表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/22

不人気キャラ削除システム

 こんしまちゃんは(やみ)のマンガ()によってマンガの登場人物にされてしまった。

 マンガの内容はゾンビもの。女子校の校舎に立てこもっているシチュエーションだ。ちなみに今回のナビゲーターは金髪(きんぱつ)青眼(せいがん)の「町娘(まちむすめ)さん」である。


 今のこんしまちゃんも町娘さんもダークグレーのパーカーの制服を着ているけれど、同じ教室にいたボブカットの生徒がさっそく死んでゾンビになった。今はウーウー言いながら校庭を徘徊(はいかい)している。

 闇のマンガ家――すなわち作者によるとそのボブカットの生徒の持つ「ヘイトシグナル」が赤くなったため退場したらしい。


 登場人物の右肩(みぎかた)のそばにはヘイトシグナルと呼ばれる手鏡が()いており、読者からのヘイト値に対応する光を発する。

 ヘイト値が高まるごとに青緑色、黄色、赤の順に変化し、ヘイトシグナルが赤になったキャラは不人気キャラとして消されるのだ。


 教室の上から、やや低めの女の人の声が落ちてくる。


『物語において一番(いちばん)大切なのは「キャラ」なんですよ。よって作者が打ち切りを回避(かいひ)するには不人気キャラをどんどん消していかなくてはね』


 作者の声もヘイトシグナルもこんしまちゃんと町娘さん以外には認識されていない。

 現在、教室には3かける3すなわち9台の(つくえ)が並んでいる。


 ボブカットの生徒は消されてしまったので、右前すみっこは空席だ。

 きのう彼女は非協力的で態度も悪かったため読者の反感を買ったのだろう。だからヘイトシグナルが赤く光り、物語から強制排除(はいじょ)させられたわけだ。


 こんしまちゃんは左後ろすみに、町娘さんは一番(いちばん)後ろの真ん中の席に(すわ)っている。なお、こんしまちゃんのヘイトシグナルだけが黄色を示す状況(じょうきょう)だ。


 8人の生徒の前には青色のスーツの先生が立っている。


「ボブさんが死んで悲しいとは思いますが……みなさん、彼女(かのじょ)のぶんまでわたしたちは生きましょう」

「えー、あんな人、死んでよかったんじゃないですかー?」


 そんなことを言ったのは、こんしまちゃんのすぐ前の席に座っているトライテールの生徒であった。


「ボブちゃんってば、きのうはわたしら拒絶(きょぜつ)しといて自分の机まで()(たお)してましたよねー。普通(ふつう)に態度(わる)すぎだっつーの。ああいうのが1人でもいると集団の和が乱れてみんなの生き残る確率が減るってもんです」

「トライさん、なんてことを言うんです!」


 先生が厳しく注意した。


「同じ教室の仲間ですよ」

「仲間? 偶然(ぐうぜん)一緒(いっしょ)になっただけですって」


 それからトライさんはイスを引いて体をひねり、ほかの7人の顔を順に見つめた。


「本当はみんなも、ああいうギスギス要因がいなくなってせいせいしてるクセに」


 ここでトライさんのヘイトシグナルが黄色に変わった。

 瞬間(しゅんかん)、こんしまちゃんは(くち)をひらこうとした。


(ダメ……ヘイトシグナルが赤くなったら消されちゃう……っ!)


 しかし意思とは反対に、こんしまちゃんはなにも話せなかった。

 作者の声が再び(ひび)く。


『今回の物語の設定自体に「ヘイトシグナル」は(ふく)まれていません。これは作者とごく一部(いちぶ)の関係者のみが知っている「おとなの事情」なんですよ。よって登場人物の1人として(わたし)のマンガに登場しているあなたや町娘さんには、ヘイトシグナルについて言及(げんきゅう)する資格はありません』


(そんな……)


