第17話
駅から大学までは、歩いて約20分。
大丈夫、そう思っていたが、いくら走れど、お釈迦様の姿が見えない。
嫌な予感がする。いや、これは俺の予想であるが、当たって欲しくはない。
大学の中に入っているとも、少し考えたが、それは時間的に不可能だろう。まだ、お釈迦様と別れて、10分と経っていないからな。まあ、空でも飛べれば別であるが、それを実行するとは思えない。大学までの道は、一本道だが、それなりに人目がある。
「方向音痴め、迷いやがったな、お釈迦様のくせに」とは口には出せないので、それを心の中で叫んだ。
あの時に俺は説明をしたはずだ。
「この道を真っ直ぐに進んで下さい。その突き当たりに、高天原大学が見えます」と。途中に脇道はあるが、ほぼ、一本道と言って良い。どうやったら、道を間違えるのだ?
事情を知らない、麻友が疑問の声を上げる。
「隼人、どうしたの? もう、大学は目の前よ」
そうだ。今、俺達は大学の正門に着いている。その間に、お釈迦様はいなかった。
「旦那、大学にはいやせんぜ、お釈迦様は。あっしには、それくらいなら、気配でわかりやんす」
貧乏神が言うのなら、間違いないだろう。問題は、土蜘蛛衆という奴らだ。あの時、あの場所にいた、人間といったら、俺と麻友しかいない。言い方を変えれば、土蜘蛛衆の狙いは、俺と麻友だと言える。
「貧乏神、土蜘蛛衆の気配はわかるか?」
「へい、集まって来やすぜ、この大学にでやんす」
これでは迂闊に動けない。大学の中へ入れば、誰かを巻き添えにしてしまうだろう。戦うかと思ったが、人間の俺にそんなチカラは無い。
「麻友、俺を信じて、俺から離れるなよ」
「う、うん、わかったわ」
引き返すか、そう思っていた時だ。
その姿を見付けた。
「本田君だったわね。無事に着けたみたいで安心したわ。私ね、実は方向音痴なのよ」
「知ってますよ、それくらい」と言いたかったが、それを言えるはずもない。一先ず、これで安心して良いだろう。お釈迦様だからな。頼みましたよ。
「隼人、こちらの女性は?」
「塚原教授の後任で、和泉さんだよ」
和泉さんの職務が定かではなかったので、教授とは言わなかったが、年齢を考えると、教授以上だと思われる。
「あ、私、隼人、本田君と同じゼミの鈴木麻友と言います。よろしくお願いします」
「はい、こちらこそ、宜しくお願いしますね。その前に、一仕事しましょうか、本田君」
「お気づきでしたか。宜しくお願いします」
俺が言うと同時に、麻友が意識を失い、俺の胸に顔を埋めるように倒れて来た。
「鈴木さんには、少しですが眠ってもらいました。本田君は、そのままで、少し下がって見ていなさい」
これが、お釈迦様の宣戦布告なのを、この後に知ることになる。
いつの間にか消えている貧乏神。奴め、逃げやがったな。そんなに、お釈迦様が怖いのか、この臆病者め。心の中でそう罵ったが、奴が現れる気配は感じられない。