名前を探そう
多くの人の背中にコブがある世界で、役目を終えたこんしまちゃんはひっそりと淡い光につつまれた。
その世界に生きる普通の高校生の体を離れ、また新たな世界への転生を始める。
(でも、これって転生なのかな……。転移や憑依って言ったほうがいいような気もするけど……)
そんな疑問を持とうが持つまいが、こんしまちゃんの魂は世界から世界へと旅立っていく……。
* *
気づくと、こんしまちゃんの目の前に炎が広がっていた。
赤い炎が燃え立ち、夜の荒野を照らしながら大きな直方体をかたちづくっている。まるで一軒家が燃えているようだ。
「た、大変……消防車を呼ばないと……」
こんしまちゃんは炎から離れ、しゃがんだ。
ポケットをさぐる。もとの世界の持ち物であったスマートフォンを取り出そうとしたのだ。
しかし、今着ている服にポケットはないようだ。
それどころか――。
「え……ウソだよね……」
体が炎につつまれている。
こんしまちゃんの胴体が赤い炎をまとっているのだ。四肢や頭部、髪には広がっていないが、その炎はこんしまちゃんにへばりついたまま激しくゆらめいている。
「わあああっ……焼けちゃう……!」
「冷静になってください」
このとき、荒野を走ってこんしまちゃんに近寄る影があった。
それはハムスターだった。毛皮が炎で燃えている。
そのハムスターがジャンプし、こんしまちゃんの露出した右肩に載る。
こんしまちゃんが慌てる。
「ひええっ……肩まで燃える……」
「燃えません!」
ハムスターが、高い声を上げて一喝する。
こんしまちゃんは落ち着いて深呼吸してみた。左手でハムスターの炎の毛皮にさわる。でも少しあったかいだけで、そこまで熱くない。やけどもしない。むしろふわふわとした感触がある。
「こ、これ本当に火なの……?」
自分の胴体にまとわりついている炎もさわってみる。
やはり、こちらの炎もほとんど熱くない。上質な繊維の服みたいに心地いい。炎のゆらめきがほどほどに皮膚を押すので、なんかリラックス効果もある。
「しまった……慌てたのがはずかしい……。でも不思議……。わたし、またおもしろい異世界に転生したんだね……」
「まあ、この世界のすべてが炎につつまれているわけじゃありませんがね~」
こんしまちゃんの肩で、ハムスターが体を丸める。
「今回のあなたは、炎人種に転生したのです」
「ほのーじんしゅとは……?」
「あくまでこの世界に限った定義ですが、炎人種とは炎の精霊と人間のあいだに生まれた子どもの子孫たちです」
さらに、ハムスターが首を横に振る。
「いや、人間だけじゃなくてこの世界の生き物はことごとく精霊の血を引いています。ハムスターもね」
「ふ~ん。で……ナビゲーターのあなたは今回ハムスターさんなんだね……」
こんしまちゃんは立ち上がり、ハムスターの炎の背中をなでる。
「この世界でのわたしの役目はなに……」
「自分の名前を見つけることです」
「名前……」
こんしまちゃんは首をかしげる。
「それだけでいいの……?」
「いや、けっこう難しいと思います。この世界の人間は永遠不滅の存在である『かみしゃま』から名前を与えられるんですが、かみしゃまは意地悪なので名前を簡単には教えてくれないんですよ」
「それ、名前をつけた意味あるのかな……」
「かみしゃまは本人の名前を世界のどこかに隠しています。それを探し当てれば、今回のこんしまちゃんの役目は果たされます」
「……分かった。ありがとね、ハムスターさん……」
ここでこんしまちゃんは、快適な炎の服の前面をちょっと引っ張った。
「そういえば……今まで転生したときは、わたし……人の名前も自分の名前も気にしてなかったなあ……」
「転生する際に、魂が混乱しないように気を配っていたんですよ」
炎のモフモフ毛皮をハムスターがこすりつけてくる。
「あなたの魂はこんしまちゃんの魂ですが、いきなり別の名前で呼ばれたら慌てるでしょう? だからこれまでは自分の名前が都合よく呼ばれない世界に転生していたというわけですねー。まあ、今週のしまったポイントなどについてワタシが説明した世界はちょっと例外でしたけどー」
「ともかく今後は、転生した人の名前とも向き合わないといけないってことだね……」
こんしまちゃんはきびすを返し、夜の荒野を進もうとする。
「じゃ、行こう……」
「いやいや、炎の家があったじゃないですか。まずはあれの探索からでしょう!」
「しまった……」
というわけでこんしまちゃんはまた方向を転換し、炎でつつまれている直方体の家に近づいた。
壁をさわっても、こんしまちゃんの体は焼けない。
家を構成する炎にも、ふんわりとした実体があるようだ。
炎の引き戸をあけ、なかに入る。なお、今のこんしまちゃんははだしである。
家のなかには、仕切りのない部屋が広がっていた。壁のみならず天井もゆかも心地いい炎でできている。
家具も置かれている。炎のソファはふかふかで、炎のベッドはモフモフだ。
炎のタンスをあけてみると、こんしまちゃんの顔と同じ大きさの鏡が出てきた。鏡のふちは炎でおおわれているけれど、肝心の鏡面はこんしまちゃんのよく知っている鏡と同じだ。
こんしまちゃんは鏡をのぞき、自分の顔を見た。
ウェーブのかかったくせ毛は、もとの世界の自分と同じだ。だけど瞳は赤い。顔もちょっと幼い。年は14歳くらいだろうか。
鏡をタンスに戻す。ほかの引き出しもあけてみる。でも、どれもカラだった。
「結局、家に名前の手がかりはなし……これが分かっただけでも収穫だね……」
ここで眠くなったので、こんしまちゃんはモフモフのベッドのなかにもぐり込んだ。
炎のシーツもブランケットもあたたかくゆらめき、こんしまちゃんを深い眠りにいざなった。
――と思った瞬間。
「こらああっ! なに人んちで寝てやがるんだてめええっ!」
という高い声が部屋のなかに響き渡った。
こんしまちゃんは飛び起き、炎のゆかに転がった。
「しまった……わたし、ここが自分の家って思い込んじゃってた……」
そして目の前を見ると……。
胴体に水をまとった10歳くらいの女の子が、ほおをふくらませてプリプリしていた。
こんしまちゃんは深々とこうべを垂れて謝った。ハムスターもこんしまちゃんの肩からおりて頭を下げる。
それから、こんしまちゃんがたずねる。
「きみは……わたしの名前を知っているかな……」
「クリ」
水をまとった女の子がぶっきらぼうに答えた。
「ホントはク○って言いたいけどきたないからちょっと変えてクリ」
「やった……ありがとう。教えてくれて……」
「まま、待ちなさい」
ハムスターがこんしまちゃんの右のふくらはぎをつつく。
「それ、ただの悪口ですよ!」
「しまった……」
こんしまちゃんが頭をかかえる。
水を着た女の子も、ため息をつく。
「なんなの、てめえら。ホント、クリ……」
* *
☆今週のしまったポイント:4ポイント(合計30ポイント)
次回「クリ野郎」に続く?




