第18話
世界が反転するような、この感覚。何かが確実に迫って来ている。以前の俺なら、わからなかったであろう感覚。だが、今の俺は違う。貧乏神の出現と同時に、色々な体験をして来た。例え、それを俺が望んでいなくてもだ。
目の前の土が盛り上がって来る。正しくは、お釈迦様の目の前の道路だ。そして、それらはその姿を現した。
人間ではない、いや、人間のカタチをしているが、人間ではないモノ達。数は100を超えるかもしれない。その口から、異様な声だろうか、唸りのようなおぞましい声が聞こえる。
その中で、一番大きいと思われる、モノが脅すように、お釈迦様へと迫る。
「おい、婆さん、どきな。俺の名は百目。そこの人間達は俺らがもらうからな。邪魔すると、怪我するぜ」
「お黙り」
言ったのは、お釈迦様である。たった一言であるが、これが勝負を決した。
「はい、すみませんでした」
答えたのは、百目と名乗った、モノだ。
何なんだ、この茶番劇は。いや、それ程に、お釈迦様のチカラが強いのか。これが、お釈迦様の口喧嘩なのだろうか。目の前のモノ達、土蜘蛛衆は、まさに蜘蛛の子を散らすように、土の中へと帰って行った。
「終わりましたよ、本田君。では、鈴木さんには、起きてもらいましょうかね」
そう言い、指で丸を作る。
「本田君、私は用事があるので、先に行ってますね。彼女は大丈夫。気を失ったことも、覚えていませんからね。それと、隠れている、御仁。逃げなくても、取って食べたりはしませんよ」
俺は先に行く、お釈迦様を見送る形になり、いや、そうすることしか出来なかった。迫力に圧倒されたのかもしれないが、事なきを得たのは、結果的に歓迎すべき事である。
「バレてやしたか。怖いお方ですぜ、寿命が1000年ばかり縮む思いでやした」
隠れていたであろう、貧乏神が姿を現し、さも恐ろしそうに呟く。
目を覚ました麻友が「隼人、行きましょう。和泉さんだったわね。きっと教授かしら。お手並み拝見と行きましょう」
「おい、麻友、相手はお釈迦様だぞ。口達者で、天界の神々も、それを恐れるくらいだ」そう言いたかったが、それを言えるわけがない。
「そうだな、ゼミのことも心配だ。行こう」
そう言い、麻友と一緒に大学の門を潜った。