ラスボスRTA
週に一度は「しまった」と言ってしまう女子高生こんしまちゃんは異世界に転生してしまった!
こんしまちゃんはファンタジー世界の魔王になった。
最強の攻撃力を持つ魔王の杖をにぎりしめ、最強の防御力を誇る魔王のマントを羽織っている。ただしこんしまちゃんの特徴であるウェーブのかかったくせ毛だけはいつもどおりだ。
黒い西洋風のお城の玉座に腰を下ろしているこんしまちゃんのもとに、なんかコウモリのぬいぐるみが近づいてくる。
「あなたは魔王に転生しました。あなたにはこれから、やってもらいたいことがあります」
「まさか勇者をボコボコにするの……?」
すっかり悪役気分のこんしまちゃん。
でもコウモリは首を横に振る。
「いえ、あなたは魔王として勇者にボコボコにされてください。つまり倒されてください! できる限り早く! 世界平和のために!」
「え……っ」
こんしまちゃんは戸惑った。
そしてちょっと考えたあと、異世界での自分の役割をまっとうすることに決めた。
「コウモリさん……勇者の居場所は」
「始まりの城です」
「じゃ、そこ行くね……」
* *
今のこんしまちゃんは魔王なので瞬間移動もお手のものだ。
コウモリと一緒に、白いお城の前にワープした。
ついで空を飛び、そのお城のバルコニーから内部に侵入する。
突進によって兵士たちを蹴散らし、謁見の間の扉をあける。
左右に大臣たちの並んだ赤いカーペットの先に、赤い玉座が設けられている。そこにトランプのキングの絵柄そのままの王さまが座している。
さらに王さまの前には、薄茶色の初期装備で身を固めた黒髪の勇者がひざまずいていた。
「やっほー……勇者。魔王だよー……」
気さくにあいさつするこんしまちゃん。
謁見の間がざわつく。
しかしさすがは勇者。初期装備で剣すら持っていないのに勇敢にこんしまちゃんの前に立ちはだかる。
「なんの用だ、魔王」
「いや……弱いうちに勇者は始末しておくべきだから来ちゃった……」
こんしまちゃんは魔王としてのロールプレイをこなしながら、どうやってボコボコにされるか考える。
問題は勇者の装備だ。そこでこんしまちゃんは転んだ。
ここで、魔王の杖と魔王のマントをわざとらしく勇者の前に転がした。
「しまったー。転んだ拍子に最強の攻撃力を持つ杖と最強の防御力を持つマントを落としちゃったー」
「な……うかつだな! 魔王!」
めざとく勇者が杖とマントを拾い、装備する。
対するこんしまちゃんは二つの最強装備を失った。これならボコボコにしてもらえるはずだ。
だが――。
「食らえぇッ! 勇者アタック!」
とか言って杖で勇者が肌着のこんしまちゃんをポカポカなぐるも、こんしまちゃんはノーダメであった。
最強装備を渡したところで、レベル差がありすぎるのだ。
コウモリがこんしまちゃんにこっそり教える。
「ちなみに現在の勇者のレベルは1で、魔王のレベルは1億です」
「……え」
こんしまちゃんはとりあえず、スキル無効化の呪文を勇者に撃っておく。
本来これはチート呪文なのだが、なんのスキルも習得していない勇者には無意味である。
「どうすれば……そうだ」
ここでこんしまちゃんは、謁見の間に控えている大臣たちと玉座の王さまに向かって言う。
「くくく……一対一では歯ごたえがない……っ! まとめてかかってくるがよいザコ人間ども……」
勇者のレベルが足りないなら、みんなに協力させて自分をボコボコにしてもらおうとこんしまちゃんは考えたのだ。
魔王の言葉を受け、大臣たちも王さまも奮起して魔王に近づき、まわりをぐるっと取り囲む。
護衛の兵士たちも加わり、一斉攻撃がなされる。
剣と魔法の連続攻撃を受けたあと、こんしまちゃんはコウモリにささやく。
「あとどれくらいでわたし倒れる……?」
「んー。もともとの体力が100兆ポイントでさっきの攻撃で50ダメージ受けたのであと99兆9999億9999万9950ポイントのダメージを受ければいいですよ!」
「しまった。全然足りない……」
装備を渡してもダメ。仲間と協力させてもダメ。
小声でコウモリと相談する。
「毒で固定ダメージを与えてもらうのは……?」
「魔王は完全耐性を持っています。そんなの効きません」
「自分で自分に攻撃するのは……」
「それでは勇者にボコボコにされたことになりません!」
「むむむ……っ! あ、いいこと思いついた……」
こんしまちゃんは、全魔王軍にテレパシーで脳内に直接連絡を入れることにした。魔王なんだからやっぱりこの程度ちょちょいのちょいだ。
『魔王軍のみんな……大事なお知らせがあるよ……』