 青ざめ、(ふる)えるこんしまちゃん。

 トライさんは、そんなこんしまちゃんにも視線を向けた。


「なに、その顔。あー、そういうこと。ウェーブちゃんもほかのみんなや先生みたいに()()()()()()()()わけだ」

「……え」


 このマンガの世界でもこんしまちゃんはウェーブのかかったクセ()を持っている。ゆえに「ウェーブ」呼びされているのだろう。

 とにかくこんしまちゃんは言葉を()ごうとした。トライさんが孤立したらヘイトシグナルが黄色から赤になることは確実だ。なんとか、かばわねばならない。


 だが右隣(みぎどなり)の席の町娘さんが左手を()ばし、こんしまちゃんの(くち)をふさいだ。

 トライさんは(まゆ)をひそめ、立ち()がる。


「はいはい、今度はわたしが雰囲気(ふんいき)を悪くしちゃいましたねー。どうせわたしのことも消えろと思ってんだろーが。じゃあ望みどおり消えますよーだ」


 引いたイスをしっかりもとの位置に(もど)し、トライテールをゆらしつつ教室から出ていく。その際、彼女のヘイトシグナルが赤くなった。


 先生の制止する言葉も聞かずトライさんは姿を消した。

 そして先生は、みんなに(あやま)ってからトライさんを追いかける。


 それを確認したあと町娘さんはこんしまちゃんの(くち)から手を(はな)した。


「気をつけてくださいよ、こんしまちゃん。ヘイト値が高まっているキャラをヘタにかばおうとすると、こんしまちゃんもヘイト対象になってしまいますよ。今のあなたのヘイトシグナルは黄色なんだから、言動には細心の注意を(はら)わないと」

「う……うん」


 こんしまちゃんは起立した。

 スタスタ歩いて廊下(ろうか)に出る。


「ちょっとお花をつみに()く」

「じゃ、ワタシもついていきましょう」


 町娘さんも席から(はな)れ、こんしまちゃんの後ろにつく。


「ゾンビが校庭にも()()()()()()()状況なので、単独行動は危険です」

「しまった……確かにそうだね……」


 トライさんと先生の消えた方向へとこんしまちゃんは早歩きで進む。

 その先には階段があった。()りれば1階に、(のぼ)れば3階に到達(とうたつ)する。

 1階に続く階段の(おど)り場には机やイスでバリケードを作ってある。


 こんしまちゃんたちは3階に向かった。

 でもこんしまちゃんと町娘さんが階段を(のぼ)り終えたとき、向かって右から悲鳴が聞こえた。


 廊下の窓が割れている。

 その窓の前に先生が立ち、震えながら(した)を見ていた。


 急いで()け寄り、こんしまちゃんも窓から(そと)見下(みお)ろす。

 すぐ真下の校庭で、トライさんがうつ()せで(たお)れていた。


 まだ生きているみたいで少し動いたけれど、あたりをさまよっていた青白いゾンビが即座(そくざ)に彼女に(おそ)いかかって右肩(みぎかた)をかんだ。


 よって……たちまちトライさんも青白いゾンビと()し、ウーウーうなって校庭を徘徊し始めた。

 割れたヘイトシグナルが、なんの光も映さない手鏡となってトライさんのそばに浮く。


「わたしのせいです」


 先生がぺたん座りになり、うつむく。


「きっとわたしがきつく言いすぎてしまったから……トライさんは精神的に追い()められてしまったんです。とめようとしましたが、()に合いませんでした」

「……先生」


 こんしまちゃんは先生の右肩を、町娘さんは左肩をささえ、教室まで連れ戻した。


* *


 翌日。

 備蓄(びちく)している食料をお腹に収めたあと、あらためてみんなが着席する。


 先生はショックのためか、みんなの前で横になって寝込(ねこ)んでいる。

 そして右前すみっこと、こんしまちゃんのすぐ前の席に人はいない。


「……リーダーを決めない?」


 真ん中の席の、クラゲみたいな(かみ)をした生徒が口火(くちび)を切った。


「先生が倒れたからには、新しくリーダーがいたほうがいいっしょ」


 このタイミングでクラゲさんのヘイトシグナルが黄色になった。


「というわけでわたしがリーダーになるわ」

「うわ出たー。こういうときに無駄(むだ)にイキって仕切りたがるヤツー」


 一番前の中間の席に座る天然パーマの生徒があきれたようにかぶりを()った。


「クラゲさんさあ……普段成績がいいからってウチらの上に立っているとでも思ってんのー。リーダーとか、発想あほあほなんじゃねーの」

「パーマ……。わたしはそんなつもりじゃ」


 声を(おさ)え、クラゲさんが返した。

 対するパーマさんはフッと笑う。


「えー、おととい先生が言ってたじゃん。『みなさんには(たが)いに仲よく共同生活を送っていただきたい』って。なのにリーダーとかがいると上下(じょうげ)関係ができてさあ、なんかめんどい感じになるって分かんない? 分かんないかあっ。××だから!」


