第6話
ここはとある大学病院。
倒れた麻友と俺達を乗せた救急車が向かった先の病院だ。この地域では一番施設が整い病床数も多い病院でもある。
そして、ここは病室で、医師が気を遣ったのか、個室に運ばれたのが幸いでもある。ベッドに眠っているのは麻友で、俺達、不遜だが、貧乏神と一緒に彼女の様子を窺うことになった。
麻友は、大学近くのアパートで一人暮らしをしているので、両親とは離れて住んでいる。両親へは、大学から電話で連絡がされたことを聞いているが、麻友の状態といえば、ただの貧血というのが、医師の見解である。
ベッドで寝ている麻友を見ると、気持ち良さそうに寝息をたてているので、やはり、ただの貧血かもしれない。
その時、麻友が薄っすらと目を開け、意識を取り戻した。
「隼人君…私…どうしたのかしら?」
「大丈夫か? 麻友」
「うん、ありがとう。今は何ともないわ」
「何がありがとうだよ」
「そうね、隼人君は誰にでも優しいから」
「もう少し寝ていると良い。頑張り過ぎも良くないからな」
麻友の大学での評判は、誰に聞いても同じだった。向学心も強く、教授や講師の信頼も厚い。そして、それを慕う仲間が同期や後輩に多くいる。
俺の言葉を聞き、麻友はまた、夢の世界の住人となった。
気持ち良さげに静かな寝息を再びたて始めている。こうやって見ると先程のことが嘘の様で、何もなかったかのようだ。
問題なのは、貧乏神が彼女に何をしたかだ。貧乏神の奴は俺の肩辺りに住み着くように、ふわふわと漂っている。そんな奴に「おい、貧乏神。もう一度聞く。麻友に何をしたんだ?」
「幸せのおまじないでやんすよ、旦那。そんな怖い目で睨まないで下さいな」
「呪詛ではないのか? 幸せで倒れる人間など、普通にはありえないぞ」
「あっしは少し、席を外しますぜ。お二人の方が積もる話しも出来やしょう」
「おい、ちょっと待て。俺に憑いていなくて良いのか。お前、何か隠してやがるな」
「いえいえ、とんでもございやせん。じゃあ、あっしは外の空気でも吸ってきやす」
「待て、貧乏神。おい、こら、おい…」
俺が言い終える前に、貧乏神の奴は病室の窓から、すい~っと、出て行った。ここは4階のはずだが、それが気にならないのは、奴が貧乏神だからだろうか。
窓から出た、貧乏神の独り言は誰にも聞かれることはなかった。
「危ない、危ない。あっしがした事をバラすのは、神との契約に反することでやんす。旦那には悪いですがね。これを言ったら、全てが終わりでさぁ。それにしても、危ないところでやんした。あの女子、名を麻友と言っておりやしたな。旦那に恋心を秘めていやんす。旦那も悪くは思っていないときている。しかし、彼女には寿命が近づいておりやした。頭の中に腫瘍と言うものでやんすな。あっしがあれを取り出さねば、今頃は生きていなかった。ん、これが腫瘍と言うものですかい。味としては悪くないでやんすがね。神や天使の口に合う味ではありやせんな。あっしはここで高見の見物とさせて頂きやすぜ、旦那。ここで茶々を入れたら、折角の実るものも実りやせんからね」