⑤種明かしと悪い予感とクラスメイト
幻想種のフェンリルの「咆哮」。
これはフェンリルが咆哮を上げるとその方向に小型のフェンリルの姿をしたエネルギー体が飛んで行き、対象を襲う。
複数の対象に複数飛ばす事も出来るが、エネルギーを一点に集中させると本物と同じサイズのエネルギー体が強敵に向かって襲い掛かる。
アヴァロンからやってきた(らしい)王剣使いアーサーのセレナの権能は「三日月」。
飛ぶ斬撃。刀を振るうと斬撃のエネルギーが前方に飛ぶ。
神話の冠は召喚獣が幻想種の王剣使いが使える権能だ。幻想種の力を自身のものとして扱える。
セレナは王剣使いとして幻想種にカウントされるのか、僕は神話の冠を使えた。
そして主の従者の従者は主の従者、ということなのだろうか。
僕は神話の冠でセレナの召喚獣の能力とセレナの権能を自身の物として扱えた。
これによって幻想の力と権能二つの組み合わせで色んなことが出来るが、今回は単純に、セレナの飛ぶ斬撃に「咆哮」の最大火力のエネルギーを融合させ、巨大強力な斬撃にした上にその斬撃を僕の権能オーダー、「過剰加速」で加速させて威力を底上げしてはなったのだ。
従者の剣身で全ての能力が強化された状態で放ったのだ。
一級協会会員の星幽形態をミンチにして訓練場を全壊させるほどの威力が出て当然だ。だがしばらく使いたくないのは、今僕が保健室のベッドで天井を見ている理由の説明にもなる。
咆哮
三日月
神話の冠
従者の剣身
過剰加速
同時に使うには例の「息を止める」極限の集中状態が必要な上、使う数が増える分負荷が上昇するのだ。
二個までは普通に使える。三個以上はフロー状態にならないと駄目だ。最大まで使うと一撃打っただけで血を吐いてぶっ倒れる。
「一夜く~ん……起きてますかあ~」
ドアが開いて間延びした女性の声が聞こえた。
「はい、起きてます」
僕はベッドから身体を起こした。
敷居のカーテンを開けて入ってきたのは、仔猫を思わせるどこかふんわりとした雰囲気の女性で、肩まで伸ばした黒髪は少し癖があり、どう見ても僕と同い年にしか見えない、幼い風貌の女性だった。だがスーツを着ている。
「あの、どちら様ですか」
「あ、えっと、その、あなたの所属することになる特別クラスで担任をすることになった、咲川百音です。よろしくねっ。今通常授業が終わって、これから実技演習なの……今日は一夜君を参加させるわけにはいかないけど、見学くらいどうかなって」
やっぱり通常のクラス分けはされないか。特別クラスと聞いて檀上の声や後ろの席の座席を蹴る音を思い出したが、いや後ろ向きな考えは駄目だもしかしたら僕みたいな特別な事情がある生徒が集められたクラスかもしれないじゃないかと思い直し、クラスメイトの顔を確認しに行こうと思った。
「もう大丈夫です。見学くらいなら行けます」
「ちぇっ、ずっと寝てればよかったのよ。モルモットならそっちの方が好都合でしょ」
「先生、この演習の勝ち負けは成績に影響しますか」
後ろ向きな考えで、そのまま早退すれば良かったと思った。