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試験の結果、上位10名を採用することに決めた。
基本となるブラントカット(指間刈り)やチョップカット(ハサミを縦に入れて、毛先をギザギザに切ることで軽い感じに仕上げる)、セニングシザー(すき鋏)やはさみの片刃を使った髪すきなどの技術が一流で、かつ、パーマやカラーリング、洗髪やトリートメントの施術に秀でているトップクラスの美容師たちだった。
もちろん、人格的にも申し分なかったし、多くの指名客を抱えるトップスタイリストたちだけあって、笑みを絶やさず話しかける接客態度は好感の持てるものであった。
「でも、まさか全員が女性になるとは思いませんでした」
「本当だね。俺も驚いたよ」
採点結果の表を見ながら、富士澤が両手を広げて肩を上げた。
「でも、ちょっと考えないといけないですね」
「何を?」
夢丘の言っていることがわからなかった。
「女性が長く働き続けられる環境が必要だと思います」
それは、女性のライフサイクルを考えた支援のことだった。
「今は子供のいらっしゃる方はいませんけど、半数の方が結婚されていますし、いつ妊娠・出産ということになるかもわかりません。その時にしっかり支援してあげる態勢がないと辞めてしまわれる可能性が高いと思うんです」
女性が結婚し、子供を産み、子育てをする場合、夫の協力だけでは充分ではないという。出産休暇、育児休暇、時短勤務などは当然として、プラスアルファの支援が必要だというのだ。
「それは何?」
「はい。美容室の近くに保育所があれば、安心して仕事に集中できると思うんです」
「保育所か~」
思わず、うなってしまった。
超高層ビルの最上階に保育所なんてできるわけがないからだ。
そんな利益を生まない空間を企業が造るわけはない。
「う~ん、ちょっと、それは……」
いくらなんでも無理だと思ったが、夢丘の真剣な訴えを簡単に退けるわけにもいかず、神山に相談してみるということで話を引き取った。




