(3)
「宮国のことで相談があるのですけど」
スマホの声の主は神山だった。
昨日の夜、西園寺と3人で会った時、元気がなかったという。
会社に居場所がなく、といって転職する気にもならず、鬱々とした日を過ごしているというのだ。
わたしも気になっていた。
あの夜、天空のライヴレストランがオープンした夜、「俺の居場所がなくなった」と言って酒を呷る彼の姿が脳裏から消えることがなかったからだ。
しかし、開店準備に忙殺され、気にはなりつつも、時間を割くことができなかった。
「早く手を打たないと」
このままずるずるとダメになっていく姿を見たくないという。
「う~ん、そうなんだけど……」
気持ちはあっても、どうすればいいかわからなかった。
転職する気がないと言っているのに、縄を付けて無理矢理引っ張るわけにはいかない。
「せめて、配置転換してもらったらどうかな?」
「ええ、それも言ったんですが、新薬開発以外にやりたい仕事はないそうなんです」
「だったら研究部門に戻してもらったらいいんじゃないの」
「それが、ダメなんだそうです。休職して大学院に行く時に研究部門のトップとひと悶着あったらしくて、今更戻してくれとは言えないそうなんです」
進行中の新薬探索テーマを中断して休職したので、「戻る席はないからな」ときつく言われたらしいのだ。
「そうか~」
「そうなんです。で、相談というのは、高彩さんが勤めていた会社に彼を紹介いただけないかと思いまして」
「えっ、QOL薬品?」
「はい。ホームページを見たら研究者の募集があったものですから、どうかなって思って」
知らなかった。
まあ、会社を辞めてからホームページを見ることもなくなったから、知らないのは当然のことだが。
「で、彼はなんて言っているの?」
「いえ、まだこのことは話していません。門前払いされるかもしれないことを言うわけにはいきませんから」
それはそうだ。
QOL薬品が興味を示して会いたいと言わない限り、前には進めないのだ。
「わかった。どうなるかわからないけど、社長に相談してみるよ」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」




