(4)
まさか、結婚式と披露宴を用意してくれているとは思わなかったが、それで終わりではなかった。ホテルの最上階のスイートルームを用意してくれていたのだ。
ベッドの上には花が敷き詰められていた。
ハイビスカスだった。
テーブルの上には写真が飾られていた。
一つは、美容院がオープンした時に撮った全員の集合写真だった。
もう一つは、大学院時代に撮った4人の写真だった。
そして、その横には色紙が置いてあった。
美容師とアシスタント全員、富士澤、神山、西園寺、宮国が温かい言葉を綴ってくれていた。
それだけではなかった。
直角教授とQOL薬品の社長、東京美容支援開発の担当者のものまであった。
その一つ一つに目を通していると、また涙が止まらなくなった。
*
「こんなに幸せでいいのかしら」
先程のことを思い出しているようで、夢丘はまた涙声になった。
「本当にありがたいよね。感謝してもしきれないよね」
一人一人の顔を思い浮かべると、またグッときた。
どれだけ助けられてきたか、
どれだけ勇気をもらってきたか、
どれだけ励まされてきたか、
かけがえのない人たちに恵まれて、本当にありがたかった。
でも、それ以上に感謝しなければいけない人がわたしにはいた。
夢丘だ。
彼女と出会わなかったら、
彼女と付き合わなかったら、
彼女がプロポーズを受け入れてくれなかったら、
こんな幸せな瞬間を味わうことはできなかった。
わたしは今までなかなか言えなかった彼女への感謝を口にした。
「君と出会ったおかげで人生が変わった。君と一緒に仕事を始めた時、夢じゃないかと頬を抓った。一生のパートナーとしてわたしを選んでくれた時には天にも昇る気持ちになった。でも、時々これは本当に現実なのか、ある日パッと消えてしまうんじゃないか、と不安になる時があった。それくらいわたしにとって現実離れしたことだった。もし君と出会わなかったらと思うと、ぞっとする。こんなに前向きに、こんなに生き生きと毎日を送れるのは君のお陰なんだ。世界中の感謝の言葉を集めて君に贈りたい。それでも足りないけど、毎日毎日贈り続けたい。死ぬまでありがとうと言い続けたい」
すると、わたしの顔をじっと見ていた彼女の目に涙が溢れた。
「私こそ……、あなたの……」
絞り出すような声が届いたが、それを嗚咽が覆った。
わたしはたまらなくなって彼女を抱きしめ、唇を合わせた。
すると、初めて抱き合った時のことが蘇ってきた。
あの時の感激が蘇ってきた。
「ありがとう」
そしてまた唇を合わせ、そのままの状態でもう一度呟いた。
「本当にありがとう」