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第16話

 お釈迦様を見送った後、駅前で待っていた、麻友の方へと歩みを進める。

 約束通り、猫の像の前で独り俺を待っていてくれた。

「お待たせ、麻友」と言いかけたところで、彼女が抱きついて来た。少し恥ずかしかったが、それに応え、俺も彼女を強く抱きしめる。

「麻友?」

「うん、もう少しだけ、このままでいさせて」

「ああ、俺も同じ思いだよ」人目があったが、それらは一切気にならなかった。ほんの少しの別れの時間だったが、それを長いと感じていたのは同じである。

 暫く忘れていた感情。愛しく思える気持ち。これが本当の『愛』であろう。

 しかし、それは奴により、見事に破られた。

 姿を消していた、貧乏神の奴がすう~っと帰って来たのである。

 こいつは一体、何を考えているんだ。俺と麻友に気を遣ったと思えば、何なんだ。少しは空気を読みやがれ。

 そして、俺の肩の辺りをそわそわしながら漂い始めた。

「旦那、旦那、急ぎやしょう。復讐に来やすぜ、土蜘蛛衆が」

「それがどうした」

「いやね、長である、塚原教授の件でさぁ。地中に封じ込まれた、その復讐でやんす」

「それなら、俺には関係の無い事だ。それに、塚原教授は今は病院だぞ。文句があるなら、神に言うのが筋じゃないのか」

「へえ、その通りでやんす。実は病院と見せかけて、実は神に地中に封じられていやす。それにですぜ、奴らはそれを、人間が悪いと思い込んでいるようで」

「もしかして、俺の考えている事がそうだとしたら、いい迷惑だ。俺は関係無いからな」

「当たりでやんす。土蜘蛛衆は、あの場にいた人間全てを自分達の住処(すみか)である、地中へと引きずり込むつもりでさぁ」

 そうか、姿を見せないと思っていたら、貧乏神はそれらを探っていたようだ。

 俺の目の前、麻友の後ろであるが、そこに浮いていた貧乏神が焦りの色を見せる。だが、こいつは『サタン』と名の知れた、悪魔。しかも、堕天使で、悪魔の王とも言われているはず。その奴が、何故に土蜘蛛衆などの小者に恐れる理由があるのだ? 

「おい、貧乏神」

「へい、旦那」

「全てはお前に任す」

「へい、って、ダメですぜ、旦那」

「何でだ。土蜘蛛衆くらいなら、お前の手に掛かれば、赤子の手を捻るより、軽いのではないのか?」

「いえね、それはそうでやんす。でも、今のあっしには、それが出来ませんぜ」

「なぜだ?」

「契約でやんす。神との大事な大事な、契約でやんす。あっしの悪のチカラを使うのは、契約で禁じられているんで、無理ですぜ」

 貧乏神がここで嘘をつくとは思えない。どうやら、信じるしかなさそうだ。しかし、俺にどうしろというのだ。

「それで、俺は何をしたらいいんだ?」

「へい、お釈迦様にお願いするしかありやせん。正確には、お釈迦様の口喧嘩でやんす。天界の神々と言えど、口喧嘩ではお釈迦様には敵いやせん」

 これをどう受け取ったらいいのだ。

 仕方がない、お釈迦様を追い掛けるか。今から走れば追いつくだろう。麻友には理由が言えないな。そもそも、貧乏神が見えていない。俺にしか見えない、世界一不幸な人間か。その世界一不幸な人間に、まだ自分でも納得出来ないが、ここで考えても仕方あるまい。

「麻友、理由は聞かないでくれ。走ろう」

「えっ、隼人、どうしたの?」

「行くぞ」

 そう言い、俺は麻友の手を取り走り出した。

「巻き込まれてたまるか」そう思いながら。

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