表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/17

名前を探そう

 多くの人の背中にコブがある世界で、役目を終えたこんしまちゃんはひっそりと(あわ)い光につつまれた。

 その世界に生きる普通(ふつう)の高校生の体を(はな)れ、また新たな世界への転生(てんせい)を始める。


(でも、これって転生なのかな……。転移や憑依(ひょうい)って言ったほうがいいような気もするけど……)


 そんな疑問を持とうが持つまいが、こんしまちゃんの(たましい)は世界から世界へと旅立っていく……。


* *


 気づくと、こんしまちゃんの目の前に(ほのお)が広がっていた。

 赤い炎が燃え立ち、(よる)荒野(こうや)を照らしながら大きな直方体をかたちづくっている。まるで一軒家(いっけんや)が燃えているようだ。


「た、大変……消防車を呼ばないと……」


 こんしまちゃんは炎から(はな)れ、しゃがんだ。

 ポケットをさぐる。もとの世界の持ち物であったスマートフォンを取り出そうとしたのだ。


 しかし、今着ている服にポケットはないようだ。

 それどころか――。


「え……ウソだよね……」


 体が炎につつまれている。

 こんしまちゃんの胴体(どうたい)が赤い炎をまとっているのだ。四肢(しし)や頭部、(かみ)には広がっていないが、その炎はこんしまちゃんにへばりついたまま激しくゆらめいている。


「わあああっ……焼けちゃう……!」

「冷静になってください」


 このとき、荒野を走ってこんしまちゃんに近寄る(かげ)があった。

 それはハムスターだった。毛皮が炎で燃えている。

 そのハムスターがジャンプし、こんしまちゃんの露出(ろしゅつ)した右肩(みぎかた)()る。


 こんしまちゃんが(あわ)てる。


「ひええっ……肩まで燃える……」

「燃えません!」


 ハムスターが、高い声を上げて一喝(いっかつ)する。

 こんしまちゃんは落ち着いて深呼吸してみた。左手でハムスターの炎の毛皮にさわる。でも少しあったかいだけで、そこまで熱くない。やけどもしない。むしろふわふわとした感触(かんしょく)がある。


「こ、これ本当に火なの……?」


 自分の胴体にまとわりついている炎もさわってみる。

 やはり、こちらの炎もほとんど熱くない。上質な繊維(せんい)の服みたいに心地(ここち)いい。炎のゆらめきがほどほどに皮膚(ひふ)()すので、なんかリラックス効果もある。


「しまった……(あわ)てたのがはずかしい……。でも不思議……。わたし、またおもしろい異世界に転生したんだね……」

「まあ、この世界のすべてが炎につつまれているわけじゃありませんがね~」


 こんしまちゃんの肩で、ハムスターが体を丸める。


「今回のあなたは、炎人種(ほのおじんしゅ)に転生したのです」

「ほのーじんしゅとは……?」

「あくまでこの世界に限った定義ですが、炎人種とは炎の精霊(せいれい)と人間のあいだに生まれた子どもの子孫たちです」


 さらに、ハムスターが首を横に()る。


「いや、人間だけじゃなくてこの世界の生き物はことごとく精霊の血を引いています。ハムスターもね」

「ふ~ん。で……ナビゲーターのあなたは今回ハムスターさんなんだね……」


 こんしまちゃんは立ち()がり、ハムスターの炎の背中をなでる。


「この世界でのわたしの役目はなに……」

「自分の名前を見つけることです」

「名前……」


 こんしまちゃんは首をかしげる。


「それだけでいいの……?」

「いや、けっこう難しいと思います。この世界の人間は永遠(えいえん)不滅(ふめつ)の存在である『かみしゃま』から名前を(あた)えられるんですが、かみしゃまは意地悪(いじわる)なので名前を簡単には教えてくれないんですよ」


