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星屑と悪魔  作者: 璃衣奈
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口説かれてます(遠い目)

 なーんて決意した翌日の朝。

 布団の中で朝日の眩しさにうめいていると、なんだか妙に暖かい気がした。

 しかも何か、硬いようなものが身体に纏わりついている。私より大きくて、なんだか安心するような――――




 パチ、と目を開けた。



「おはよー」


「…………………………え」



 至近距離でにこっと笑う那由多なゆた

 目覚めたばかりの頭を無理矢理働かせて状況を呑み込む。

 なるほど、どうやらコイツが私の家に侵入し、布団に潜り込んできたらしい。

 私の腰と頭に那由多の腕が回されている。

 ……………………………………………。



「ワァァーーーーーーーーッ!!」


「朝からすごい声だね」



 慌てて布団から飛び出て、部屋の隅で「フーーッ」と威嚇する。

 ゆったりと身体を起こした那由多が、「ちょっと眠かったけど今ので目ぇ覚めたや」と言った。



「なんで! いんのよ!!」


「起こしてあげようと思ってさ。由羅李朝弱いじゃん」


「いらないわアホ!!」



 何が悲しくて朝っぱらから世界一嫌いな奴の顔を見なきゃいけないのさ!!

 ガルガル怒りをぶつけていると、ふいに那由多が不思議そうに首を傾げた。



「もしかして忘れたの?」


「は?」


「言ったじゃんか、覚悟しててねって」



 その言葉に昨日の記憶がよみがえり、さぁっと血の気が引く。



「だから口説きに来た。学校じゃクラス違うから会えないし、放課後は俺予定があるからさ」


「来なくていいけど!?」


「ヤダ。これからは毎日来るから」



 はやく下おいでね、という言葉を残して、那由多は下へ降りて行った。


 …………那由多が有言実行な人物ってことは知ってたけど、まさかここまでとは……。私があんまり言う通りにならないから、意地になったとか? いや、それならすぐに私を切り捨てるからな……。



(一体何を企んでるの……?)



 謎は尽きないが、とりあえず制服に着替えて朝食にすることにした。










 リビングに降りていくと、なんだかいい匂いがした。思わずすん、と鼻を鳴らしてしまう。

 何かが焼ける香ばしい香りだ。つられて食欲が増して、きゅぅ、とお腹が寂しく鳴く。

 もしかして、朝ごはんの匂いだろうか。

 しかしだとするとおかしいな。



(一人暮らしだし、親が作ったとかはないはずなのに……まさかっ!)



 思い至った可能性に、匂いの根源たるキッチンに駆け込む。

 そこには予想通り、私愛用の薄桃色のエプロンを付けた那由多(結構似合ってる)が。



「やっぱりお前かァ!」


「あ、ごめーん。もうちょっと待ってね、今テーブルまで持っていくから」


「いやなんで他人ん家で勝手に料理してんの!?」


「胃袋掴んどこうかと思って。はいはい通りまーす」



 どうやら作り終わったらしい。両手に抱えた皿をテーブルに乗せる那由多を追いかけて、ちゃっかり二人分ある席に顔を引き攣らせる。



「いただきまーす。あれ、由羅李は食べないの?」


「お前と同じ空間で食事とか無理」


「でもちゃんと食べないと倒れるよ? それに急がないと遅刻するよ」


「くぅ…………っ」



 ド正論をぶつけられて、しぶしぶ向かいの席に座る。

 そうして食事を開始したのだが……実に、実に悔しいことにすごく美味しい。


 程よく焼けてカリッと香ばしいベーコンに、醤油と黄身の絡みが絶妙な絶品の目玉焼き。味噌汁の豆腐は一切崩れがなくて、ピンと立った米粒とよく合う。

 完敗だ。毎日料理しているが、得意なお菓子でもなければコイツには勝てないほどの上手さだった。


 傷ついた女としてのプライドを慰めつつ、米を咀嚼して那由多を睨む。

 那由多は全然気にしていない様子で、笑みを浮かべて口を開く。



「由羅李、今日も世界一の美少女だね」


「知ってる」


「すごく可愛いよ」


「当然でしょ」



 突然当たり前なことを言い出したソイツに、訝しみの視線を送る。

 すると那由多はなぜかおかしそうに笑い出した。

 ……ほんとに何を企んでいるんだ、コイツは。




 その後「一緒に行きたい」と子供みたいに駄々を捏ねる那由多をあしらって先に行かせて、時間を置いてから登校した。

 キッチンにあった弁当箱は……まあ、作る時間がなかったから、仕方なく持っていくことにした。






 ☆☆*:.。. o .。.:*☆






 校門を抜けてぼーっと歩きながら考える。

 那由多ではなく、華道院センパイのことを。


 センパイは一体何者なのだろうか。できれば会いに行きたいんだけど……そうなったら絶対「学校一の美少女と華道院センパイが付き合ってる!」みたいな噂が立つことは確実だよね。似たようなことなら今までにも何度かあったし。



