(5)
「これでいかがでしょう?」
声に反応して目を開けると、鏡の中に新しい自分がいた。
髪はかなり短くなっていた。
今までは広いおでこを隠すように前髪を下ろしていたが、おでこのほとんどが丸見えになっていたし、それに合わせるように横も後ろも短くなっていた。
でも、悪くなかった。
というより、気に入った。
おでこを出すことによって、なんか知的な感じが出ていたし、髪が全体的にふんわりとしていた。
「ふわっとボリュームが出るようにカットしました」
確かに、店長が言う通り、ペッタンコだったてっぺんがふわっとした感じで浮き上がっていた。
「パーマをかけるともっとふわっとしますが、今日はカットだけでやってみました」
どうでしょうか、というように鏡越しに見つめられた。
「とってもいいです。気に入りました」
「良かった」
嬉しそうな笑みが返ってきた。
「では、今日は初めて髪を染められるということなので、少し説明をさせていただきます」
それを聞いて、ちょっと緊張した。
染めると髪が痛むことがあると雑誌に書いてあったからだ。
「カラーリングは薬剤を使いますので、どうしても髪にダメージが出ることがあります。その事を先ず、お含みおきください」
真っ先に聞きたいことを言ってくれたので、昨日の夜に考えた質問をぶつけた。
「ダメージを与えないで髪を黒くすることはできませんか?」
「そうですね~、ダメージが少ないものとしてはヘアマニキュアというのがあります」
「ヘアマニキュア、ですか」
「そうです。ヘアカラーは脱色してから色を入れていきますが、ヘアマニキュアは脱色せずに髪にマニキュアしていくのです。爪に塗るマニキュアのことをご想像ください」
「髪にマニキュアですか……」
よくわからなかったが、ヘアカラーとヘアマニキュアの違いを解説した小冊子を見せながら説明してくれたので、理解することができた。
「違いはよくわかりました。それで、どっちがお勧めですか?」
「そうですね~、髪を黒く染めるのは初めてでしたよね。それなら、今日は髪に負担が少ないヘアマニキュアがいいかもしれませんね」
勧めてもらいたかった方を勧めてくれたので、「それでお願いします」と返すと、店長は店内を見回してから、「よしの!」と声を出した。
するとすぐに若い女性美容師が近づいてきた。
「こちらのお客様にヘアマニキュアをお願いします」
「はい。承知いたしました」
店長が離れると、「担当させていただきます」とお辞儀をした。
とても礼儀正しくて感じが良かったので、これからの施術に対する心配が嘘のように消えた。