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「助けてください」


 二人の若者が(すが)るような声を出した。

 早桐社長の長男と次男だった。

 開店準備に忙殺されている最中の訪問に面食らったが、忙しいからと追い返すわけにはいかなかった。速攻カットの経営が厳しくなっているというのだ。

 早桐社長が強引に推し進めた住宅地立地の店舗がうまく行っていない状態で、開店した店舗は何処も閑古鳥が鳴いているという。


「利益率が急速に悪化しています。このままいけば大変なことになりそうで……」


 長男が顔を歪めた。


「もちろん、私たちも『住宅地立地の店舗を閉めましょう。このまま続けたら大変なことになります』と進言しました。でも、聞く耳を持ってくれませんでした。『俺のやることに口を出すな。黙ってついてくればいいんだ!』と一括されたのです」


 余りの剣幕に口を(つぐ)むしかなかったそうだ。


「来年には赤字になるかも知れません」


 次男が心配でたまらないといった表情でわたしを見た。


「助けていただきたいのです」


 長男が必死の表情を浮かべた。


 しかし、急にそんなことを言われても返事などできるはずはなかった。

 開店準備で精一杯なのだ。

 他人を助ける余裕などあるはずがなかった。

 それでも、こんなに必死に助けを求める2人を見捨てるわけにもいかなかった。

 わたしは腕を組んだまま、どうすべきか、思いあぐねた。


        *


「何か打つ手はないだろうか」


 早桐社長の兄弟が尋ねてきた翌日、神山に相談を持ち掛けた。

 喧嘩別れのようになってしまって縁が切れた会社だったが、それでも、経営企画室長として処遇してくれた恩義のある会社だ。放っておくわけにはいかない。


「う~ん、どうでしょうね~」


 理髪業界には詳しくないから、なんとも言えないという。


「その会社が将来有望なベンチャー企業だったら融資とか経営人材の派遣とかを考えてもいいんですけどね」


 過当競争の業界で、かつ、オーナーのワンマン体質となるとリスクが大きすぎるという。


「その上、下り坂というのでは……」


 デューデリジェンス(企業価値を評価するための適正な手続き)さえできないという。


「そうだよね~」


 情を挟む余地のない明確な投資判断基準がある以上、〈そこをなんとか〉ということは言えなかった。


「とにかく、今は他人(ひと)のことに構っている暇はないのですから、目の前のことに集中しましょう」


 その通りだった。

 余計なことを考えている時ではないのだ。

 時間を取らせたことに礼を言って、会社を辞した。



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