「それ、名前をつけた意味あるのかな……」

「かみしゃまは本人の名前を世界のどこかに(かく)しています。それを探し当てれば、今回のこんしまちゃんの役目は果たされます」

「……分かった。ありがとね、ハムスターさん……」


 ここでこんしまちゃんは、快適な炎の服の前面をちょっと引っ張った。


「そういえば……今まで転生したときは、わたし……人の名前も自分の名前も気にしてなかったなあ……」

「転生する際に、魂が混乱しないように気を配っていたんですよ」


 炎のモフモフ毛皮をハムスターがこすりつけてくる。


「あなたの魂はこんしまちゃんの魂ですが、いきなり別の名前で呼ばれたら(あわ)てるでしょう? だからこれまでは()()()()()()()()()()()()()()()()()に転生していたというわけですねー。まあ、今週のしまったポイントなどについてワタシが説明した世界はちょっと例外でしたけどー」

「ともかく今後は、転生した人の名前とも向き合わないといけないってことだね……」


 こんしまちゃんはきびすを返し、夜の荒野を進もうとする。


「じゃ、()こう……」

「いやいや、炎の(いえ)があったじゃないですか。まずはあれの探索(たんさく)からでしょう!」

「しまった……」


 というわけでこんしまちゃんはまた方向を転換(てんかん)し、炎でつつまれている直方体の家に近づいた。


 (かべ)をさわっても、こんしまちゃんの体は焼けない。

 家を構成する炎にも、ふんわりとした実体があるようだ。


 炎の引き戸をあけ、なかに(はい)る。なお、今のこんしまちゃんは()()()である。


 家のなかには、仕切りのない部屋が広がっていた。壁のみならず天井(てんじょう)もゆかも心地いい炎でできている。


 家具も置かれている。炎のソファはふかふかで、炎のベッドはモフモフだ。

 炎のタンスをあけてみると、こんしまちゃんの顔と同じ大きさの鏡が出てきた。鏡のふちは炎でおおわれているけれど、肝心(かんじん)の鏡面はこんしまちゃんのよく知っている鏡と同じだ。


 こんしまちゃんは鏡をのぞき、自分の顔を見た。

 ウェーブのかかったくせ()は、もとの世界の自分と同じだ。だけど(ひとみ)は赤い。顔もちょっと(おさな)い。年は14(さい)くらいだろうか。


 鏡をタンスに(もど)す。ほかの引き出しもあけてみる。でも、どれもカラだった。


「結局、家に名前の手がかりは()()……これが分かっただけでも収穫(しゅうかく)だね……」


 ここで(ねむ)くなったので、こんしまちゃんはモフモフのベッドのなかにもぐり()んだ。

 炎のシーツもブランケットも()()()()()ゆらめき、こんしまちゃんを深い眠りにいざなった。


 ――と思った瞬間(しゅんかん)


「こらああっ! なに人んちで()てやがるんだてめええっ!」


 という高い声が部屋のなかに(ひび)(わた)った。

 こんしまちゃんは飛び起き、炎のゆかに転がった。


「しまった……わたし、ここが自分の家って思い込んじゃってた……」


 そして目の前を見ると……。

 胴体に水をまとった10歳くらいの女の子が、ほおをふくらませてプリプリしていた。


 こんしまちゃんは深々とこうべを垂れて(あやま)った。ハムスターもこんしまちゃんの肩からおりて頭を下げる。


 それから、こんしまちゃんがたずねる。


「きみは……わたしの名前を知っているかな……」

「クリ」


 水をまとった女の子がぶっきらぼうに答えた。


「ホントはク○って言いたいけどきたないからちょっと変えてクリ」

「やった……ありがとう。教えてくれて……」


「まま、待ちなさい」


 ハムスターがこんしまちゃんの右のふくらはぎをつつく。


「それ、ただの悪口(わるくち)ですよ!」

「しまった……」


 こんしまちゃんが頭をかかえる。

 水を着た女の子も、ため息をつく。


「なんなの、てめえら。ホント、クリ……」


* *


☆今週のしまったポイント:4ポイント(合計30ポイント)

次回「クリ野郎」に続く?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