 パーマさんが最後に口走(くちばし)った言葉は、今日(こんにち)のコンプライアンスに照らし合わせればけっして許されない言葉だった。マンガのセリフだとしても伏せ字にせざるを得ないレベルだ。


 途端(とたん)、パーマさんの青緑色だったヘイトシグナルが黄色を()ずに一気(いっき)に赤へと変わった。


 ただしパーマさんはトライさんやボブさんとは(こと)なり、教室から出ていくことはなかった。


(ヘイトシグナルは赤になったけど……パーマさんがずっと一緒(いっしょ)にいてくれるならゾンビ化はさけられるはず……)


 その晩もみんなは教室で(ねむ)った。

 が……朝が来て確認したらパーマさんの姿がなかった。


 パーマさんは青白いゾンビとなり、トライさんやボブさんと共にすでに校庭を徘徊していた。


* *


「これさあ、アタシらのなかに裏切り者がいるんじゃないの?」


 左前のすみっこの席に座るロングヘアの生徒がつぶやいた。


「トライさんは自分からみたいだけど……ほかの2件は別」


 いまだに横たわっている先生のほうをちらりと見て、ロングさんが続ける。


「アタシら6人のなかのだれかがパーマさんとボブさんをゾンビのいる校庭に落としたんだよ」

「……不可解だわ」


 リーダーとなったクラゲさんが慎重(しんちょう)に答える。


「そもそも、どうしてそんなことを? 食料は充分(じゅうぶん)にあるから口減(くちべ)らしする必要もないっしょ」

「あー、それは一種(いっしゅ)の正義感にもとづいているんじゃないですか」


 右手を小さく挙げ、町娘さんが発言した。


「今まで死んだ人は言動に問題が見られました。犯人は集団の秩序(ちつじょ)を守るという大義で、そういう人を排除したに(ちが)いありません」

(こわ)いけど……その可能性もあるんだね……」


 こんしまちゃんが自身の上半身(じょうはんしん)をブルッと震えさせる。

 ……ここで、右後ろすみっこのツインテールの生徒がバシッと机を両手でたたいた。


「やめようよ、みんな! 根拠(こんきょ)もなく人を(うたが)うのはよくないよ!」


 バシバシ机をたたくと共に、そのヘイトシグナルが黄色に染まり始める。


「信じ合わなくちゃ! ゲームをやっているんじゃないんだから。ゾンビのはびこった……こんなときだからこそ! 人間らしさを失っちゃいけないの!」


 さらにヘイトシグナルは変色を続け、ツインさんのそれは()()()()赤くなってしまった。


 町娘さんがこんしまちゃんに耳打ちする。


「これはやっちゃいましたねー。こういうときに正論っぽいことを言うキャラはかえってヘイトを集めますよー」


 さらに町娘さんは、こんしまちゃんが余計なことを言わないようにまた左手で(くち)をふさぐ。


「……こりゃツインさんも作者に消されますねー。しかしこんしまちゃん、今は()えてください。おそらく今回のこんしまちゃんの果たすべき役目はこのマンガから安全に脱出(だっしゅつ)することです。だから不用意に動いて消されてしまったら(もと)()もありません」

