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ヘイトシグナル

「――突然(とつぜん)恐縮(きょうしゅく)ですが、お願いです。(わたし)のマンガの登場人物になってください!」


 転生(てんせい)早々、そんな言葉がこんしまちゃんの頭上からふってきた。

 やや低めの女の人の声である。


 現在こんしまちゃんはもともといた世界の学校の制服を着ている。ダークグレーのパーカーと黒いフレアスカートという格好だ。

 クリーム色のトランポリンの上でぺたん(ずわ)りをしたまま、ライトブルーの(そら)を見上げる。


「その前に、わたしに(はな)しかけているあなたは()()()()……」

(やみ)のマンガ()です」


 声のぬしは姿を(かく)したまま天からこんしまちゃんへと言葉を続ける。


「しかし最近は打ち切り続きでもう(がけ)っぷちなんです! 読者のみなさまからは『絵はうまいけどキャラクターにリアリティがない』と指摘(してき)されてばかり。もちろん何度も改善しましたが効果もなく、もう私1人の(ちから)ではどうすることもできなくなりました」


 女の人の声が(くや)しそうに(ふる)える。


「そこで私はこの状況(じょうきょう)(だっ)するための、ある方法を思い付きました。マンガのキャラクターでリアリティを表現できないなら、リアルに存在する人間そのものをマンガにぶち()んで登場キャラにすればいいんです!」

「確かにそれならリアリティが保障されますね……」


 天に向かってこんしまちゃんがうなずく。

 でもここで、ほどほどに高い別の女の人の声が右から聞こえた。


納得(なっとく)してはいけません!」


 金髪(きんぱつ)青眼(せいがん)のほっそりとした女性がトランポリンを()ねながらこんしまちゃんに近づいてくる。

 上半身(じょうはんしん)から太ももまでを純白の布でおおった19(さい)くらいの女性だ。左肩(ひだりかた)に結ばれた布には青いブローチがついている。


 見覚えのあるその姿にこんしまちゃんは目を丸くした。


「あ、あなたは……町娘(まちむすめ)さん……! 今回のナビゲーターさんは町娘さんの格好なんだね……」

「そのとおりです、こんしまちゃん」


 町娘さんはこんしまちゃんの正面に背を向けて立ち、腕組(うでぐ)みをして天をキッと見上げた。


「やい! 闇のマンガ家とやら!」

「なんです」


 ちょっと不機嫌(ふきげん)そうに天から声が落ちてくる。


「あなたもリアリティ確保のためにマンガの登場人物になってくれるんですかー」

「やり方が気に()わないんですよっ」


 青い眼光を(するど)く細め、町娘さんもプリプリする。


(くさ)ってもマンガ家ならどんな逆境のなかでも自分の(ちから)でマンガを完成させるべきです! しかしあなたは他人に作品の一部(いちぶ)を丸投げしようとしています。それもキャラクターというマンガの根幹に関わることを! そんなんで読者のみなさんに胸を張って自分のマンガを見せられるんですか~」

「は? なに分かったようなこと言ってんの?」


 天からの声が町娘さんに反論する。


「そもそも作画とストーリーで担当する人が(ちが)うマンガもたくさんありますよねー。私はただ、ストーリー部分をリアルの人間に(ゆだ)ねようとしているだけですー。当然ながら、ストーリーの一部(いちぶ)は自分で考えたわけじゃなくてリアルのキャラクターに任せていると読者のみなさまにも正直に公表しますよーだ」

