(10)
「定休日なのに、すみません」
吉祥寺駅前の喫茶店で落ち合った店長に、わたしは頭を下げた。
「2人揃ってなんだい? なんか怖いな」
店長は警戒するようにわたしたちを見た。
「お願いがあります」
わたしは単刀直入に切り出した。
「特別な美容室の開業準備をしています。共同責任者になっていただけませんでしょうか」
「はっ?」
口を開けたまま、一瞬、固まったような感じになったが、すぐに笑いだした。
「君たちが美容室を開業するの? 嘘だろう。冗談はほどほどにしてよ」
また笑った。
しかし、わたしも夢丘も笑わなかった。
真剣な表情で店長を直視し続けた。
「えっ、本当なの?」
わたしは大きく頷いた。
そして、六本木の日本一高いビルの最上階で特別な美容室を開業することを説明した。
「六本木?」
「はい」
「日本一?」
「はい」
「最上階?」
「はい」
「突別な美容室?」
「はい」
「個室?」
「はい」
「5万円?」
「はい」
「俺?」
「はい」
「ふ~ん」
店長は信じられないといった表情でゆらゆらと首を振った。
それでもわたしは話を進めた。
「トップクラスの美容師の採用活動も始めています」
今度は返事すらなかった。
あり得ない話に声が出ないのか、それとも、化かされているように感じているのか、どちらにしても、どう対応していいかわからないような感じに見えた。
「個人事業主として業務契約を結ばせていただくことになりますが、年収は1,000万円とお考えください」
すると彼は目を見開いて、右手の人差し指を一本立てた。
頷きを返すと、「ふ~ん」と息を吐くように言って、夢丘の顔を見た。
夢丘は頷いて、「よろしくお願いします」と頭を下げた。