「ちょっと、なにコソコソ(はな)してんの。ウェーブさんの(くち)()さえちゃってさ」


 ロングさんが町娘さんをにらみつける。


「まさかあんたが裏切り者じゃないでしょうね、金髪(きんぱつ)さんっ!」

「いえ、ワタシは違います」


 金髪と呼ばれた町娘さんはハッキリと否定した。

 しかもロングさんのヘイトシグナルも黄色に変わる。


 町娘さんは含み笑いをしつつ、あとでこんしまちゃんに言った。


「ワタシはビジュがいいし今のところヘマもしていませんからねー。そのビジュのいいワタシにあんなきつい態度をとればヘイトを(かせ)ぐに決まっています」



 ……ともあれ、その(よる)は順に見張りを立てることにした。2人ずつ起きてだれかに(あや)しい動きがないか警戒(けいかい)するのだ。


 でもツインさんは自分が見張りをする番になって、もう1人と共に教室から消えてしまった。


* *


 翌朝、青白いゾンビとなったツインさんともう1人の生徒が校庭を徘徊しているのが確認された。

 割れた手鏡のようなヘイトシグナルの残骸(ざんがい)もそれぞれの右肩のそばに浮いている。


「ヘイトシグナルが赤くなっていたツインさんだけじゃなくて、もう1人の子まで……」


 こんしまちゃんは窓の(そと)見下(みお)ろしつつ、息をつく。

 もう1人の生徒の髪は「おかっぱ」である。一番右の真ん中の席に座っていた生徒だ。


「どうして……あの子はヘイトを買っていなかったはず」

『いやいや、ちょっとアクションがなさすぎたから』


 こんしまちゃんの鼓膜(こまく)に作者の声が響く。


(きら)われることをすればキャラは不人気になります。同時に、個性が(うす)かったりとくに行動しなかったりするキャラもまた人気が落ちます。思い出してみてください、今までおかっぱのあの生徒は1回も発言していないし行動もしていません。よって徐々(じょじょ)に人気が落ち、それがヘイトシグナルを赤くしたんですよー。これまでは読者に「この子にもなにかあるんじゃないか」という期待がありましたが、いつまで待ってもそれがないので一気(いっき)に冷めちゃったパターンですね~』

「しまった……」


 こんしまちゃんは、自分のスカートをギュッとつかんだ。

 もはや3かける3の席のうち、一番右の縦列はすべて空席である。一番前の真ん中の席も、こんしまちゃんのすぐ前の席もあいている。さらに先生はいまだに教室の前側で倒れている。


 左前すみっこのロングさん、真ん中のクラゲさん、左後ろすみっこのこんしまちゃんのヘイトシグナルは黄色である。いつまで(ねむ)っているんだということで、先生のヘイトシグナルも黄色になっている。いまだに青緑色を(たも)っているのは町娘さんだけだ。


 クラゲさんが体を左に向けて言う。


間違(まちが)いないね。このなかに裏切り者がいるわ」

「……といっても」


 こんしまちゃんがゆっくりと言葉を引き()ぐ。


「きのうは見張りのあいだに2人がやられてる……さすがに起きていた2人をゾンビの近くに落とすことはできないんじゃ……? 1人が不意打ちにあってももう1人がさけぶなりすればよかったと思うし……」

「あの2人が裏切り者だったという線はないですかねー」


 町娘さんは両手を後頭部に回して静かに疑念を口にした。


「秩序を乱す者を排除するという自分のやるべきことを終えたから自分たちもゾンビになろうって感じで」

「いや……そういう使命感があったらずっと生きてアタシらを監視(かんし)し続けるでしょ」


 ロングさんが首を回す。


「たぶん犯人はまだ生きている2人で……もちろんアタシじゃない。つまりクラゲさん、金髪さん、ウェーブさんのうちのだれかとだれか。そうよ! そうとしか考えられない!」

