表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
88/102

(4)

 

 社長に相談する前に、ホームページを確認した。

 確かに研究職の募集はあったが、品質管理部門と表示されていた。

 新薬開発の研究員ではないようだ。

 これでは食指は動かないだろう。

 ガッカリしたが、せっかく覗いたのだから、他の募集も見てみようとページを動かしていると、経営企画職という文字が目に入った。

 仕事内容を見ていくと、経営目標の策定、実施計画の立案、進捗管理などとあったが、具体的な職種として、ポートフォリオ担当というのがあった。

 見た瞬間、ピンときた。

 宮国は研究開発推進本部で正にポートフォリオを担当していたのだ。

 わたしは目を皿にして具体的な業務内容を見ていった。


 ・社内の開発品に加えて、社外の有望な開発品を見つけ出し、付加価値の高い開発戦略を立案する

 ・それぞれの開発品への投資配分を最適化し、費用とスケジュールを効率的に管理する


 読み終わった時、目を輝かす宮国の顔が思い浮かんだ。


 善は急げ!


 すぐさまQOL薬品の社長にメールを入れた。


        *


 翌日、返信があった。

 人事部長と経営企画部長を紹介するので、具体的な話はそこでしてもらいたいという。

 わたしはすぐにお礼のメールを打ち、両部長のアドレス宛に用件を記したメールを送った。


        *


 その翌日、宮国の履歴に興味がある、と返信があった。

 面談をしたいので履歴書を至急送って欲しい、と書かれていた。

 わたしはすぐに神山に電話を入れ、宮国に会うことにした。


        *


「経営企画室のポートフォリオ担当ですか?」


 久々に会って近況を報告し合った時は浮かない顔をしていたが、本題に入った途端、目を輝かせた。思った通りだった。


「QOL薬品に君のことを話したら興味を持ってくれてね。それで、会ってみたらどうかと思って」


 ホームページの求人内容を印刷した紙を宮国に向けると、食い入るように目を走らせた。


「どうかな?」


 何も言わずに文字を追っている彼に焦れたのか、神山が声を出した。

 しかし、宮国は顔を上げなかった。

 一語一語、脳に刻み込んでいるのだろう、わたしは彼が口を開くまで待つことにした。


        *


「信じられません」


 それが宮国が発した最初の言葉だった。


「こんなことがあるなんて、信じられません」


 経営企画の仕事は探したこともあったが、その時は何一つ見つからなかったという。


「うん、タイミングが良かったんだと思うよ。社長が代わって開発方針を大幅に見直している最中だから、新たな視点を持った人材を求めているらしいんだ」


 認知症治療薬の開発に失敗したあと、社長交代を機にニッチ分野へ経営資源をシフトさせていることを伝えると、宮国が身を乗り出してきた。

 そうなのだ、彼が研究開発推進本部で強くプッシュしていたのが、『大手との競合を避け、皮膚科や眼科といったニッチ領域でグローバル・ナンバーワンを目指す』という案なのだ。


「是非、お願いします」


 彼の顔には生気が(みなぎ)っていた。

 わたしは話を進めることを約束して、大至急、履歴書を準備するよう促した。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