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高校卒業後、東京で一人暮らしをしながら美容師養成学校で2年間学び、美容師の国家試験に合格して、今の美容室に就職した。
人気の街、吉祥寺の商店街の中にある名の知れた美容室だった。
その時に立てた目標は、10年後、つまり30歳までに独立することだった。
だから、生活のすべてを仕事と練習に費やした。
それでも現実は厳しく、入室して3か月間は掃除と雑用しかさせてもらえなかった。床に散らばった髪の毛の掃除、お客様が帰ったあとの床掃除、シャンプー台の掃除、窓ガラスの拭き掃除など、毎日毎日同じことの繰り返しだった。
でも、そんな状況にあっても、仕事の合間に先輩美容師の技を盗むことを怠ることはなかった。目に焼き付け、空中で手を動かして真似た。
店が閉まると、同期の新人たちとシャンプーなどの練習に励んだ。
客に見立てて練習するのだ。
毎日毎日、掃除と雑用とシャンプーの練習をひたすら繰り返した。
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その成果を披露する時がやってきた。
洗髪の試験だ。
先輩美容師を客に見立てて接客をしながらシャンプーやマッサージを行うのだ。
店長や先輩が見守る中で試験が始まった。
緊張で手が震えたが、これに合格しなければ更に3か月間、掃除だけの日々が続く。
夢丘は練習の成果を出すべく必死になって頑張った。
新人3人の実技が終わると、店長と先輩がそれぞれ採点し、その結果を店長が告げた。
夢丘を含む2人は合格したが、1人は不合格だった。
不合格だった彼女は1週間後に辞めていった。
努力した者には女神が微笑み、そうでない者には厳しい道が待っている、それが現実だった。
その後も3か月ごとに試験があった。
ヘアカラーの試験やパーマの試験などが次々と行われた。
残った2人は合格を続け、次の試験に備えて練習に明け暮れた。
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最後の試験はカットだった。
これに合格すればお客様担当になれるので、カット用の人形で練習を重ねた。
更に、閉店後、お互いの髪を切り合った。
就職した時は2人ともロングヘアだったが、今ではショートヘアになっていた。
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あっという間に日は経ち、試験が目前に迫った時、先輩美容師に頭を下げた。
カットモデルになってもらえるかどうか心配だったが、快く協力してくれた上に、貴重なアドバイスをいくつもしてくれた。
そのお陰もあって、合格することができた。
同期も合格したので、手を取り合って喜んだ。
ところが、その喜びは店長の言葉によってかき消された。
「来月、新人美容師のカット・コンテストがある。そのコンテストに参加しなさい。入賞すればお客様担当美容師として処遇する」
そんなことは聞いていなかった。
信じられなくて、唖然とした。
それでも、〈愚痴を言っても始まらない〉と気持ちを切り替えて、同意した。
ところが、同期は違っていた。「約束が違う」と憤慨して、店を辞めたのだ。
夢丘は動揺したが、同調することはなかった。
どんな困難にも立ち向かう覚悟ができていたからだ。
秋田で応援してくれている祖母の顔を思い浮かべながらコンテストに臨んだ。