「だけどわたしは違う……」


 (あわ)ててクラゲさんが、否定するように片手を振る。

 対するロングさんは混乱しているのか、およそ人間の言葉とはかけ離れた声を発して机を持ち上げた。


 机を振り回してほかの3人を攻撃(こうげき)しようとしたので、クラゲさんと町娘さんとこんしまちゃんはロングさんを取り押さえた。


 教室のカーテンをロープにしてロングさんを(しば)る。そのヘイトシグナルが赤く発光する。

 クラゲさんは息を(あら)らげた。


「きょうは……眠らないで()ごそっか」

「そうするしかないね……」


 こんしまちゃんはうなずくしかなかった。

 さらにこのあと、3人で一緒にお花つみに()くことになった。


 で、教室に戻ってきたとき……ロングさんが教室から姿を消していた。


()げた……? どうやって」


 クラゲさんとこんしまちゃんは、とっさにあたりを見回した。

 町娘さんが窓の外を指差す。


「見てください、ロングさんです」


 校庭に、ロングヘアの生徒が落ちていた。

 今この瞬間、ボブカットのゾンビに首筋をかまれてロングさんが青白いゾンビに変貌(へんぼう)した。赤いヘイトシグナルが割れ、なんの光も発さなくなる。


「まさか……自分から?」


 (しり)もちをつき、クラゲさんが涙目(なみだめ)になった。


「わたし……リーダーを名乗っておきながら、なにしてんの……なんもできてない。はは、もういいや……」


 ヤケになったのか、クラゲさんが窓枠(まどわく)に右足をかけて身を乗り出した。ヘイトシグナルも黄色から赤になりかける。


 こんしまちゃんと町娘さんがとっさにその身を引きとどめる。


 そして――。

 そのこんしまちゃんと町娘さんの背中を……何者かが押そうとした。


 刹那(せつな)、こんしまちゃんがクラゲさんの(こし)をつかんだ体を垂直(じく)沿()って回転させた。


「残念だけど……それはできないよ……」


 クラゲさんの頭が後ろにいた何者かのひたいに激突(げきとつ)する。

 相手はひたいを押さえ、ひざをついた。


 こんしまちゃんはクラゲさんを町娘さんに預け、しゃがむ。


「あなただったんですね……」


 じっとこんしまちゃんは相手の目を見る。


「先生……」


 そこには、青いスーツを着た先生がいた。

 ここで町娘さんが先生の背後に回り、その体を羽交(はが)()めにした。


 こんしまちゃんは、青ざめた顔の先生へと目を近づける。


「最初に死んだボブさんも2番目に死んだトライさんも3番目に死んだパーマさんも4番目に死んだツインさんとおかっぱさんも5番目に死んだロングさんも……あなたによってゾンビの近くに落とされたんですね……」


 まぶたをパチクリ開閉しながら続ける。


「2番目に死んだトライさんが自分からゾンビのもとに落ちたという点が引っかかっていたんです……トライさんはみずから死ぬような感じには見えませんでした……となればあのときトライさんを追いかけた先生が実は一番(いちばん)怪しかったんです……さっきのロングさんも……わたしたちが離れた(すき)に校庭に落としたんでしょう……自分はショックで倒れているフリをして……」

「それはどうでしょうね」


 つばをごくりと飲み込み、先生が反論する。


「いくらわたしでもツインさんとおかっぱさん2人を同時に突き落とすことはできないと思いますが」

「おかっぱさんは先生の協力者だったんじゃないんですか……」


 こんしまちゃんが詰め寄る。


「だからおかっぱさんはボロを出さないように発言を(ひか)えていたんです……おそらくパーマさんをゾンビの近くに落とすときも2人で協力して声を上げさせないようにしたんでしょう……そして共にツインさんを殺害したあと、油断しているおかっぱさんを先生が突き落とした……違いますか」

「……さっきあなたごと落とそうとした手前、もう言いのがれはできませんね」


 先生がため息をつく。


「そうですよ! わたしがみんなをゾンビにかませたんです! なぜって……みんなが仲よくしないのが悪いんです! だれかに嫌われるような生徒はわたしのクラスに()りません」


 ここで先生は自分を羽交い締めにしている町娘さんにダブルひじ鉄を()らわせた。

 拘束(こうそく)を振りほどき、こんしまちゃんに襲いかかる。


 その身をかかえて窓に向かう。


「あなたも要りません」

「なぜですか……」


「ウェーブさん、あなたはわたしが真犯人であると推測しておきながらロングさんとわたしを2人きりにしました。それはこのわたしを泳がせて犯人としてのボロを出させるためだったんでしょう? あなたはわざとロングさんを殺させたんです。そんな冷酷(れいこく)な子もわたしは許しません」