なお、このテレパシーはこんしまちゃんを囲む人間たちにも聞こえている。
『きょうから休みなしで働いてもらうからね……あと残業代はもう出さない……ボーナスもなしにする……』
連絡が済むと同時に、謁見の間の天井が一瞬にして崩れ去った。
翼を持った魔王軍の幹部たちが部下を引き連れて、始まりの城までやってきたのだ。
瞬間移動を使ったあと空から魔法攻撃を放ち、天井をぶっ壊したようだ。
「ふざけんな、魔王! 発言を撤回しやがれ!」
そりゃ休みも残業代もボーナスもなくすと言われてキレないヤツはいない。魔王軍も人間と同じ心を持っているのだ。
魔王軍は勇者たちを無視して上空から魔王にダメージを与えていく。
その際こんしまちゃんはサイコキネシスを使い、最強装備の勇者がギリギリ倒せそうな魔物を彼の前に送りつけた。めざとく勇者はその魔物を撃破し、効率よくどんどんレベルアップする。
これをくりかえし、ついに勇者はレベル9999にまで成長した。
でもコウモリがこんしまちゃんに耳打ちする。
「もう勇者のレベルはカンストしました」
「え、魔王のわたしのレベルが1億なのに……?」
「そういう仕様なんです!」
「いや、まだレベル差があるとはいえ……今なら最強装備の杖とマントも使いこなせるはず……」
こんしまちゃんは「透視」の呪文を唱え、レベルアップによって勇者が新たに身につけたスキルを確認する。「カウンター」というスキルが目にとまる。これを使えば直前に食らったダメージを次の攻撃力に加算することができるらしい。なおこんしまちゃんが勇者に放ったスキル無効化の呪文の効果は勇者のレベルアップ時に解除されている。
「よし、今からわたしは最強の攻撃魔法『めちゃつよビーム』を放つぞ……これは今の勇者の体力100億ポイントを残り1までけずる絶技……でもカウンターを使われたらヤバい……」
「そうか!」
純粋に瞳を輝かせ、勇者がさけぶ。
「さっき覚えたカウンターを使えばいいんだな!」
「し、しまったー。やめろー。でもとまらない……」
まがまがしい熱線がこんしまちゃんの右手から発生し、勇者を襲う。
レベルカンストでも普通だったら即死だけど、最強の防御力を誇る魔王のマントのおかげで勇者はギリギリ耐えた。
勇者は笑い、右手に杖を構える。
「あとはこれでなぐれば……!」
「ま、待った……」
さすがにカウンター込みでも、通常攻撃だけで倒せるほど魔王は弱くない。そこでこんしまちゃんは、覚えたての呪文を勇者に使ってもらうことにした。
「その杖の攻撃力を借りて魔力全消費の最強呪文『ヤバすぎサンダー』を使われない限りわたしは無敵……」
「あ、レベル9999になったときに習得したヤツか!」
杖をいったん胸に引き寄せ、勇者が瞳に決意を込める。
「それで決着つけてやるぜ!」
「ふ、ふん……だがわたしの弱点である左胸の心臓をつらぬきでもしなければ……!」
「左胸が弱点か!」
「しまった……!」
まあ心臓のある位置はだれにとってもねらわれたくない場所である。
勇者の杖に金色のイナズマが走る。
「観念しろ、魔王! ヤバすぎサンダーッ!」
「ぐわああああああ~」
すでにこんしまちゃんの体力は反逆の魔王軍と人間連合軍の総攻撃により1950ポイントマイナスされ、99兆9999億9999万8000ポイントにまでけずられていた。
レベルカンスト勇者の魔法攻撃力は最強装備の杖の恩恵もあって400億。カウンタースキルにより、直前に受けたダメージの99億9999万9999ポイントが攻撃力に加算される。そしてヤバすぎサンダーはその攻撃力の数値に消費魔力すべてをかけた破壊力を持つ。消費魔力は1000ポッキリ。よってヤバすぎサンダーの破壊力は499億9999万9999かける1000で49兆9999億9999万9000ポイントとなる。弱点を攻撃したことによりその威力は倍加され、99兆9999億9999万8000ポイントが最終ダメージとして魔王に与えられる。なお魔王はマントを手放しているのでこれを軽減することができない。しかもヤバすぎサンダーは相手の素の防御力をゼロとしてダメージ計算を適用できるのだ。
そんなわけで残りの体力をジャストで刈り取られた魔王こんしまちゃんは原子レベルに分解されて消滅した。
* *
そのあとハッとして起き上がる。
ウユニ塩湖を思わせる謎空間にこんしまちゃんは横たわっていた。
上半身を起こすこんしまちゃんのもとに、例のコウモリが飛んでくる。
「やりましたね! みごとあなたは魔王として勇者にボコボコにされて倒されたんです! しかも始まりの城で1時間もかけずに! これはラスボス討伐RTA界隈に激震が走りますよー!」