「う……っ! そ、そういうことであれば……さっきは生意気(なまいき)言ってすみませんでしたあ……」


 町娘さんは(うで)をほどき、急速にしおれてしまった。

 闇のマンガ家の声が(ひび)き続ける。


「というわけで2人にはさっそく私のマンガに(はい)ってもらいます」

「わたしだけじゃなくて町娘さんもなんだ……」


 こんしまちゃんは立ち()がり、右手を挙げる。


「まずは考える時間をくれませんか、闇のマンガ家さん……。せめて作品のおおまかな設定だけでも()()()()()()です……」

「心苦しいですが」


 天からの声が早口で返答する。


「そんな時間はありません」

「なぜですか……」

()め切りが近いからです!」

「しまった……っ!」


 こんしまちゃんも小耳にはさんだことがある。マンガ家にとっての締め切りはいのちの次に大事(だいじ)だと……。


 足もとのクリーム色のトランポリンに、黒くて太い線がいくつも走る。

 四角形や三角形がその表面(ひょうめん)()()がる。まるでマンガのコマのようだ。それらの図形のなかにこんしまちゃんも町娘さんも吸い込まれた。


* *


 そしてこんしまちゃんは制服を着たまま高校の教室の席に(すわ)っていた。

 もとの世界の学校に似ているけれど、こんしまちゃんはこれがマンガの世界であることを知っている。


 教室の(つくえ)の数は3かける3で9台。

 こんしまちゃん以外の8人もダークグレーのパーカーと黒いフレアスカートを着ている。


 舞台(ぶたい)は女子校のようで、男の子は見当(みあ)たらない。


 左後ろの窓際(まどぎわ)の席にいるこんしまちゃんは、右隣(みぎどなり)の席にいる町娘さんにこっそり(はな)しかける。


「このマンガ……どんな話なんだろ……」

「青春モノでしょうか? 画風も少女マンガっぽいですし」


 町娘さんもこんしまちゃんと同じ制服に着替(きが)えている。


「ただ、なんか気になるものがワタシたちの右肩(みぎかた)()いてますね~」

「だね……」


 こんしまちゃんの右肩のそばには、(きん)(わく)を持つ手鏡みたいなものが浮遊(ふゆう)していた。


 ただし鏡はこんしまちゃんの姿を映さず、信号機のような青緑色(あおみどりいろ)の光を発している。

 その手鏡っぽいものはこんしまちゃんだけでなく町娘さんやほかのみんなの右肩にも浮いている。


「なんなのかな……これ」


 こんしまちゃんは右の人差し指で鏡をつつこうとしたけれど、指がすり()けてさわることができない。


 ここで、青色のスーツを着た若い女性の先生が教室に入ってきた。

 先生の右肩のそばにも手鏡が浮いており、青緑色の光を出している。


「えー、みなさん。分かっているとは思いますが」


 青ざめた顔で自分の声を()いでいく。


「この町はゾンビに乗っ取られました。今わたしたちは救助を待っているところです」

「どうやらこのマンガはゾンビもののようですねー」


 町娘さんがこんしまちゃんにささやく。

 先生は(ちから)なくせき(ばら)いする。


「不幸中の(さいわ)いか、食料の備蓄(びちく)充分(じゅうぶん)にあります。今のところ電気も水道も使えます。ただしネットは使用できません。このなかで救助を待つわけですが、みなさんには(たが)いに仲よく共同生活を送っていただきたいと思います」

「けっ、くっだらねー」


 右前のすみっこの席に座っているボブカットの生徒が机に両足を乗せた。


「こんなヤツらと仲よしこよしだなんて冗談(じょうだん)じゃねーぜ」


 そのとき、ボブカットの生徒の右肩に浮かぶ手鏡の色が青緑から黄色に変わった。なお彼女(かのじょ)以外の手鏡の色はいっさい変化(へんか)していない。

 先生が注意する。


「ボブさん。こんな状況(じょうきょう)だからこそ、いがみ合ってはいけません」

「知らねーわ」


 ()き捨てるようにそう言って、ボブさんは自分の机を()っ飛ばした。

 立ち上がり、前側のドアから出ていく。


「あたしはあたしで勝手にやらせてもらう」


 そしてボブさんが出ていくとき、その手鏡の色がさらに黄色から赤へと変わった。


* *


 その(ばん)、こんしまちゃんたちは教室のなかで一緒(いっしょ)(ねむ)った。

 でも結局ボブさんは翌朝になっても帰ってこなかった。


 ()が明けたあと、こんしまちゃんたちはあらためて席に着いた。

 右前のすみっこの空席を気にしながら先生の話に耳をかたむける。


 先生が悲しそうに言う。


「みなさんに残念なお知らせがあります。ボブさんが死にました」


 ついで右手で窓の外を指差す。

 こんしまちゃんたちは現在2階にいるのだが……窓から校庭をのぞき込むと、確かにボブさんがあお向けになって地面に(たお)れていた。


 胸から大量に出血している。どうやらゾンビにかまれてしまったらしい。

 あたりには皮膚(ひふ)のただれた青白いゾンビが何体も徘徊(はいかい)している。


 ここでボブさんがユラリと起き上がった。

 すぐにボブさんの皮膚も青白くなって、ただれた。それからウーウーうなり声を上げた。ゾンビ化してしまったようだ。しかもボブさんの右肩のそばには、なんの光も映さない割れた手鏡が浮いている……。


「そ……そんな」


 こんしまちゃんは身を震わせた。


「なんでボブさんが……」

『あー、それはねー。不人気だったからですよ』


 教室の天井(てんじょう)から闇のマンガ家の声が響いた。


『この声はリアルからこのマンガに入りこんだ2人にしか聞こえていません。さらに、各キャラの右肩に手鏡が浮いているでしょう? その手鏡も2人にしか()えていません』

「もしかしてその手鏡に秘密が……」


 震えを(おさ)え、こんしまちゃんが小声で聞き返した。

 闇のマンガ家は笑い声を(まじ)えつつ答える。


『その手鏡は「ヘイトシグナル」と言います。読者のみなさんのヘイトを反映し、そのヘイト値に応じた光を発するんです。ヘイト値が低い場合は青緑色の光……ちょっとヘイト値が高まったら黄色の光……もう救いようがないほどのヘイト値を集めたら赤色の光に変化します。で、そんなヘイトシグナルが赤色のキャラは不人気なのでマンガには不要です。いや、積極的に排除(はいじょ)しなければ打ち切りまっしぐらです。なので消しました。作者権限によってね』


 愉快(ゆかい)そうに続ける。


『リアルからやってきたあなたがたも、人気がなくなったら消えますよ。そうなればマンガの(そと)にも(もど)れません』

「しまった」


 こんしまちゃんが肩を落とす。


「わたし……よく考えもせず闇のマンガ家さんの世界に入っちゃった……」

『ごめんなさいね』


 (そと)からのうなり声をかき消すように、闇のマンガ家の声が大きくなる。


『だって登場人物みんなに必死になってもらわなきゃ……キャラクターにリアリティが出ないじゃないですかあ。そしてあなたも……』

「え……?」


 こんしまちゃんはハッとして自分の手鏡の光を見た。

 光は青緑から黄色へと変色しているところだった。


 しかも、町娘さん以外の生徒と先生がこんしまちゃんをいぶかしげな目で見ている。


「なんでわたしのヘイトシグナルが黄色に……?」

『作者の私の声はほかのみんなには聞こえないんですよ。もちろん読者にもね。だから私と話すあなたは1人でぶつぶつ意味不明なことを言っていたも同然。そりゃ気味悪がられて人気も落ちるってものです』

「しまった……」


 もはや、こんしまちゃんは沈黙(ちんもく)するしかなかった。


* *


☆今週のしまったポイント:3ポイント(合計72ポイント)

次回「不人気キャラ削除システム」に続く?

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