「うわ、星崎さんじゃん! 今日もめっちゃ可愛い!」


愛華アイカちゃんより可愛いって、新聞部がこの間記事上げてたぞ。写真で比較してたけど、確かに星崎さんの方が可愛かった」


「え、国民的アイドルを超えてんの? やばくね?」



 …………うるさい。

 ひそひそと聞こえてくる雑音が邪魔で仕方がない。おかげで思考がぶった斬られた。

 私が可愛いなんて当然だし、アイドルなんかに負けるような半端なビジュアルはしてない。比較するまでもないでしょうが。

 あと新聞部よ、私の写真使ったの? 許可出してないんですけど? ……うん、後でちょっとお話しに行こう。


 教室に着いて時計を見ると、ホームルームまでまだ三十分ほど時間があった。

 ……那由多のやつ、急がないと遅刻みたいなこと言ってたくせに、全然余裕じゃん。

 若干イライラしながら乱暴に席に着く。

 苛立ちを誤魔化すように指先を唇に当てて、はっとした。



(そういえば、昨日からあんまりスキンケアできてないんだった)



 それに、今朝はクズ野郎のせいでメイクもできていない。きっといつもより酷い顔をしている。急いでケアしなくては。

 慌てて化粧ポーチを漁って、手早くケアとメイクを済ませていく。


 しっとりリップで少し荒れた唇を潤して、ナチュラルピンクの口紅を挿す。

 ファンデーションで隈を消して、チークはスッピンと言っても押し切れる程度に薄く。

 アイラインは濃すぎない色を、一番細いのを使って書く。

 最後にお気に入りのイヤーカフを両耳に付けて、完成。


 うちの学校は、勉強さえしていればメイクやオシャレにはあんまりうるさくない。私は成績上位だから、一度も注意されたことはない。

 でも私はバッチリメイクよりナチュラルメイクの方が好みだから、いつもそこまでガッツリやらない。

 手鏡で出来栄えを確認して、にこっと笑ってみる。

 鏡の中の私も可愛くにこっと笑って、気分がちょっと上がった。

 まるで天使……いや妖精のようだ。自分のことだけど。



「おはよう由羅李。今日は早いわね」


「紫乃、おはよう」



 ちょうど紫乃が登校してきた。いつもより早く登校してきた私に驚いている……いや、私だって少しくらい早く来たりしますけど?? 確かに私は朝弱いけどさぁ。

 隣の席に座って「何かあったの?」と問いかけてくる紫乃。



「何かって?」


「あなたがこんな時間に来るなんて珍しいじゃない。誰かに起こしてもらったんでしょう? ……もしかして天王寺くんかしら」


「アイツの名前を出さないで吐く」



 飛び出たクズの名前に顔を顰める。

 なんでわかったんでしょうね紫乃さん。私なんにもリアクションしていないのですが。え、反応していないからこそ? ……なるほど、探偵でも目指していらっしゃるのですかね。


 親友の推理力におののきつつ、実は……と話し出そうとした時。



「星崎さん、いるかな?」



 いやーな予感と共に扉の方を見ると、知らない男子生徒がいた。

 染めたらしき茶髪を揺らしながら、自尊心が溢れまくっている笑顔で「ちょっと一緒に来てくれない?」と言われる。

 ……十中八九、告白かな。

 げんなりしながら時計を見ると、ホームルームまであと二十五分。これじゃあ時間を言い訳にできない。ちくしょう、やっぱり那由多嫌い。

 ふと周囲を見渡すと、クラス中の視線が集まっていた。中には茶髪の男子生徒に熱い視線を送り、私を嫉妬をぶつける女子も。


「そんな目で見るなら代わってよ!」と言いたい気持ちを堪え、私は諦めて席を立った。

 いつも可愛い自己肯定感MAX女子

急に幼馴染クズ野郎が「可愛い」とか言い出して「何を当たり前のことを……??」となった。自己肯定感が天元突破してる。私が可愛いのは当たり前でしょ?


 口説いても流される幼馴染クズ野郎

いつも美少女な幼馴染を口説いたけど流された。料理の腕はプロ級。これから毎日朝ごはん作りに行くつもり。

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