第20話
実験室に残された、5人。
俺と麻友、それに、高木と山内、この二人は男で、今井さんは女性だ。この5人だけで、ゼミのテーマを決めなければならない。
麻友を含め、皆の表情は同じだ。驚きと戸惑いの表情が見て取れる。鏡があればだが、俺も同じ顔をしているのは、自分だけに尚更と良くわかる。
皆の視線が俺一人にと集中する。わかっているよ、俺だって。塚原教授の一番近くにいたのは、俺だ。それに、自分で言うのも何だが、この学科での俺の成績はトップだ。定期的に行なわれる試験。大学で行なわれるのは、近年に珍しいが、これはこの大学の方針でもある。
『天馬試験』と学生に恐れられるが、俺は今までの全てで、そのトップを大学中守り通して来た。天馬と呼ばれるのは、昔にこの地に天から白馬が降りて、そこにこの大学の元となる、学び舎が作られたと、俺はそれを噂に聞いた。
その結果で、俺は塚原教授に誘われ、このゼミに参加することになったからだ。
「隼人、どうしたら良いのかしら、私達。自分で決めろと言われても、ねぇ?」
麻友は縋るようにと、話しかけて来る。
「本田、何か案があるのだろう?」
「私達、どうなるのかしら、本田君?」
「そのように頼られてもな、俺も同じ学生だぞ、知ってたまるか」などとは、現状からは言えるはずもなく、「そうだな」と、曖昧な返事しか出来なかった。いや、出来るはずが無い。
気が付くと、貧乏神の奴が戻って来ていやがる。俺の窮地を楽しんでいるのか、奴は。宙を漂い、またどこかのアイドルの歌を、口ずさんでいやがる。
そうか、こいつの研究でもするか。これが出来れば、そう思ったが、何の役にも立ちそうにない。
それを知らずか、貧乏神の呑気な言葉が聞こえる。
「旦那、あれですぜ。あれにしたらどうでやんす」
「あれとは何だ?」
「あれはあれでさぁ」
「お前、俺をからかっていやがるのか」
「とんでもございやせん、そんな恐れ、いや、そんな事はできやせんぜ」
何かを言い含んでいる。それが少し気になったが、俺が知らない事を奴が知っているのか。こいつは、絶対に何か隠していやがる。だが、奴に言われると、ある考えが思い浮かんだ。
ああ、そうか。一つだけだが、考えがあった。これしかない。いや、今はこれしか思い浮かばない、そう言うのが正解だろう。
『無レベル遺伝子操作』、これか。
今の遺伝子解析、操作技術は有機物。要は、生きているもの。人間であれ、植物であれ、全てには命があり、生きている。
在りきものから、その遺伝子を解析し、操作するのが全てだ。だが、俺の思案は違っていた。
この世の存在は、全てが『0』と『1』の組み合わせ。簡単に説明すると、『オン』か『オフ』だ。コンピューターの基礎がわかる人なら、理解出来るかもしれない。コンピューターのプログラムの基礎は『機械語』と言われ、その処理は『0』と『1』で行なわれている。
動植物のDNAのスパイラルも、これらの組み合わせだ。それにより、全てのものには、何であろうと、特定の遺伝子がある。空気でも、そこら辺りに転がっている、石にもだ。
この解明が出来れば、世界が変わる。世の常識が、根底から覆される事になる。それ故に、俺はこの考えを『封印』していた。
塚原教授にも、それは話していない。教授は人間ではないものから、人間を生み出そうとして、神々の怒りに触れた。
俺の考えは、もしかすると、いや、たぶん、そうなるだろう。塚原教授のそれを、軽く超える。
これしかないのだが、迷うより困る。これをゼミのテーマにする事は、麻友も一緒だ。学生である俺達が、何故に危険を犯す必要があるのだ。確実に神の怒りに触れるのも、今の俺にもわかる。
貧乏神の奴は、これを知っていやがるな。本当の目的はこれか。そう思ったが、確信を得るには至らなかった。
これは、良く考える必要がある。
「少しで良いので、考えさせてくれ。そうだな、昼食後にここで、全てを話したい」
「隼人、私も」と、麻友が言いかけたが、「ごめん、一人にしてくれ」そう言い、俺は実験室を飛び出した。




