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生きる力

 初めの頃の私は、必死でしがみつくように暮らしていた。


 魔力の制御どころか、薪を割るのにも畑を耕すのにもすぐに息が上がってしまう。


「そろそろ休め」と言われても、私は首を振って続けた。


(捨てられた私には努力しか残されていない)


 そう信じ込んでいたから。


 けれどある夕暮れ、無理をしすぎた私はは熱を出した。

 視界が霞む中、額に触れた大きな掌の温もりを今も覚えている。


「馬鹿者。命を削って学んでも、力は身につかん」


 その声は叱るようでありながら、震えていた。

 胸が締め付けられて涙が溢れた。


 ……まるで父に叱られたようで、懐かしく、そして嬉しかった。


 そして熱が下がると、彼は私を台所に立たせた。


「暮らしを学べ。魔術の前に、まず火と水を扱え」


 私は小さく頷くと、ぎこちない手つきで野菜を刻み、それらを鍋に放り込んだ。


 初めて作ったスープは塩辛くて飲めたものではなかったのに、彼は一口すすり、苦笑して言った。


「……次は水を少なめに入れろ」


 翌日リベンジするも、今度は逆に味が薄すぎた。


「これは水だな」と真顔で呟く彼の姿に、私は思わず吹き出した。


 笑う自分を思い出し、胸がじんわり熱くなる。

 家族を失ったあの日以来、忘れていた感覚だった。


 やがて、二人で作るスープは甘く温かく、冷え切った私の心をも溶かしていった。

 その時間だけは、私は孤児ではなく“家族”だと思えた。




 そして、生活を覚える合間に魔力コントロールの練習も始まった。


「呼吸を整えろ。自然を感じろ。魔力は心と自然を響き合わせる」


 私は森で目を閉じ、葉擦れの音や夜空の星の瞬きを心に刻んだ。

 そのたびに、暴れる魔力がほんの少しずつ静まっていく。


 けれど、失敗は数えきれないほどだった。


 灯火を生む練習で炎を暴発させ、部屋を燃やしかけたこともある。


 慌てる私に、エルド様は呆れ顔を見せつつも、微かに口元を緩め、

「火に負けるな。呼吸を合わせろ。……自然は友だ」と諭してくれた。


 私はその言葉を胸に、炎を恐れるのではなく、受け入れるという術を学んでいった。




 日常には厳しさと温もりが交互に訪れた。

 畑で泥にまみれ、足を滑らせ冷たい川に落ちて泣きながら帰った夜。

 村の子どもたちと走り回り、久しぶりに笑顔を取り戻した午後。


 そして、焚き火を囲む静かな時間。

 無口な彼が、ふと旅の思い出を語ってくれたことがあった。


「人には皆、背負うものがある。だが背負った荷を下ろせる場所を見つければ、それは強さに変わる」


 その言葉を聞きながら、私は心の中で“父”に手を伸ばすような気持ちで、師の横顔を見上げていた。

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