「しまった……」


 こんしまちゃんは先生と共に窓から飛び出したとき、自分と先生それぞれのヘイトシグナルを見た。

 どちらも赤く(ひか)っている。


 そして校庭に落下し、ゾンビにかまれてゾンビになった。


* *


 意識を(うしな)ったこんしまちゃんは次に気づいたとき、あたりに三角や四角の模様(もよう)が並んだ部屋にいた。まるでマンガのコマのような模様だ。


 青いスーツの先生も目の前に立っていた。

 彼女へと、こんしまちゃんは(はな)しかける。


「やっぱりあなたは……先生は作者――闇のマンガ家さんだったんですね……」

「どうして分かったんですか」


 先生は右手で左ひじを押さえ、うつむいた。

 こんしまちゃんはすぐに答える。


「リアリティのためにリアルの人間をマンガに放り込むほどの人が……自分だけマンガに入らないなんてありえないと思ったからです……」

「そうですよ、私こそが作者です」


 先生もとい闇のマンガ家は、はすにこんしまちゃんを見返した。


「私は作者として不人気キャラを削除していたわけですが……それもマンガの文脈のなかで実行する必要がありました。だからこそ狂気的な教師になりきっていたんです」

「そしてわたしも……削除されたわけですか……」


 半歩近づき、こんしまちゃんが問う。


「これでリアリティを確保できて打ち切りも回避できていたらいいんですが……」

「それを心配します?」


 青いスーツをはたき、闇のマンガ家が()む。


「人気がなくなって消えたらあなたもマンガの外に戻れないって言ったじゃないですか」

「しまった……わたし、転生(てんせい)もできなくなるんじゃ……」


 こんしまちゃんが(あせ)る。

 対する闇のマンガ家は()き出す。


「私のマンガもまた打ち切りですよ」


 周囲の、マンガのコマのような模様をなでる。


「キャラを消しすぎたんです。不人気だからといって消しまくるその誠実でない姿が、読者にも見抜(みぬ)かれたんでしょうね。だからマンガの人気自体が落ちました」


 さらに小さく口角(こうかく)を上げた。


「作者自身のヘイトシグナルが赤くなったから、私のマンガそのものも消えるわけです」

「闇のマンガ家さん……」

「でもいいんです」


 声をかけようとするこんしまちゃんよりも先に、闇のマンガ家が言葉をかぶせる。


「私はリアルのキャラとしてリアルのあなたと対決しました。この体験をもとに、まだまだ(がけ)っぷちで()ん張ってやります!」


 ついでスーツの胸ポケットからペンを取り出す。


「とはいえ打ち切りになってもオチはつけないといけません。今回は……そうですね~、救助に来たかたがたが、ゾンビ化したみんなを正常に戻す薬を渡してくれて……そして9人の生徒と1人の先生みんながもとの教室に戻るという感じにしましょうか」

「ハッピーエンドですね……」


「いや、そのときのギスギスは継続(けいぞく)するからご都合ビターエンドですかね」

「読者は納得(なっとく)するでしょうか……」

「さあ?」


 ペンを回したのち、闇のマンガ家が模様の1つにペン先を当てる。


「でも私はリアルの人間としてリアルのあなたを消したくないと思ったんです。あなただけでなく、マンガの不人気キャラすらね。自分で殺しといて矛盾(むじゅん)していますが……そういうのも人間のリアルだと私は学びました」


 (かべ)のように浮き出た四角形のコマのなかに……先生とボブさんとパーマさんとロングさんとおかっぱさんとクラゲさんとトライさんとツインさんと金髪さんとウェーブさんが映り込む。


 目もとが(かく)れているためそれぞれどんな表情をしているかは定かでないが、みんなゾンビ化しておらず、人間として生きているようだ。


 やや低めの声で、堂々と彼女が宣言する。


「――今度は私のこの気持ちそのものをマンガにぶち込んでやりますよ。ヘイトシグナルが、(こわ)れてしまわない範囲(はんい)でね」


* *


☆今週のしまったポイント:4ポイント(合計76ポイント)

次回「世界を合体させるメリットについて」に続く?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