グレイブ・キャップ
臍帯者になったこんしまちゃんは宇宙ダムのある世界で、栄養補給という自分の役目をみごとに果たした。
というわけで、またこんしまちゃんの体が淡い光につつまれて転生を始める。
森のなか、アユの姿をしたナビゲーターがこんしまちゃんのほおをつつく。
「ところで現在のあなたは『今週のしまったポイント』を56ポイント保有しています」
「へ~……知らないうちにけっこうたまったんだね……」
こんしまちゃんはのんきにつぶやいた。
そんなこんしまちゃんのほおを、アユが尾びれでぐりぐりする。
「このところ、ずっとあなたはポイントを消費していませんね~。もう50ポイントを超したことだし、ここらでパーッと使ってみては? ポイントの使い道はもちろん覚えていますね?」
「しまった……覚えてない……」
こんしまちゃんががく然とした。
対するアユは首を振って苦笑する。
「はい、今ので57ポイント! ちなみに以前説明した使い道を復唱しますと……世界の閲覧に1ポイント、転生先の世界または個体の指定に5ポイント、世界の合体に10ポイント、世界の消滅に15ポイントというラインナップになっていますわ~」
「まあ最後の2つはやんないほうがよさそうだね……というわけで」
淡い光が自分を飲み込む前に、こんしまちゃんが心で念じる。
「転生先の個体の特徴を指定……今度は『つよつよ主人公』でいこう……」
「え? いいんですか、それで」
アユがツッコむ。
「あなたの目的はもともと自分がいた世界に『再転生』することでしょう? 次に転生する個体としてつよつよ主人公を指定した場合、次の世界では絶対にもとのこんしまちゃんになれませんよ? だってもとの世界のあなたはけっして、つよつよ主人公じゃなかったんだから」
「しまった……」
でもキャンセルもできないので、このままこんしまちゃんはつよつよ主人公に生まれ変わるしかない。もちろん、今週のしまったポイントもきっちり5ポイント消費されている。
* *
そして次に気づいたとき、こんしまちゃんは色あせた紫の大地に立っていた。
紫といっても花や草は生えていない。地面そのものが紫色を含んでいるのだ。あたりには同色の大きな岩がごろごろ転がっている。
おまけに空まで薄紫によどんでいる。雲1つない空なのに……。
空気の感じは、やや湿っぽい。気温はちょっと暖かい。
肝心のこんしまちゃんは、破れた灰色の布を上半身と下半身にまとっている。
前の世界と同様におへそを出した格好だけど、すでにへその緒は失われている。
はだしのまま、こんしまちゃんが紫の大地を進む。
土が足の裏にくっつく。ウェーブのかかったくせ毛が空気中の水分を含み、少し重くなる。
「あれ……妙に頭が重いような……? これ、髪だけのせいじゃない……!」
いったんこんしまちゃんは足をとめ、両手で頭の上をさわった。
どうやら帽子をかぶっているようだ。こんしまちゃんはそれを外そうとした。けれど、どんなに力を込めてもびくともしない。
あきらめて、こんしまちゃんはあたりを見回した。
「ナビゲーターさ~ん……この世界でのわたしの役目はなに~……?」
でも今回はナビゲーターの反応がなかった。
困ったこんしまちゃんは、ひとまずこの世界を探索することにした。
「まあ今のわたしはつよつよ主人公のはずだし……なんとかなるんじゃないかな……」
こんしまちゃんがそうつぶやいたときだった。
右前方の岩のかげから何者かが飛び出した。
「見つけたぞ! ここに生き残りがいたとはな!」
こんしまちゃんと同じくらいの背丈の少女が指をポキポキ鳴らして近づいてくる。
その格好も、破れた灰色の上下。当然のようにはだしである。
が、その見た目でとくに異彩を放つのが――。
少女のかぶっている「帽子」だった。
帽子のクラウン部分が、灰色の直方体の墓石のかたちをしていたのだ。
まるで本物の墓石のようだ。墓石をささえるつばも大きめであり、とても重そうに見える。
口をあんぐりあけて、こんしまちゃんが戸惑う。
「え……なんでお墓を頭に載っけてんの……」
「隙ありぃッ!」
少女が奇声を上げ、こんしまちゃんに飛びかかる。
ハッとしてこんしまちゃんがあわあわする。
「しまった……やられる……」
「みずからの墓標につぶされるがいいッ!」
お墓の帽子をかぶった少女が強気に声を張り上げる。
こんしまちゃんは両手を前に出し、その攻撃を防ごうとした。
「ひええ……っ、来ないで……っ!」
「ぐわーッ!」
こんしまちゃんの両手が少女の胸部に当たると同時に、当人は後ろに吹っ飛んだ。
その先にある岩に背中をぶつけ、よろめく。
「な、なんて強さだ……キャップ側にこんなヤツがいたなんて……」
よろめいたあと、力なくひざをつく。
で、次の刹那。
頭の上の墓石が、それをかぶっていた少女そのものを押しつぶした。
血などが噴き出すことはなかったけれど、さきほどまで元気だった少女の姿が完全に消えた。
代わりに、紫の大地の上に……少女のかぶっていた墓石のみが鎮座する。
「ど……どういうこと……? あの子が帽子のお墓の下にうまっちゃった……」
震えながらこんしまちゃんが墓石に近づき、それを地面からどかそうとした。
でも、お墓はまったく動かない。
ついでこんしまちゃんはお墓のまわりの土を掘ろうとした。
が、墓石周辺の土はカッチカチになっており掘り進めることはできそうにない。
「そっか……これが今回の異世界のルールなんだ……」
おそらく、この世界で力つきた人間は頭にかぶった墓石に押しつぶされて埋葬される。
そして鏡を見ずとも、こんしまちゃんは自分の頭になにが載っているかを理解した。
「わたしもお墓の帽子をかぶっているんだ……いつどこで力つきても、お墓の下で眠ることができるように……」
こんしまちゃんは深呼吸ののち、目の前の灰色の墓石に手を合わせた。
「わたしがつよつよ主人公じゃなかったら、今ごろ墓の下にいたのはわたしのほうだったかもしれない……」
* *
☆今週のしまったポイント:-2ポイント(合計54ポイント)
次回「墓かぶりの王」に続く?




