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(2)

 

 教授が付き合ってくれたのは、1週間後だった。

 場所は大学院近くのイタリアンレストラン。

 安くておいしいと評判の店だった。


「直角教授に乾杯!」


 わたしたちがグラスを上げると、学外ではチョッカクと呼んでいる直角(なおかど)(いわお)教授も付き合ってくれた。


「4人は仲がいいんだな~」


 珍しく笑みを浮かべた教授が陽気な声を出すと、西園寺家の御曹司が両手をついて、「ご臨席賜り、この上なき幸せでございます」と頭を下げた。

 すると、教授が大きな声で笑ったので、つられてわたしたちも笑い、一気に和やかな雰囲気になった。


 生ビールが3杯目になる頃、教授に質問をぶつけた。

 それは、MBA取得後の計画を立てるにあたって、どうしても知っておかなくてはいけないことだった。


「2021年以降の日本がどうなるのか、オリンピックという国家的なイベントの終了と人口減少が同時並行する経験したことのない変換点をどう捉えればいいのか、教授はどういうふうに考えていらっしゃいますか?」


 神山が刺すような視線を向けると、教授は即座にきっぱりと言い切った。


「非連続の時代が来る! 過去の経験が役に立たない非連続の時代が必ず来る! 明治維新を考えればいい。終戦を考えればいい。既得権が消滅し、新たな挑戦者が主導権を握る、そんな時代が必ずやってくる」


 そして、具体的な企業名を上げた。


「アップルが創業して40年、アマゾンが創業して25年、グーグルが創業して20年、フェイスブックが創業して15年、アメリカの産業構造は激変した。この流れは更に加速する。その結果、革新的な技術やサービスが既存の技術やサービスを駆逐する。それも一気に。そして全世界的に!」


 それを聞いて、アメリカの背中さえも見えなくなりつつある日本の惨めな姿が頭に浮かんだが、それを打ち消すように教授が処方箋を提示した。


「昨日の次は今日、今日の次は明日、明日の次は明後日、そんな緩やかな流れに身を任せていたら茹でガエルになってしまう。だから昨日の続きを今日やってはいけない。昨日を否定して新しい今日を作らなければならない」


 それは、わたしたちの脳みそに活を入れるような強い声だったが、それで終わりではなかった。


「他社に陳腐化されるか、自らを陳腐化するか、選択肢はその二つしかない。答えはもうわかるだろう。自らの事業を他社に陳腐化される前に自らが自らの事業を陳腐化して新たな領域に踏み出さなければならないのだ。非連続の時代に必要なものは、経験ではなく、習熟でもなく、独創性と革新性だ!」


        *


 教授が帰ったあと、わたしはしばらく茫然としていた。

 それは3人も同じようだった。

 独創性、革新性という言葉が頭の中をぐるぐる回っているのは間違いなかった。

 それだけでなく、「君たちに独創性、革新性はあるのか?」と問われていることは明白だった。


 わたしに独創性、革新性はあるのだろうか?


 ワイングラスに映る自分の顔に向かって問い続けた。



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