小さな灯火
目を覚ますと、そこは暖かい部屋の中だった。
藁の香り、薪のはぜる音、そして、どこか懐かしい優しさ。
清潔な寝台の上で、私はぼんやりと天井を見上げる。
「……ここは?」
「山の奥にある、私の屋敷だ」
炉の前に立っていた男は、静かに湯を沸かしていた。
年の頃は三十ほど、粗野な印象の中にどこか温もりがある。
「……」
私は、その大きな背を黙って見つめる。
「なぜ自分を助けたのかが気になる……という顔だな」
彼は続ける。
「死にかけてる子どもを見捨てるほど、私は薄情ではない」
短い沈黙。
けれど、その言葉の奥には奇妙な誠実さがあった。
彼の名は、エルド・バーネット。
かつて王国の魔導院に籍を置いていたが、ある事件をきっかけに姿を消した放浪の魔導師だという。
しかし、あまりにも難しすぎる言葉の羅列に首を傾げる幼い少女。そんな様子を見て彼は一つ咳払いをし、話題を変える。
「名は?」
「……レナ」
「姓は?」
「……」
そのとき、エルドは一瞬だけ私を見て、微かに笑った。
「姓が無いのか……?ならば、お前は今日から“レナ・バーネット”だ」
「……へ?」
暖炉の炎が小さく揺れた。
彼の言葉が、まるで運命を決定づける宣誓のように響いた。
私は、全てを失った中で初めて“居場所”を与えられた気がした。
____王女ではなく、ひとりの少女として。
その夜、眠りにつく前、エルドが呟くように言った。
「お前の中には、恐ろしくも美しい魔力が流れている。だが力は、制することを知る者のもとでこそ光になる」
私は小さく頷いた。
「……でも、怖い……」
「ならば、生きろ。逃げるな。お前が自分を見捨てない限り、この世界はお前を拒まない」
その言葉に、胸の奥で何かが確かに芽生えた。
それは“希望”と呼ぶにはあまりにか細かったが、確かに燃える小さな灯だった。