「……? あーるてぃーえーってなに……?」
なんかよく分からないけど、コウモリがうれしそうなのでこんしまちゃんもうれしくなった。
コウモリが翼をパタパタさせて声をはずませる。
「そうだ、平和になった世界を一緒に見ようじゃありませんか!」
ウユニ塩湖みたいな水面に、黒髪の勇者の顔が映る。
だが――。
勇者は黒い西洋風のお城の玉座でふんぞりかえっていた。
「あれ……? コウモリさん、これ魔王のわたしが最初にいたとこなんじゃ……?」
勇者は魔王の杖をにぎりしめ、魔王のマントを羽織っている。
眼下にひざまずく者たちを尊大に見下ろしている。
そのなかには魔王軍の幹部たちや始まりの城にいた大臣たち、さらにはトランプのキングに似たあの王さままで交じっている。
勇者が高らかに笑う。
『皆の者! 世界の統一は完了した! これからは我が全世界を統べる魔王であるぞ!』
「あちゃー……」
コウモリがため息をつく。
「どうやら始まりの城から出ることもなくあっさり魔王を倒したせいで勇者が増長しちゃったみたいですねー。レベルの成長に心の成長が追いつかなかったと言いますか……しかも最強装備も持ってるんだからそりゃだれだって調子に乗りますわなー」
「し、しまったコウモリさん……世界平和は……?」
「あるわけねーだろー」
「ひええ……っ」
でもこのとき、水面に映る勇者がこんなことを言った。
『安心するがいい! 当たり前のことだが休みはちゃんとあるし、残業代も出す! ボーナスもはずむ! これからはわたしの主導のもと、みんなが住みやすい世界を作っていこう! 当然、独裁にならないよう議会とかもちゃんと整備する!』
ひざまずいていた幹部たちや王さまが顔を上げ、涙を流して拍手する。
こんしまちゃんが首をひねる。
「あ、あれ……まともだね……なんでかな」
「もしかして」
コウモリが、こんしまちゃんの肩をつつく。
「あなたの演じていた魔王を教訓にしたんじゃないでしょうか。だって魔王は自分の仲間に冷たくしたせいで敗れたんですから。『自分はそうならないようにみんなに優しくしよう』って勇者は思ったんですよ!」
「そ、そっか……そうだよね……彼は勇者だもんね……」
ここで、こんしまちゃんの体が淡い光につつまれる。
「え……なに」
「あなたはこの世界での役目を終えたのです」
宙に浮いたまま、コウモリがうやうやしく頭を下げる。
「よって次なる世界に転生することになります」
「え、まだあるの……?」
「言ってませんでしたっけ」
コウモリが短く舌を出す。
「しまった。てへっ」
「そ、それ……」
刹那。
上空に渦巻が発生し、こんしまちゃんを一気に吸い込んだ。
「それわたしのセリフだよ~……」
「では、いってらっしゃい!」
そんなコウモリの声と共にウユニ塩湖っぽい謎空間も消えた。
グルグル旋回する風のなかにこんしまちゃんは放り出された。
しばらく途方に暮れていたこんしまちゃんだったが、急にハッとして両手でほおをたたく。
「しまった。なにわたし、ネガティブになってるんだろ……さっきの世界で魔王になるのもおもしろかったし、こうなったら楽しまなきゃ……」
すると右前方に、「ステーション」という看板をかかげた大きな白い建物が見えた。
「あれに入ってみよ……」
でもこの瞬間、風にあおられた看板がベリベリとはがれ、こんしまちゃんのほうに飛んできた。
看板はこんしまちゃんよりもひとまわり大きかった。それが直撃した。
「しまった……」
* *
果たしてこんしまちゃんは無事なのか? 次なる世界に行くことができるのか?
そもそもこれは現実なのか? 続くのか? いろいろツッコミどころはあるけれど……。
まあこんしまちゃんが楽しんでいるようなら、なんだっていいじゃないか! と適当なことを言って締めくくろう。これは申し訳程度の「しまった」を含むいい加減でめちゃくちゃで気まぐれな、ただの夢みたいな世界の旅路にすぎないんだから。
☆今週のしまったポイント:7ポイント
本作の元ネタは小説家になろうで毎週金曜日の午後7時ごろに私が投稿している「今週のしまったちゃん」(ジャンルはコメディー[文芸])という自作小説です。
「今週のしまったちゃん異世界ば~じょん」に関しては肩肘張らずに書いています。小説家になろうサイトで他に投稿する作品がないときに不定期更新するつもりなので、ずっと更新しなかったり急に連日投稿したりする形式になると思います。
とりあえず2話目以降を書く場合は、1話あたり2000字前後を目標にします。




