第23話
俺の足は研究棟の1階へと、それを運ぼうとしていた。
研究棟に2階はあるが、実験室はない。1階に実験室の数はあれど、2階にそれが無いのには理由がある。
1階の実験室での不足な影響。それを考えられ、2階には対爆発措置が行なわれている。それは、1階の実験で爆発が起こっても、それらを吸収するためだ。
基本であるが、もし、実験で爆発が起こったとしよう。爆発はエネルギーを持っている。そのエネルギーは、発生場所から、上へとそのチカラを発揮する。下ではなく、上だ。
そのための防止措置が、2階の存在の理由である。2階で全てのエネルギーを吸収する、それだけだ。
そして、1階へと到着した。
俺は知らなかった。実験室で、ゼミの皆の会話を。
「鈴木さん、本田に何か変わりがありませんでしたか?」
「そうね、私も何か違うような、成長と言うのかしら、大きくなった気がするわ。麻友、何か心当たりはないの」
答えを求められる、麻友。だが、彼女には言えない事と言いたい事が、思いと確信になり、共存していた。
隼人との関係は簡単に言えない。ただ、彼が何かのチカラを得たかのように、その存在を感じた事。それと、何かの存在が隼人の近くにあった、そんな気がした事だ。
「う、うん、男らしくなったかな。少し前は、普通の男の子みたいだった。頭の良い、勉強が出来る、そんな感じだったわ。でも、今は違う。私の感じた事なのだけど、何て言ったら良いのかしら」
麻友は、隼人と貧乏神の関係を知らない。それどころか、貧乏神自体の存在を知らない。ただ、他人より、長く接していたので、そのわからない何かを、どこかで感じていた。
「人間として、そう、人間として成長したのだと思う。それと同時に、何かを自分のチカラとした、これがそう、私の感じたことよ」
「わかるような、わからないような、これは本人に確認するしかないか」
「そうね」
麻友は自分で言った、その言葉に戸惑っている。隼人の裏に貧乏神、その裏には、更に大きな存在がある。隼人でも知らない事もあるのだから、それはそう感じて当たり前か。
「皆、待って」
「麻友、どうしたの」
ゼミでの女友達である、一人だ。同性であるが故に、心配もあるのだろう。
しかし、これは麻友にも感じるような、そんな気がしただけで、確信でも事実でもない。唯一の事実と言えば、自分と隼人が、男女の関係になった事。これは言えない。
「隼人の事なんだけど、彼ね、何か大変な事に巻き込まれて、そんな気がするの。それも、私達が想像も出来ない事だと思うわ。だから、彼の負担を、いいえ、隼人を頼りにするのは良いけど、私達も頑張らなくては、そう思ったの」
「麻友、あなたは本田君の事を?」
「うん、隼人は私の大切な男性。だから、余計にそう思えるのかもしれない。でもね、何かが彼に、それがはっきりとわからないの」
麻友は、隼人の雰囲気であろう。隼人を取り囲む何かを感じ取っているのかもしれない。だが、それは麻友の目には見えず、何かが違うと感じ取れるだけだ。
隼人を中心に、貧乏神や神々、それらの思惑を知らない。これは隼人自身にも当てはまるが、もはや、人間の関する域を超えようとしていた。
そして、隼人がある決心をした事を、この時の麻友達は、何も知らない。隼人が現れるまでだが。




