低めの声で、堂々と彼女が宣言する。
「――今度は私のこの気持ちそのものをマンガにぶち込んでやりますよ。ヘイトシグナルが、壊れてしまわない範囲でね」
* *
☆今週のしまったポイント:4ポイント(合計76ポイント)
次回「世界を合体させるメリットについて」に続く?




