表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
100/102

(4)

 

 まさか、結婚式と披露宴を用意してくれているとは思わなかったが、それで終わりではなかった。ホテルの最上階のスイートルームを用意してくれていたのだ。


 ベッドの上には花が敷き詰められていた。

 ハイビスカスだった。

 テーブルの上には写真が飾られていた。

 一つは、美容院がオープンした時に撮った全員の集合写真だった。

 もう一つは、大学院時代に撮った4人の写真だった。

 そして、その横には色紙が置いてあった。

 美容師とアシスタント全員、富士澤、神山、西園寺、宮国が温かい言葉を綴ってくれていた。

 それだけではなかった。

 直角教授とQOL薬品の社長、東京美容支援開発の担当者のものまであった。

 その一つ一つに目を通していると、また涙が止まらなくなった。


        *


「こんなに幸せでいいのかしら」


 先程のことを思い出しているようで、夢丘はまた涙声になった。


「本当にありがたいよね。感謝してもしきれないよね」


 一人一人の顔を思い浮かべると、またグッときた。

 どれだけ助けられてきたか、

 どれだけ勇気をもらってきたか、

 どれだけ励まされてきたか、

 かけがえのない人たちに恵まれて、本当にありがたかった。


 でも、それ以上に感謝しなければいけない人がわたしにはいた。

 夢丘だ。

 彼女と出会わなかったら、

 彼女と付き合わなかったら、

 彼女がプロポーズを受け入れてくれなかったら、

 こんな幸せな瞬間を味わうことはできなかった。

 わたしは今までなかなか言えなかった彼女への感謝を口にした。


「君と出会ったおかげで人生が変わった。君と一緒に仕事を始めた時、夢じゃないかと頬を抓った。一生のパートナーとしてわたしを選んでくれた時には天にも昇る気持ちになった。でも、時々これは本当に現実なのか、ある日パッと消えてしまうんじゃないか、と不安になる時があった。それくらいわたしにとって現実離れしたことだった。もし君と出会わなかったらと思うと、ぞっとする。こんなに前向きに、こんなに生き生きと毎日を送れるのは君のお陰なんだ。世界中の感謝の言葉を集めて君に贈りたい。それでも足りないけど、毎日毎日贈り続けたい。死ぬまでありがとうと言い続けたい」


 すると、わたしの顔をじっと見ていた彼女の目に涙が溢れた。


「私こそ……、あなたの……」


 絞り出すような声が届いたが、それを嗚咽(おえつ)が覆った。

 わたしはたまらなくなって彼女を抱きしめ、唇を合わせた。

 すると、初めて抱き合った時のことが蘇ってきた。

 あの時の感激が蘇ってきた。


「ありがとう」


 そしてまた唇を合わせ、そのままの状態でもう一度呟いた。


「本当にありがとう」



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