厳しい法律
争いをなくすという役目を果たしたこんしまちゃんは、墓かぶりの世界を離れてさらなる異世界に転生する。
こんしまちゃんの目的は転生をくりかえしてもとの世界に再転生することだけど……果たして今度は戻ることができるのか?
* *
「ふ~む、どうやら今回のあなたは」
目を閉じたこんしまちゃんの頭の上から低い声が響く。
「ただの『放浪者』に転生したようですね」
「放浪者……? 旅人みたいなものかな……」
こんしまちゃんは目をあけた。
彼女は今、背もたれのない灰色のベンチに座っている。
目の前には幅が10メートル以上もある道が横に延びている。
その道の左右には灰色のビルが並ぶ。天気は晴れだが上空からはビュウビュウという風の音が聞こえる。薄茶色のトレンチコートを着た人々がまばらに道を歩いている。
こんしまちゃんも薄茶のトレンチコートを着用していた。
コートの下には白いシャツと紺色の短パンを着ている。なお靴は焦げ茶のローファーである。
自分の格好を確かめたあと、こんしまちゃんは頭にかぶっているものを取り外してひざに置いた。
それは紺色の帽子だった。つばがあり、台形をぺしゃんこにしたような形状だ。ふちに金色の帯が走っている。
「……ん? なんか見覚えがあるような……」
ベンチに座したままこんしまちゃんが首をひねる。
「あ……思い出した……確かわたしが駅長に転生したときの帽子だ……もしかしてわたし、また駅長になったのかな……」
「それが違うんですよね~」
ぺしゃんこのクラウン部分を上下に伸び縮みさせ、帽子が低い声を出す。
「確かにあなたは駅長がいた世界にもう1度やってきました。でもそのときの駅長は――あのときのこんしまちゃんは不用意に異界の食べ物を口に含んだせいで死んだんですよ?」
「しまった……そうだった……っ!」
ちょっと大きめの声を上げるこんしまちゃん。
このとき、道を歩く人たちがけげんそうな顔でこんしまちゃんのほうに目をやった。
だから恥ずかしくなってこんしまちゃんはうつむいた。
「しまった。ともあれナビゲーターさん……いや帽子さん……わたしがあの駅長さんに転生したわけじゃないのなら、どうしてわたしは駅長の帽子を持っているの……?」
「あなたは失職したんです」
「え……」
「最近この世界では星と星とをつなぐ電車のステーションの数が減らされているらしいですよ。なんでも利用者が少なくなって経営難におちいったとか。以前この世界の電車に乗っているときにも言いましたけど、この世界の電車は無料なんです。だから余計に維持が難しくて無駄を削減しなくちゃいけないってわけですわ~」
「そう……説明ありがとう……」
こんしまちゃんは小声で帽子と話し続ける。
「今わたしたちがいる場所は……前に女の子と一緒に訪れた銀色の立方体の星とは違うみたいだね……」
「ま、ここは別の星なんでしょうね。建物も銀色というよりは灰色ですし、みんなが着ているトレンチコートの色も黒じゃありませんし、なによりだれもパンをかじっていないから」
帽子も声のボリュームを落として会話を進める。
「ところで今回のこんしまちゃんの役目は……再就職です! この星で働き口を探すんですよ」
「そっか……わたし、絶賛失職中だったね……」
「絶賛してどうするんですか」
「しまった」
こんしまちゃんは、またその口癖を声に出した。
そのとき――。
ピーッ! という高い笛の音が響いた。
こんしまちゃんが顔を上げると、座っているベンチのまわりを3人の男が取り囲んでいた。
3人は金色のボタンのついた黒の上下を身にまとっている。
その左胸のボケットから赤いホイッスルを出し、口もとに当てている。
「通報を受けて来てみれば……けしからん。現行犯逮捕だ!」
「え……ど、どういうことです」
帽子をかぶって立ち上がり、こんしまちゃんは3人に質問する。
「わたし……ベンチに座っていただけです……」
「それは別にいいんだ」
正面に立つ男がハキハキと言いながら、こんしまちゃんの左右の手首に灰色の手錠をかける。
「きさまは『しまった』と言っただろう? この星には『しまった』と口にすると逮捕される、と~っても厳しい法律がある! 知らなかったではすまされんぞ!」
「しまった……」
さっき道を歩くみんなが自分のほうを見ていたのは、「しまった」という禁断の言葉を聞いたからだ。
ともあれルール違反なら、通報されても仕方がない。
「すみませんでした……『しまった』と言ってしまったこと、謝罪させてください……」
「あ、また『しまった』って言ったな!」
「しまった」
「きさまーっ! 何度罪を重ねれば気が済むんだ! 『しまった』と言っちゃダメなんだぞ!」
「しまった……って、わああ、また……」
「むむむ……これは重症だ」
正面の男は、ちょっと心配そうにこんしまちゃんを見つめた。
「ここまで『しまった』を連発したとなれば独房送り確定だな!」
「……おまえもな」
「へ……?」
ここで、正面の男の左右の肩に後ろから手が載せられた。
黒の上下を着た残り2人の男が、きょとんとするその男を押さえる。
「おまえもめっちゃ『しまった』って言ってたぞ」
「そうだよ~。5回も『しまった』って口にしたからね~」
「そ、そんなあ」
押さえられた男はシュンとしてうつむいた。
さらに、この瞬間。
「あ、あいつら例の言葉を……! 捕まえろー!」
道を歩いていたみんなが一斉に4人のほうを向き、突進してきた。
みんなの声が混ざる。
「わああ~」
結果、黒の上下を着た3人全員が取り押さえられ、こんしまちゃんと同様に灰色の手錠をかけられた。
手錠は男たちのポケットから奪われたものだ。どうやらこの星ではそれも合法らしい。
こんしまちゃんを含む4人はそのあとやってきたトラックのコンテナに乗せられた。
護送されたのち、灰色の格子が縦に並んだ牢屋のなかにぶち込まれた。
帽子を取られることはなかった。でも、はす向かいの牢屋で正座になってしょんぼりしている例の3人を見てこんしまちゃんは気の毒に思った。
「いくらなんでも厳しすぎるよ……『しまった』って言っただけなのに……」
『またまた言いましたね?』
ここでこんしまちゃんのいる牢屋に機械音声が流れ、そのゆかがパッカリと下に向かってあいた。
『もっと落ちて反省するがいい。「しまった」って言ったことを』
「しまった~……」
奈落に落ちゆくこんしまちゃん。
しかし途中で機械音声が悲鳴を上げる。
『あ、やっちゃった……や、やめろー。廃棄処分はやめてー……ブツッ』
「どうしよう、帽子さん……」
こんしまちゃんは落下しながら、帽子を両腕でぎゅっとだきしめた。
「わたし……この星でやっていけるのかなあ……」
「まあ、なんとかなるんじゃないですか」
低い声で帽子が答える。
「どんなに法律が厳しくて理不尽でも、死刑に処されたわけじゃないでしょ」
* *
☆今週のしまったポイント:7ポイント(合計63ポイント)
次回「われらのしまったを取り戻せ!」に続く?




