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結局、結論は出なかった。
お客さんを第一に考えている夢丘が自分の都合を優先することはなかった。
それでも、わたしは何とかできないかと知恵を絞り続けた。
すると、バヌアツに行けないとしても、その雰囲気が味わえるところで式を上げたらどうかという考えが浮かんできた。
すぐに、日本にあるバヌアツの大使館を探した。
しかし、日本に大使館はなかった。
外務省の海外安全情報にそのことが書いてあり、如何ともし難かった。
困った。
やっと代替案を思いついたのに、それを実現する方法がなかった。
それならと、バヌアツ料理のレストランを探したが、見つけることはできなかった。
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ネット検索に限界を感じたので、神山に相談することにした。
彼ならわたしには知りえない色々な情報を持っていると思ったからだ。
「わかりました。バヌアツに関する情報を集めてみます」
自信ありげな声がスマホから返ってきた。
西園寺にも声をかけてくれるという。
「よろしく頼みます」
二人の人脈を合わせれば必ず求めている情報に行きつくことを信じて、通話をOFFにした。
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オープン1周年記念日の前日になった。
しかし、神山からも西園寺からも連絡はなかった。
さすがの二人をもってしても情報に行きつかないのかと思うと残念だったが、仕方がないと諦めるしかなかった。
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記念日当日になった。
朝から雨が降っていた。
昼には上がるそうだが、そのあとはずっと曇りが続くという。
せっかくの記念日なのに、と思ったが、天気ばかりはどうしようもなかった。
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来店してくれるお客様には手書きのお礼カードとバヌアツ産のチョコレートを用意していた。
明治大学紫紺館の1階にある『太平洋諸島センター』で見つけたものだ。
新婚旅行には行けそうもないので、せめて何か関連のあるものをと探し出しのだ。
すべてのお客様を送り出したのは19時5分前だった。
でも、それで終わりではなかった。
1周年記念パーティーがあるのだ。
苦楽を共にしてくれた美容師とアシスタント、それに、富士澤と夢丘とわたし、加えて、オーナーの神山、更に、内装を担当した西園寺と祝うことになっていた。
場所は神山不動産が経営するホテルのパーティールームだった。
ところが、ホテルに到着すると、わたしと夢丘だけ別室に通された。
相談したいことがあるからだという。
それでピンときた。
バヌアツに関する何らかの情報が得られたに違いなかった。
一気に期待が膨らんだ。
待っていると、ホテルの女性スタッフが何やら衣装らしきものを持って、部屋に入ってきた。どこかの民族衣装のようだった。
「こちらがアイランドドレスで、こちらがナンバスになります」
ムームーのようなゆったりとした女性用の服とペニスサックの付いた腰布だった。
「皆様お待ちですので、これにお着換えください」
「えっ⁉」
思わず大きな声が出た。
アイランドドレスはまだしも、裸になってナンバスを付けるのはあり得なかった。
それを伝えると、笑い声が返ってきたが、スタッフはすぐに元の顔に戻って、「男性の方は服の上からこれを着用していただいたので大丈夫です」と当然のように言われた。
それでホッとしたが、付けてみると、違和感が半端なかった。
夢丘もおかしいらしく、口を手で押さえていた。




